天は二物を与えずとか言うけれど、強ち外れてはないかもしれない。 after world
永遠の14歳。うっかり生を終えてからあっという間に5年経ちました。 5年と言えば小学生が…小学生のまま、中学生は高校生に……うん、なんだか微妙な感じなので止めておこう。 取敢えずあたし個人の話をするならば、順調に生きていれば今頃大学生とかになっていた筈だったりするんだけど―― 「自分で死んどいて未練あるとか何なわけ。未練残すくらいなら自殺なんてしなきゃ良かっただろ」 「まあまあ、きっとあの人にも色々あったんですよー」 さよならあたしのキャンパスライフ。何が悲しくて日がなぷかぷか浮かんでなきゃならないんだ。 しかもいつも以上にご機嫌斜めな鬼上司を相手するとかほんとあたし可哀想だと思うの。 大人しい人が怒ると怖いって言うけど、大人しくない人だって十分怖いよ。 見目可愛らしい少年がこんなにご立腹なのはあたしがさっき連れて行った元フリーターのお姉さんが原因なのだ。 「色々って何?そんなの生きてりゃみんな同じなんだよ」 「死んでからも色々あるくらいですからねー」 「元はと言えばお前がさっさと連れてかなかったからボクまで長々とクダラナイ愚痴に付き合わされる破目になったんだからな」 「でもそのお陰でスッキリして大人しく行ってくれたじゃないですか」 「そんなの結果論だろ」 「そーですけど」 「何度も言ってるけどお前は」―と続くお小言を右から左へと受け流しつつ、少年に気づかれないように欠伸を一つ。 何だか突き刺さる視線の量というか痛さ?が増したような気がするけど、それもスルーしておこう。触らぬ天使に祟りなし。 「――と、言うことで 仕事に行ってきまーす」 「ハ?何その接続詞意味分かんない」 「アッチの方に幽霊の電波じゅしーん!」 つまりまぁ、逃げるが勝ちとかそんな感じで。幽霊の電波改め気配を感じたのは本当だし、心だけでなく体にまで風穴が開く前にさっさと移動を開始する。 逃げたところで監視役の鬼上司があたしから離れるわけないんだけどね。 「結局このザマかよ」 「この数年で門前払いされるセールスマンの気持ちが痛いほどよくわかるようになりました」 加えて言えば強面さんの気持ちもよくわかるよ。人の顔見て逃げ出すとかほんと傷つくから止めて欲しい…のは嘘だけど、ムカツクから一発殴らせろ。 生まれ変わったらセールストークだけは聞いてあげるようにしよう――聞くだけで買わないだろうけど。 しょげたふりして手頃な太さの木の枝に腰を下ろせば、相変わらず不機嫌モードの翼が可愛らしい顔を歪めて見せた。 そう何度も同じようなお小言を繰り返されるのはご免なので、目を合わせないように細心の注意を払う。彼の小言は耳にタコなのだ。 だけどこうしていてもそのうち怒りだすのは目に見えているから、彼の気を引くというか、話を逸らせるものでもないかと視線だけで辺りを探る。 「…あれ?」 斜め下へと向けた視線が別のものと合わさる。近くに人が沢山いることは知っていたけれど、まさか目が合う人がいるとは思わなかった。 ――言いかえれば、あたしに気づく人がいるとは思わなかった。どうしようかと考えていれば、同じく目が合ったことに気づいた相手が口を開く 「そんなところにいると危ないわよ」 「あーはい、えっと、良い天気なんで木登りしたくなっちゃいまして」 「確かに良い天気ね…でも、落ちて怪我でもしたら大変よ」 「そうですね、下りることにしますー」 遠回しではあるものの危ないから下りなさいと言われているようなのでここは大人しく従っておこう。 口振りからしてあたしが幽霊だとは気づいていないみたいだから、それらしく手と足を使って下りることも忘れない。 あたしが見えるとあれば彼女は強い力の持ち主なのだろう。いつの間に姿を消したのか、天使サマは見当たらない。 翼が見える人なんて極々稀にしかいないけど、念には念をと言ったところか。 彼があたしに負けず劣らず面倒事を嫌うのは熟知しているため、特に気にせず彼女のもとへと足を運ぶ。 「元気なのは良いけれど女の子なんだから気をつけなくちゃ」 「すみませんー」 「私の方こそお節介でごめんなさいね。口煩いって嫌われちゃうかしら?」 「いえいえ、こんな綺麗なお姉さんを嫌ったりなんかしませんよー」 「上手ね。でも私お姉さんなんて歳じゃないのよ」 「ほんとですか?十分お若く見えますよ」 営業モードではあるけれどただのリップサービスじゃなくて殆ど本心だ。 失礼にならない程度に彼女を観察する。どこぞの金髪幽霊と同じ…いや、落ち着いた雰囲気からしてもっと上かもしれない。 女性に年齢を訊くのはタブーなのでこの話はこれくらいにするとして、兎にも角にも大人の魅力たっぷりなお姉さんと言ったところか。 「―そうなの、楽しそうね。……もっとお喋りしていたかったけど時間切れみたい」 そうして暫く他愛もない話をしていたけれど、気づいたように告げられた言葉にぱちりと瞬きを一つ。 少しだけのつもりが結構話していたかもしれない。残念そうに肩を竦める姿は綺麗というより可愛らしくて、つい笑ってしまった。 「また会えた時にでも名前教えてくれるかしら?」 「喜んでー。そしたらお姉さんも教えてくださいね」 「えぇ、勿論。話し相手になってくれてありがとう、とっても楽しかったわ」 びっくりするほど綺麗な微笑みを残して彼女は身を翻した。女のあたしがドキリとしてしまうくらいだから、男だったらイチコロだろう。 あたしが黙って見送ったのはまた会うつもりがないからだけど、彼女が「またね」と言わなかったのはあたしと同じかそれとも――、 「まだ若いのになー」 さっきまで開いていた窓はたった今通りかかった白い服の女の人が閉めて行った。当然だがその際 窓の外にいるあたしに気づくことはない。 普通の人間らしく地面に付けていた足を離して一気に飛び上がり、ついでに建物からも距離を取る。 いつの間に姿を現したのか、天使サマの痛い痛い視線を斜め後ろから感じた。 「あの人、見えるわけじゃなかったんですね」 個人的には幽霊のつもりだけど、曲がりなりにも天使とか悪魔とか死神的なポジションだったりするわけで、 お迎えが近い人間には稀に見えることがあるのだ。それは霊感の類とは違うため、あたしを見ることが出来ても普通の幽霊は見えないだろう。 間近で向き合ってみてわかったけど彼女に霊感はないみたいだし。 まだまだこれからの時に生涯を終えるのは残念だろうけど、感じの良い人だったしきっとすぐに転生できるだろう。 てか寿命なんてどうしようもないし。あたしには関係ないというのが本音 さて次はどこに行こうかと何気なく振り返れば、何だかよくわからないが難しい顔で眉間に皺を寄せた少年と目が合った。 |