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「さいごに会えたのがあなたたちで良かった。会いに来てくれてありがとう」



after world



「へー、じゃあ玲さん何にも言わなかったんですね」

無事にお姉さんを送り届けて帰って来た少年が言うには、結局彼女は翼と一緒に過ごした時のことを思い出したのかそうでないのか言わなかったらしい。
事実がわからずとも彼の中では納得がいっているのか、彼女の話をする少年はいつも通りというか何やらスッキリした感じだった。
ついでに言えば仕事もせずぷかぷかと浮かぶあたしに斜め後ろから視線が刺さるのもいつも通りなのでスルー。

「それよりあと1人なんだからさっさと働け」
「わかってま、……今なんて?」
「さっさと働け」
「もうちょっと前をお願いしますー」
「あと1人なんだからって言ったの。ほんとすぐ忘れるよなお前」

たった今のことを忘れるなんて何たらかんたらと続く小言も今はどうでもいい。
慌てて振り返り確認した言葉に驚いてぽかんとしていれば、それに気づいた少年が少しだけ顔を歪めた。

「それ以上ブスになりたいわけ?」
「それは勘弁。じゃなくてですね、あと1人ってどういうことですか?」

だってあと2人の筈だ。最近連れて行ったのは元フリーターのお姉さんだけで、それ以降はさっぱりなのだから。
そしてそのことは監視役である翼だって知っている筈で――意味がわからず眉を寄せていると目の前の少年に鼻で笑われた。相変わらず酷い。

「ボクがあと1人って言ったら1人なんだよ」
「や、意味わかんないです」
「クダラナイことに頭使ってる暇あるなら働け」

言うや否や肩を突き飛ばされて体勢を崩す。ふらつく体を元に戻して少年を見上げれば、ぷいっと顔を逸らされた。
……もしかして、もしかするんだろうか。
お姉さんを連れて行ったのは翼で、あたしは何もしていない。それにわざわざ送り届けなくとも彼女なら自然に行けただろう。
素直じゃないと言うか何というか。へなりと笑えば突き刺さる視線の量が増した。

「翼さん、ありがとうございますー」
「何が?てか何ヘラヘラしてんの気持ち悪いんだけど」

飛んでくる言葉の暴力を聞き流しつつ緩む頬を止めることはしない。 彼の口が悪いのも態度がデカイのも最早デフォルトなので、そう毎回気にしていたらキリがないのだ。
不機嫌オーラを放つ鬼上司から素知らぬ顔で視線を逸らすと、偶然とある白い部屋が目に入る。
数時間前まで綺麗なお姉さんがいたその部屋は、今はもう棚の上のテディベアも日替わりで中身の変わる花瓶もなにもない。
きっと明日辺りには新しい人があの部屋で暮らすのだろう。――時は待ってくれないのだから、

「…痛いんですが」
「ボクの前でボケッとしてるのが悪い」
「何ですかその理不尽な理由は」
「文句ある?」
「ないですよー」

コツリと小突かれたというか、ゴツンと嫌な音を響かせた頭を押さえて振り返れば可愛らしい少年の不機嫌顔と目が合った。
ジャイアニズム溢れる言い分には全く納得できないが、これ以上痛い思いはしたくないので口を噤む。 今すべきことは天使サマに文句を言うことではなく、ふらついている幽霊を捕まえることだ。 だからもう、空っぽになった部屋を振り返ることはしない。


「自分から会いに来てくれる幽霊とかいないかなー」
「そんな変わり者待つより優花が自分で捕まえる方が早いだろ」
「どっちもどっちな気がしますー」


小羽優花 永遠の14歳。今日も今日とて幽霊には逃げられるんだろうけど、そんな天使とか悪魔とか死神的な仕事からもそろそろ解放されそうです。