ねえ、それどうしたの?ん、なに?肘。擦り剥いてるわ。あぁ、これなー。練習中にちょっと。 痛い?や、そんなに…って待て待て押すな!痛くないんでしょう?アホか流石に痛ぇよ!…そう。 はいそうですだからもう止めてくださーい。……え、なにこれ日本語通じない系?もしもーしさーん? ……、…え、まじでなにこれイジメ?あら、人聞きの悪い。見たままを言っただけだし。で、どしたの? それは私が訊きたいわねえ。ハイ?きみは今、泣いても怒ってもいいんだよ。それなのにやっぱり笑うんだもの。 …笑えるほど痛いんデスー。てかお前だって派手に転けても泣かねえじゃん。私はいいの。はあ?―だって、 「 」 だけどね、わかくん。きみは違うよ。
花紡ぎ
HANATSUMUGI 「…結人、」 握り締めた手が、 「――たとえば、記憶に墓場があるとする」 声が、 「、は?なに言ってんだ」 ふるえる。 「いいから聞けよ。そこにはさ、忘れられちまった記憶が埋まってんだよ」 「墓なら当たり前じゃない」 「まーな。そんで、そこに一つ、花の匂いがする墓があんの。白詰草の花冠が置いてある墓」 いつもの調子で喋っても震える声は誤魔化せる筈がなくて、 それなのにこいつらは心配するどころか呆れたような声で言葉を返す。 あーあ、ほんと、バカだよなあ…。俺も、こいつらも。 互いに気づいてるのに気づかないふりして、いつも通りであろうとする。 一馬も英士も、強がりで意地っ張りな俺を知ってるから、俺のへったくそな笑顔にも付き合って。 「大きさは他のと同じだけど、その中には忘れられちまった記憶が他より沢山埋まってんだ」 けどさ、わかってんだ。訊かないだけでお前らが俺のことすっげぇ心配してくれてんの。 ―だって聞こえちまうんだもん。今も、今までも。 俺ばっかずるくてごめんな。いつもいっつも、お前らに甘えて、ごめん。 「多分、ほんとは一つも忘れたくなんかなかった 記憶」 はああ、深く長く息を吐く。 落ち着け、落ち着け。大丈夫だ。俺はここで倒れたりなんかしない。呑まれない。 俺の喉を塞ごうとする花びらなんて残らず全部飲み干せばいい。 ゆっくりと呼吸を整える俺を待つように、足元に落ちる二つの影は動かない。 ひとつ、ふたつ、みっつ、溶けていく花びらの最後の一枚が消えて、握り締めた手から力を抜いたと同時に静かな声が響く。 「―ねえ結人。それ、誰の話?」 顔を上げてしっかりと前を見れば、俺に向けられた二つの視線はただただやさしく凪いでいた。 「俺の大事なやつの話」 「一番?」 「ちっげえし。俺の一番は俺。で、お前らとか今話したやつはそん次くらいなー」 「あっそ」 「嬉しいクセに照れちゃってえ」 「バカ言ってないで早く行けよ」 「あ?」 「その人に会いたいんでしょ」 全く世話が焼ける 聞こえてきた二つの声は呆れているようで、だけどやっぱりあったかくて、 「……お前らさ、俺のことすっげえ好きだよな」 「うーわ。英士なんか言ってやれよ」 「気持ちが悪い」 「ひっでぇ!」 + 多分こっちの方なんだけど…! 意識して聞こえないようにしたことはあっても、意識して聞こうとしたのは初めてだ。 設楽が歩いて行った方を追いながらあいつの声を探す。 に会う前に確かめねえと。 だって、聞かないようにって逸らしてたけど、俺にのことを話す設楽の声はほんとはすげえ痛そうで、泣きそうで―、 「設楽!」 人混みに紛れていた設楽の腕を掴んで引き留める。 驚いたようにびくりと跳ねた身体。だけど振り向いた顔は平然としていて、俺の顔を見ると少しだけ眉を寄せた。 「……なに」 「もしかしてお前、に忘れないでって言ったこと、あるんじゃねえの…?」 「未来のサッカー選手がこんなことで息切らしちゃっていいの?今から練習だろ」 「頼むからはぐらかすな」 腕を掴む手にぐっと力を入れて真っ直ぐに設楽の目を見れば、設楽は逃げるように目を逸らして溜息を吐いた。 「…あるよ」 「どうなった?」 「俺の所為での中から一つ消えた」 「……それってもしかして、…涙?」 「正確には泣き方、かな」 涙は出るけど泣き方は忘れちゃったもの いつかそう言ってわらっていた彼女を思い出す。 あのときは相変わらず意味わかんねえって流したけど、違ったんだ。 「俺ね、怖くなって逃げたの。―最低だろ?だからほんとは若菜にどうこう言える立場じゃねえんだ」 「…じゃあ、お前なんであそこにいたの?」 「……。昨日お前が携帯投げていなくなった後、俺あいつとちょっと話した」 「え?」 「あいつ言ってたよ、憶えていたいって。きっと、――」 |