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人助けが趣味だなんて、一端の幽霊に求めるのは止めていただきたい。



after world



小羽優花 永遠の14歳。3年とちょっと前に運悪く事故に巻き込まれ生涯を終えました。
終わった筈なのにどうしてまだこんなところでぷかぷか浮かんでいるのかといえば、 実はあたしが100年のただ働きが嫌で地上に降りてきた天使だからです。……なんて、半分くらいは嘘だけど。

「おいそこの怠け者」
「はいはーい?」
「返事してんじゃねぇよプライドないわけ」
「死んだとき肉体に置いてきちゃったんだと思いますー」

相変わらず上司であり先輩である見目可愛らしい少年はその愛らしい顔を歪めて溜息を一つ。
呆れ顔がデフォルトなのは今に始まったことじゃないので仕方がないとして、折角のお人形のような顔が台無しですよ。 そんな台詞を口にすれば一瞬の後にあたしという存在が抹消されることは明らかなので、心に秘めておくだけにするあたしは賢い子だと思うのです。 別にあたしは自画自賛するほど自分大好き人間じゃないけれど、目の前に反面教師がいるとこんなことを思って現実逃避したくもなるわけで、

「よお姫さん、相変わらずの姫っぷりやなあ」
「そんなに現世の未練断ち切りたいならボクが直々に手伝ってあげようか?」
「姫さんのやり方ってごっつ乱暴そうやから遠慮しとくわ」

「ぼくって繊細やからー」とか何とか言ってる金髪の幽霊は存在ごとスルーして、ふと視界に入った影に意識をシフトする。
ばっちりと目が合ったその人は、見たところ幽霊ではなさそうだ。というか、間違いなく生きている人間だろう。
3年も幽霊をやってればこういったこともそれなりに慣れるもので、霊感ある人ってやっぱりいるんだなあとその人を見続ける。

「何や優花ちゃんどこ見てん?」
「あー…あの人、さっきからずっとこっち見てるんですよねー」

金髪の幽霊 基 藤村さんの言葉で天使もびっくりなスマイルを貼り付けていた翼がふとその表情を変えた。
3人の幽霊にガン見されてさぞ居心地悪かろうと少しだけ同情するけれど、あっちが目を逸らさないんだから仕方がない。
売られた喧嘩は買うよろしく、こっちが先に逸らしたら負けた気がするじゃないか。 ――というのはただの建前で、ようするに暇なのだ。だからもう暫くあたしの暇つぶしに付き合ってね、お兄さん。

「アイツ…」
「藤村さんならともかく翼のことまで見えてるなんて、随分霊感が強い人みたいですねー」
「なんや姫さん知り合いか?」
「そんなわけないだろ。…優花、あそこに幽霊いるから行ってこい」
「えー、どこですかあ?」

本当は目を逸らすのは嫌なのだけれど、鬼上司をシカトするわけにもいかない。
仕方なく示された方へと視線をやればぷかぷか浮かぶおばあさんを発見。

それじゃあちょっくら行ってきますか。
霊感少年との睨めっこは2人に任せて一先ずあたしはおばあさんの下へ


「こんにちはー、お散歩ですか?」
「こんにちはお嬢ちゃん。行きたい場所があるんだけどこの体でしょう?上手く歩けなくってねぇ」
「何ならお手伝いしましょうかー?」
「あらあら良いの?それは助かるわ」

いえいえこちとりゃそれが仕事ですから。
喉まで上がってきた台詞を文字通り飲み込んでにっこり営業スマイルを浮かべると、おばあさんもほんわか笑顔で応えてくれた。
お年寄りっていいなぁ。あたしもこんな風に可愛く年を取りたかった。

「じゃあ行きましょうか」

おばあさんへ右手を差し出し彼女がしっかりと掴んだことを確認して上へと向かう。
時間にすれば1分も掛からないだろう。物分かりの良いおばあさんで助かった。


そんなこんなで再び下へ降りてくれば、未だに睨めっこが続いていて驚いた。
確かにそんなに時間は掛かっていないけれど、霊感少年もいい加減どこかへ行けばいいのに。

「お帰りー」
「ただいまでーす。無事におばあさん送り届けてきましたー」

笑顔で出迎えてくれる藤村さんとは対照的に、働けと命を下した鬼上司からは何の言葉も返ってこない。
ほんとに相変わらずだなぁと思いつつ不毛な睨めっこに参戦しようと視線を落とす。

「これって声掛けた方が良いんですかねー?」
「掛けたとこで聞こえるん?」
「かなり強い力みたいだし、多分聞こえると思うよ」

翼がそういうのには理由がある。
霊感がある人が見る幽霊というのは藤村さんのように現世をふらふら彷徨っている幽霊のことだ。 あたしも幽霊ではあるけれど、天使とか悪魔とか死神的な役割があるので、そこいらの幽霊とは立場が違う。
そしてそんなあたしよりも遥かに高い立場にいる翼の姿が見える人間なんて何千分の一くらいの確率でしか存在しないのだ。
つまり、先ほどからあたしたち3人を見続けている彼は滅多にいない強い霊感の持ち主だということ。


「ちょっと声掛けに行ってきますね。ついでにここら辺の幽霊スポット聞いてきますー」

ついでも何もそっちが本命だろ、という少年のお小言は聞き流してふらりと霊感少年の下へ向かう。
目の前までやってきたあたしに驚いたように、彼はその丸い目を更に丸くさせた。

「どうもこんにちはー。もし時間に余裕があるんでしたらいくつか質問に答えてもらってもいいですかー?」
「……キミ、幽霊?」
「そんな感じですー」
「キミみたいな幽霊初めて見た」
「そりゃあたしみたいなのはレアですからね、お兄さん運が良いですよ。おめでとうございますー」

質問したのはこっちなんだけど、仕方がないからそこは大人になって我慢しよう。
驚きはしたものの怖がる様子のない霊感少年はあたしから目を逸らさない。

「えーと、この近くでふらふらしてる幽霊がいたら教えてくれませんか?」
「…あそこにいる2人は抜いてってことだよね」
「はいー。あの人たちの存在は一先ず忘れちゃってください」
「知ってるけど、教えるには条件がある」
「……ちなみにどんな?」
「俺をある幽霊に会わせて欲しいんだ」


見えるんだったら自分で探せよ。
笠井竹巳と名乗った霊感少年は、笑顔を引きつらせたあたしを見て小さく微笑んだ。