「生まれ変わったらちゃんと一緒に生きたいわ」



after world



「藤村さんが神出鬼没だったり上に連れて行った人のこと訊きたがるのはちゃんと理由があったんですねー」

今日も今日とてぷかぷか浮かびながら、所々にぽつりぽつりと爪楊枝で穴を開けたような空を見る。
きっと今頃 金髪幽霊は無事に上へ辿り着いただろう。約束通りあたしに連れて来てもらったと告げていてくれると助かる。
あの幽霊についてはまだ色々とツッコミ所が残るけれど、過ぎたことなのでもう忘れよう。てかメンドクサイ。
だけど一つ二つ気になることがあるのでくるりと斜め後ろを振り返る。

「翼さんはいつから知ってたんですか?」
「アイツが付き纏うようになってすぐに調べた」
「あー、だから見張りがどうとか言ってたんですねー」

資料見放題な少年のことだから予想は付いていたけれど、やっぱりそうだったのかと頷く。 もう一つ気になっていることもあるが、多分そっちも予想通りだろう。 行動範囲が広かったり全体的に力が強かったのはきっと、身体に害を与えない程度に色んな生きモノから生気を奪っていたとかに違いない。 その程度なら罪にはならないと思うし、割とすんなり転生できる筈。あの人間から奪った生気はちゃんと全部返したしね。

ぐぐっと大きく伸びをして首を回す。まだダルさは残るが受けたダメージもだいぶ薄れた。
生身の人間だったら間違いなく死んでたし、普通の幽霊だったら綺麗さっぱり消えてたなー。 我ながら無茶な賭けに出たもんだ。
あの金髪幽霊が良心とか情とかに流されてオーラを消してくれたからあたしはまだここにいる。
まあ多分それプラス可愛らしい天使サマが何かしてくれたんだろうけど、アッチが何も言わないのでコッチも知らんぷりを通そうと思う。 第一お礼を言ったところで、思い上がるんじゃねーよとか耳と心に痛い台詞が飛んでくるに違いない。


「そろそろ移動するよ」
「はーい……あ、やっぱりちょっと待ってください」
「…なに?」
「忘れ物ですー」

すぐ戻ってきますから、と一人で平気だと言外に含めやる気なく笑えば鬼上司は訝しげな視線を寄こしながらも何も言わない。
それを良い方に判断して「じゃあちょっくら行ってきまーす」とふらりとその場からいなくなる。 監視役の少年が非常事態以外であたしから目を離すのかと言えば首を捻ることになるけれど、姿さえ消してくれていればいないと判断出来るのでどうでもいい。



「――あぁ、そうだ。その件に関わったヤツは残らず片付けとけ。…わかった、また連絡する」
「わーお、リアル悪代官みたいですねー」

机に腰掛けたまま茶化してみれば、携帯を耳に宛てたままの背中が大きく震えた後に向きを変えた。
夜なのに部屋の電気も点けないなんて、目に優しくない人だなー。

「な、なんだテメェ!どこから…不法侵入で訴えるぞ…!」
「警察なり何なりお好きにどうぞ?ま、やれるもんならって話ですがー」
「この…!」

いくらカッとしたからって携帯を投げるのは良くないと思う。
あたしの顔を目がけて飛んできた携帯電話は、当然だけどあたしに当たることもなくすり抜けて激しい音を鳴らす。携帯が壊れたらどうすんだ。 典型的な逆上型であるこの人間のことだから、今はそんなこと気にする余裕もないのだろう。
そんなどうでもいいことをぼんやり考えている間にもあたしに向かって色んなものが飛んでくる。いい加減学習すればいいのに。

「何で当たらないんだっ!?お前一体…!?」
「これはこれは気が付きませんで。お初にお目にかかります、わたくし…あーでも名乗ったとこで意味ないですね。止めておきます」

にっこりと営業スマイルを浮かべるあたしとは対照的に目の前の人間の顔は恐怖に歪む。
そんなに怖がられるなんて心外だ。嘘だけど。

「まあ一応ご挨拶だけはしておきましょうか。改めましてこんばんは――そして、さようなら」

「く、来るな!近づくな!……お前一体何者なんだ!?」
「そんなことよりあんまり後ろへ下がると危ないですよー」
「うっせぇこの悪魔が!これ以上近づくんじゃねぇ!!」
「あれーそんなもの信じてるんですかー?まあ強ち外れてもないですけど、どっちかって言うと今は」

「  」

にっこり笑うあたしを驚愕に見開いた双眸に映し込んで、彼はあたしの視界から消えた。


「あーぁ、だから危ないって言ったのに」



「お待たせしましたー」
「バカ」
「うわー帰って来て早々悪口とかー」
「お人好し」
「今度は何ですかー?」
「薬漬けなんだからが駄目押しなんてしなくても勝手に落ちてたよ」
「幻覚って怖いですねー。でもうっかり飛び降りちゃうなんて、よっぽど怖いものでも見えたんでしょうね」
「死神でも見えたんじゃない?」
「あーそれは怖いかも」

くすくすと笑うあたしに翼は相変わらずの呆れ顔。それでも可愛らしさは健在だ。

「いつまでも笑ってんな。用が済んだならさっさと行くよ」
「はーい、了解でーす」


永遠の14歳。天使とか悪魔とか死神的な役目のお陰で丈夫な自分にちょっぴり感謝したりしつつ、今日も今日とて幽霊を捕まえに出掛けます。