かくれんぼだろうが鬼ごっこだろうが、鬼役になっても積極的に行動したことはありませんが何か。



after world



「それでですね藤村さん、光宏さんって言う笑顔が素敵な爽やか幽霊について何か知ってたりしませんか?」
「ちょお待って、流石の俺でも何の説明もなく言われたら意味わからん」
「幽霊なんだからそんな細かいこと気にしないでくださいよ」
「幽霊に人権ないん!?」
「藤村さんにはないかもしれませんねー」

酷いだとか傷つくだとかぎゃいぎゃい騒がしい金髪幽霊はこの際スルーして近くにあった信号機に腰掛ける。
幽体だから本当はすり抜けちゃうんだけど、こういうのはイメージが大事だ。座ろうと思えば座れるんですとかそんな感じで。 そこいらの幽霊とは違うあたしなら物凄い頑張れば本当に触れたりするけど疲れるし面倒だからやらない。 翼だったら頑張らなくても物にも人にも触り放題だということをここに付け加えておこう。彼は反則技の塊だ。

「冗談はこの辺にして。その幽霊さん実は10年程前から現世を彷徨ってるらしいんです」
「そんならもう居らんちゃう?」
「あたしもそう思ったんですけどー、無駄に何年もふらついてる幽霊があたしの目の前にいるんで可能性としては捨てきれないかなーと」
「そりゃ随分男前な幽霊やろ」
「無駄にふらついてるんですから何か情報ください」

彼特有の軽口はこちらもかるーく流してさっさと本題に入る。
藤村さんが何年前に亡くなったとか何十年現世を彷徨っているのかなんて知らないけど 神出鬼没で無駄に行動範囲の広い彼だから、現世の人間や幽霊事情に無駄に詳しいというあたしの予想も強ち外れてはないだろう。 長年幽霊やってればそれなりに力も強くなるだろうし。

「光宏なあ……そや、この辺ふらついとるんに一軒家にずーっとひっついてるヤツおったな」
「それっていつ頃からですか?」
「せやな、5年くらい前とちゃう?」
「うわー曖昧」
「しゃーないやろ、俺かていっつもこの辺ふらついとるわけちゃうし」
「一軒家に張り付いてる幽霊、ね。光宏さんは行動範囲広くて活発な方らしいですけど」
「全くの別物かもしれんけど、エライ爽やかでこの辺詳しかった気ぃすんで」

確かに10年程前からこの辺りをふらついているという光宏さんならこの街について詳しくもなっているだろう。
爽やかなのも当て嵌まるし、一度その一軒家とやらに行ってみるとしよう。

それからまたどこかへ消えた藤村さんのことは気にせずに彼の情報を基に件の一軒家へ向かう。
いつぞやの御曹司の時といい、あたしはいつから探偵になったんだ。


「やだなー犬いるし」

外から見た限りでは幽霊の気配は感じない。仕方がないと中を確かめるために近付いていくと、どうやらこの家の主は屋内で犬を飼っていることに気がつく。 ミニチュアダックス的な小型犬ならまだしも、どうしてあんなデカイ犬を中に入れているのか不思議でならない。 生憎犬には詳しくないのでよく分からないが、きっとゴールデンなんたらとかラブラドールなんたらに違いない。大きさからしてその類だ。

「文句言っても仕方ないだろ」
「だってアイツラ見えるじゃないですかー。あたしのことは見えないかもだけど気配くらいは感じるだろうし」
「動物は第六感が優れてるからね」
「あーやだほんとやだ絶対吠えられる」

尚もぐだぐだと文句を言うあたしに嫌気がさしたのか、スパルタ鬼上司は勢いよくあたしの背中を蹴り飛ばした。
痛い痛いと背中を擦る頃にはあっという間に家の中

「お邪魔しまーす……こらこらイヌくん、そう吠えるんじゃありません」

予想通りあたしの気配を感じ取ったのか突然吠えだした犬に家人が不思議そうに首を傾げる。
所構わず吠えていることからしてやっぱりあたしの姿は見えてないらしい。 あー良かった。これで見えてたりしたらあたしが行く先々についてきて吠え続けたに違いない。 番犬としては素晴らしいと思うけど、静かに暮らしたい幽霊からしたら迷惑極まりない。

そこでふと考える。こんな煩い犬が家を守ってるんだったら件の幽霊さんだって家には入れないんじゃないか?

「てっちゃーん、鉄平ー?洗濯物畳むの手伝ってー」
「はーい!」

ぱたぱたと慌ただしく階段を下りてきたちびっこくんは、どうやら鉄平くんと言うらしい。 見たところ小学校に上がったか上がる前か、多分それくらい。 頼まれたとはいえちゃんと手伝うなんて偉い偉い――と、なんの感慨もなく頷けばいつの間にやらやって来たらしい少年の咳払が一つ。

「別にサボってなんかないですよー。 幽霊が張り付いてるっていうから、もしかして家人に悪影響とかないかなーっていう確認的な」
「何も言ってないだろ。それで、お前の考えはどうなの?」
「影響なさそうですねー。至って健康、てか幽霊の気配すら感じません」
「藤村が言ってた家はここで間違いないわけ?」
「はいー。外にもいませんでしたし…散歩中なんですかねー」

どこを探しても見当たらない幽霊さんの行方を適当に考えつつ、他を当たるべきかと思考を巡らせる。
藤村さんだってここにいるのが光宏さんかは知らないわけだし別人の可能性も高い

「お母さーん、みっくんなんでこんなに吠えてんだ?」

宥めるためなのか犬の背を撫でながら不思議そうに首を傾げるちびっこの言葉に同じく首を傾げるあたし。
それに気づいた翼が訝しげな視線を向けた。

「ねぇ翼さん、近頃の一般家庭では犬にあんな名前付けるんですか?」
「そんなのボクが知るわけないだろ」
「みっくんねぇ……」

妙な引っかかりを覚えて更に首を傾げる、というより倒すと頭が重かったのか身体ごと傾いた。
腕組みして斜めに傾いた状態でぷかぷか浮かんでいるあたしは今日も今日とてやっぱり異様だろう。
見えないからいいんですけどねー、なんて自己解決していれば聞こえた「みつひろ」という名前

「翼さーん、あの犬の名前みつひろらしーですよ」
「死んだヤツと同じ名前なんてついてない」

笠井少年が探している幽霊の名前は光宏、そしてこの家の犬の名前もみつひろ、それならこの家に張り付いてる幽霊の名前は…? 単なる偶然だといえばそれまで。 だけど死んで初めて鋭くなったあたしのシックスセンスとやらは遠慮がちではあるもののこの偶然が気になって仕方がないらしい。

「これは是非とも散歩中の幽霊さんに会いたいですねー」