久しぶりに戻ってきたこの場所は、相変わらず忙しそうだ。



after world



現世を彷徨ってた幽霊を連れて来てはいたけれどいつも入口付近までしか来ていなかったので、こうして奥まで入ってきたのは5年とちょっとぶりになる。 懐かしいとかそんな感慨深さはちっとも浮かんできやしない。だってあんま良い思い出ないし。 身に覚えのないというかどう考えてもあたし悪くないのに罪を着せられて理不尽にも100年のただ働きを強いられそうになった場所だ。
100年に比べれば5年なんて短いもの。あのとき食い下がって良かった。5年とちょっと前のあたしの判断は正しかったよ。

「ちょっとそこのアホ面、チンタラしてんなさっさと歩け」

……正しかったけれど、頼んだ相手は悪かった。ドンマイ5年とちょっと前のあたし。
これ以上ゆっくりしていると鬼上司のオーラで消されてしまいそうなのでさっさと歩くことにしよう。
あたしが家族の夢の中に入ったのはこの為だったのだ。最後の一人、14人目をあたしにする為には彼らに会う必要があった。



が家族に会ってちゃんと話をすればお前の未練が消える」
「……いやいやいや意味わかりません、てかだってあたし未練もなくあっさり上に行ったんですけど、」
「その時は現世に留まるほどの未練がなかったからな。でも長い間コッチにいたからが気づかないうちに縛られてたんだよ」
「え、でもあたし一度上行ってるのに今更そんなの関係するんですか?」
「確かに上には行ったけど、門は越えてない」
「門?」
「あぁ、転生する時に潜る門だ。アレを越えない限りリセットはされないからね」
「なるほどー。でも未練とか言われても特に思い浮かばないんですが」
「ま、お前に未練があるってわけじゃないからね」
「…つまり?」
「いつか自分で言ってただろ『現世に留まる魂は何かに縛られやすくなる』って。つまりそういうこと」
「未練についてはわかったんですけど、それが消えたら何か良いことあるんですか?」
「縛られてるお前は現世を彷徨うヤツラと似たような状態なのはわかるだろ? だから未練がなくなれば上へ行けることになる。――要するに、が最後の一人になれるんだよ」
「!、……だから帰らせようとしてたんですねー」
「お前じゃこの方が楽かと思ってね。…ま、でもは会いたくないみたいだし?精々あと1人必死で捕まえれば」



少し前のことを思い出すと自然と苦笑いが浮かぶ。最初からそう言ってくれれば文句言わずに会いに行ったのに。
ふらついてる幽霊を捕まえるより断然楽だと思えば会いたくないとか言ってられない。それに、会って良かったと思うし。
あたしも並んだ覚えのある大量の魂がいる場所を通り過ぎて歩き続けていれば、徐々に辺りには人気がなくなり自然と静かになってくる。 ちょっと離れた場所にある大きな門が翼が言っていたそれなのだろう。後であたしも通るんだよなー。

「止まって」
「着いたんですかー?」
「あぁ。すぐ終わると思うから大人しくしてろよ」
「了解ですー。ところで誰に報告するんですか?」

カーテンのような物の前で立ち止まり、今更の質問を投げかける。 少年には「仕事が終わった報告しに行くから」としか言われてないのでその相手がわからない。 翼より上の立場の人だと思うけど、今まで彼の上司には会ったことがないのだ。代理で来た2人は翼の部下に当たる立場だったし。

「言ってなかったっけ?」
「だから訊いてるんですよー」
「ボクより立場が上のヤツで、わかりやすく言えば最高権力者」
「……、もしかしてそれって所謂 神様じゃ、」

予想の範疇外だった相手に思わず口許が引き攣る。てか神様いるのかって訊いたとき知らないって答えてたのに…!

「功刀、連れて来たよ」
「おう入れ」

しかも何か知り合いっぽいんですが。てか最高権力者にタメ口で良いの?アウトじゃないの?
半ば混乱気味の頭だが足はしっかり動いてくれた。少年に続くようにしてカーテンを潜る。 ゆっくりと視線を上げて行くと、いかにも高そうな…それこそいつか翼が座ってたのより豪華な椅子に座るツリ目の男の人と目が合った。 わお、迫力満点。玉座が似合いますね王様。違った、神様だ。

「27390、。後は全部報告書の通りだから」
「14人やったか、お前にしては随分かかったとね」
「ボクの所為じゃない」
「そげんこつ知っとーと…やったな、お前ん噂ば聞いとおよ」
「え、あ、はい」

突然話を振られてびくりと肩が跳ねる。ここで下手なことしてもっと働けとか言われるわけにはいかない。
緊張で固まるあたしに神様はニッと笑い「椎名相手や思って楽にしなんね」と、のたまった。
黒川さんと同じくらい男前だ。寛大だ。お言葉に甘えてふにゃっと力を抜けば、隣から呆れたような溜息が漏れた。

「椎名に5年も下ば居させるヤツがおるとはな」
「…はあ、」
「好きでいたわけじゃないよ」
「何度か松下んオヤジが行けっち言うてたんに、いっつも誰かに押し付けてたヤツん台詞じゃなか」
「余計なこと言うな」
「今は俺んが上の立場たい、口の利き方には気をつけんね」
「…ちっ」
「で、。これでお前ん罪は帳消したい、償いば終わりや」
「ありがとうございますー」
「特に問題もなかけん、もう行ってよか。あの門越えたら転生とよ」

その言葉にへなりと笑みを浮かべ、深く頭を下げる。これで面倒なことともオサラバだ。全部忘れられる。
用は済んだしさっさと門へ向かおうと踵を返そうとした時、鼓膜を破壊するんじゃないかと思うほど大きな声が響いた。

「カズさあああん!」
「せからしか!客ば来るけん静かにしてろっち言うたったやろ」
「すんませんカズさん!」
「で、今度はなんばしよっと?」
「それが…あー!椎名帰って来よったんかあ、久しぶりやね」
「高山は相変わらず騒がしいね」
「つーこつは、この子がちゃんね!?俺は高山昭栄、カズさんの秘書ばい!」
「……はあ、」

突然現れた色々とデカイ人は、あたしの右手を両手で握りしめるとぶんぶんと上下に振りまわした。
キラキラした瞳の高山さんとは違い、彼の背後に見えるカズさん?は不機嫌そうに眉間にくっきりと皺を寄せている。
心なしかひんやりとした空気が漂ってきてるんだけど、お願いだから巻き込まれる前にこの手を離して欲しい。

「ショーエイ!」

雷が鳴ったのかと思った。流石神様、大迫力です。