「会えなくなってもずっと俺はイリオンを見守ってるよ――Ich liebe Sie.Danke.」 after world
「へー、それで結局姫さんのお陰で例の御曹司は無事上へ行ったわけや」 「そうなんですよー。何だかんだで翼さんのお手を煩わせてしまったわけですー」 気の抜けるような温度のあたしの言葉に斜め後ろから視線が突き刺さる。 縁側で飲むお茶よろしく、今日も今日とてぷかぷかと浮かびながら世間話をするあたしと藤村さんはやっぱり異様だ 「浮かれてる暇があるならさっさと次のヤツ探せよ」 和やかなムードを壊すのは鬼上司である可愛らしい少年で、ちょっと前に彼こそが真の天使だと思ったのが嘘のよう そんなことを口にしたら酷い目に遭うことはわかっているので胸の内に止めておく。 「次ですかー……どうですか藤村さん、いい加減行きません?」 「嫌やわあちゃん。そないなけったいな場所行ってしもたら最後、二度とちゃんとデート出来へんようになってしまいますやろ」 「それなら来世で付き合いますから、どうぞ気にせず行ってください」 「無理無理。こう見えて俺 現世に未練タラタラなん」 「あーそうですか」 「なんやあ、御曹司ん時は手伝う言うたのに俺やとあっさりスルーなん?ほんま自分ツレへんなあ、」 つまらない茶番に付き合うのにも飽きたあたしは大きく伸びをして欠伸を一つ 幽霊になって一番の不満が、食欲や睡眠欲といった人間の持つ最大の欲求がなくなったことだ。 食べる楽しみがないなんてつまらない。昼寝が出来ないなんて暇つぶしにもならない。 それでも欠伸は出るもので、退屈そうなあたしの頭を小突く手が一つ 「なんですかあ翼さん」 「何ですかじゃないよ。不細工な顔さらしてる暇があったらさっさと働く」 「そりゃ翼さんに比べれば不細工な顔ですけど、これでも人並みだったんですよー」 やってきそうなお小言を避けるために下へと視線を向けると、天はあたしに味方したのか待っていた人影が現れた。 「あ、イリオンさんだ。……元気そうで何よりですねー」 天城さんが亡くなったのは病室で、間違っても橋の上ではない。 ないのだけれど、彼女はあの日以来この場所に毎日訪れては途中で摘んだと思われる花を添えていく。 あの日以来毎日――というのは天城さんを無事に上へ連れて行き再び下へ戻ってきたあたしに藤村さんが教えてくれたことだ。 生前と同様、幽霊にもプライバシーというものがあるとあたしは判断しているため、 今回協力してくれた藤村さんにも天城さんが上へ行った経緯についてあまり詳しいことは話していない。 それについて彼が不満を表すこともないのでこの件はこれで終わりだ。 「さあて。翼さんが怖いですし、そろそろ次の迷子を探すとしますか」 永遠の14歳。職業は天使だか悪魔だか死神だか知らないけれど、今日も今日とて迷子の幽霊を探しています。 |