最近若菜付き合い悪くね?そーか?だって放課後さっさと帰んじゃん。毎日クラブあるわけじゃないんだろ? なーに、お前らそんなに俺に構って欲しいの?モテる男は辛いぜ。うわなんかムカツクー!…もしかして彼女か!? お前女できたんだろ!にやにやしやがってこんにゃろっ!



花紡ぎ
HANATSUMUGI



「なにしてんの?」
「花冠。知ってる?」
「おう!にしても、へったくそだなー。全然できてねえじゃん」
「あら、じゃあきみは作れるの?」
「任せとけ。俺それ超得意」


はいつも白詰草の花畑の真ん中に座っている。
周りには他にもっと目立つ花があんのに、いつだってここにいる。


「あ、そーだ。髪弄ってやろうか?」
「……きみは私のことを知っているのね」
「きみじゃなくて若菜結人。一ヶ月くらい前のとも知り合いだぜ」
「そう。そんなに前からここに来てるの…暇なの?」
「違えっつの!俺だって忙しいからここに来るのは暇なときだけ。昨日のとは会ってねえし」
「それじゃあ、一昨日の私は?」
「……会った」
「暇なのねえ」
「おっま、まじで失礼だな」
「そんなこと初めて言われたよ」
「嘘じゃねえのがムカツク…ものすっげー笑える髪型にすんぞ」
「わかくんの腕前がその程度なら仕方がないけれど」
「このやろ」

さん」

「またこんな所にいらしたのですか。そろそろお戻りになってください」
「もうそんな時間?」
「今日はお客様がお見えになる日ですので」


勝手にうろちょろしてんじゃねえよめんどくせえな。


やべ、油断した。今まで一度もここに俺と以外のやつが来たことがなかったからって気ぃ緩みまくり。
はっきりと頭の中で響いた声にそれ以上聞かないように首を振る。
…にしても、外側と内側が違いすぎだろこいつ。高そうなスーツ着てどこの紳士かと思えば口悪いな。


「…そちらの方は?」
「私の知り合いよ。一ヶ月前の私のことも知ってるみたい」
「あ、どーも」
「そうですか。申し訳ありませんがさんはこれから予定がありますのでお引き取り願えますか?」
「あーはい。んじゃ、またな
「ばいばい」


長居は無用、よっこいせと立ち上がってに声を掛ければ返ってくるのはいつもの笑顔といつもの言葉。
こいつ、またって言わないんだよなー。ま、今日のとはもう会えないんだからしょうがねえんだけど。
それでもちょっと寂しいとか思わないでもない俺。また会いたいって思われてえじゃん。


「失礼、花びらが付いてますよ」
「、ッ!」


―だから俺、気ぃ緩めすぎなんだって。
髪に触れた手を叩き落とす。だめだもう遅い。 頭が割れるように痛いってこーいうことか…なんて、暢気に考えてる場合じゃねえぞまじで。

俺の都合なんてお構いなしに聞こえる声は強い感情であるほど聞こえやすい。
強い感情を抱いているやつに触れられたともなれば、触れた部分から相手の声が勢い良く流れ込んでくるんだ。


ナンダコイツマタクルツモリカヨコノオンナノシリアイ ナニイッテンダカバカジャネエノイルワケネエノニドウセアスニナレバゼンブワスレチマウノニヨ ツーカイッカゲツッテコイツコノオンナノコトシッテンノニアイニキテンノカヨ モシカシテコイツカネメアテカフザケンナコッチハコンナメンドウナコトマデシテセワシテヤッテンノニコンナヤツニ――


濁流みたいに俺の身体中を駆け巡る声 コエ こえ
不快感に満たされる。真っ黒い感情が喉を塞ぐ。くるしいくるしいいっぱいくるしい、

心臓の辺りをぐっと握って口を押さえる。俺の意思とは別の場所で感情が暴れ出す。

このまま意識を飛ばせば楽になれる?だめだ、気分最悪のまま目が覚めて周りに知らないやつがいたらまた声が入ってきちまう。 追い出せ、追い出せ!なにか別のことを考えるんだ。呑まれんなよ俺、しっかりしろ! サッカーやってるときみてえに一つのことに集中すれば他人の声なんか聞こえなくなんだろ。


――、―――。―――――ッ!


傾いた身体をスーツに支えられて余計に苦しくなるのに突き飛ばす余裕もない。
やめろ触んなほっとけ。頼むからほっといてくれよ!
目の前で倒れそうなやつがいたらこうすんのが当たり前なんだろうけど俺にとっては大きなお世話だから。
耳から聞こえてくる声と頭ん中で喚く声のギャップに酔いそう。ついでにスーツの香水も混ざってもうまじ最悪。
このぱりっとした高そうなスーツに吐いてやろうか。人前で吐くとかぜってーヤだけどな!

嫌悪憎悪困惑嫌悪不快不快不快―!
ぐるりと回る。息ができない。色んな声が喉を塞ぐ。逃げられない。きもちわるい


わかくん


ふわり、指先にふれる、


「立ち眩みがしたのね」
「立ち眩み?」
「落ち着いたらちゃんと戻るから、先に帰っていて?」
「ですが、」
「お客さんが来る前には戻ります」
「……。わかりました」


少しずつ波が引いていく。それでもまだ一人で立っていられない俺を、スーツと代わってが支えてくれた。
全体重を預けてるわけじゃないけど俺の方がでかいからちょっと大変そう。
やっぱりそうだったのか、俺を支えながらゆっくりと腰を下ろしていく。
これ以上迷惑はかけられない。ぐっと力を入れてから離れようとしたけど、ふわりと触れた手によって俺は再びの頼りない肩口に重たい頭をもたげた。


「わかくん、苦しいときは一人で頑張らなくていいの。楽にして」
「…や、もう平気、だし。戻んねえとなんか言われんじゃね?」
「私は大丈夫。こっ酷く叱られたとしても、明日の私は憶えてないもの」


よしよし、よしよし。 ふわふわと俺の髪を撫でる手、に触れた部分から伝わる泣きたくなるくらいやさしい声が俺の感情には混ざらずにするりと溶ける。
耳を揺らす楽しげな声は、俺を塞いでいたドロドロの声たちを呆気ないほど簡単に消し去ってしまった。


「「大丈夫。大丈夫だよ」」


二重になって聞こえる声が、どちらも同じ言葉を紡いでいるから――。


、俺っ……、おれ、くるしいんだ。もうやなんだ、」



モノトーンに怯える



変化のない日々に嫌気が差した。単調な毎日は俺の身体を少しずつ蝕んでいく。
でも、俺の日常は俺以外のやつにしたら非日常とかいうやつで…。
変化が欲しい。俺の異常さが消えてしまえばいい。俺は俺自身から逃げ出したくて堪らなかった。



03 | top | 05