メンドクサイメンドクサイメンドクサイ。取敢えず一発は殴らせて。



after world



「みーつけた」
「おわ!見つかってもうた!…ってこれ何ごっこなん?」
「鬼ごっこは疲れるのでかくれんぼだと助かりますー」
「ちゅーことはアレか、見つかってしもたからこれでゲームオーバーやな」
「そうですねー。だから藤村さん、その物騒な邪気さっさと仕舞ってください」

営業モードでにっこり笑えば、お世辞にも爽やかとは言えないオーラを纏った金髪幽霊もいつも通り笑う。
彼との距離は数メートル。普段より大きめの声で話さないと聞こえ難い程度。 藤村さんを軸に半径1mくらいを球状の嫌なオーラが包んでいるため、あまり近くまでは行けないというか行きたくない。
だって痛そうだしアテられそうだし。近づきすぎてうっかり消されちゃったら大変だ。

「それは聞けへん頼みやな」
「別に頼んでるわけじゃないですよ」
「ほな命令か?」

頼みだろうが命令だろうがそう簡単に聞いてくれるような性格じゃないことくらいわかってる。
でもここで簡単に諦めたら後から来る鬼上司がそれはそれはお怒りになること間違いないのでもうちょっと頑張ろうと思う。

「どっちにしても聞いてくれないんでしょう?」
「よお分かっとるやん」
「ですよねー。……でも、じゃあ何であの人が死ぬことをあたしに教えたんですか?」
「そんなん簡単や。ちゃんが困っとったら、男としては力貸したなるやろ」
「今も十分困ってるんですけどねー」
「好きな子困らせたくなるんも男の性やで」
「あたしはてっきり止めて欲しいのかと思ったんですけどね」
「ほんま自分あっさりスルーしよるなあ。てか止めて欲しいてなん?」
「わかりませんか?」
「ちっともわからへんわ」

そう言って藤村さんは笑うけど、纏うオーラの質が更に嫌なものになったことに気づかないほど間抜けではない。
火に油を注いじゃったみたいだけどきっと可愛らしい少年が何とかしてくれた筈なのでスルー。 どうやらこのネタを引っ張るのは危険らしい。でもこれはちゃんと確かめておきたいんだ。

「あたしに教えなければ邪魔されることもなく簡単に殺せたはず。翼だっているし、捕まる可能性も十分にあった。 わざわざリスクを負ってまで教えたのは、藤村さんがあの人を殺してしまうのを止めて欲しかったからじゃないですか?」
「相変わらず面白いな。けどちゃう、ただ捕まらへん自信があっただけや」
「どうして?」
「姫さんやったら色々知っとるやろし、俺がアイツの最期見に来たとこを捕まえよう考える思たからな。 やったらそれまで捕まらんしアイツの苦しむ姿見れへんのは残念やけどこのまま隠れてればええやん。 ちゃんがコッチ来ることは一応考えとったけど、それくらいどうにでも出来る」
「うわーあたしってそんなショボイと思われてるんですね、残念です」
「幽霊歴やったら俺のが断然上や、それなりの知恵も力もあんねんで」

「お前の場合知恵の持ち腐れだね」

「お、何や姫さん。お早い到着で」
「お疲れ様ですー。あの人どうなりました?」
がソイツ怒らせてくれたお陰で辛うじてまだ息はある程度」
「わざとじゃないんですよー」
「なんやアイツしぶといやっちゃなー。でも、もう終いや」

藤村さんは突然現れた翼に驚くこともなくいつも通りの軽口を叩く――けれど、すぐに空気の重さが変わった。
ピリピリと頬を掠める邪気に眉を寄せる。

「藤村、人間を殺したらどうなるか知ってんだろ」
「重々承知や」
「生きているモノを殺めた幽霊は闇に落ちる」
「そうですよー藤村さん。このままあの人間殺したら悪霊になっちゃいますって」
「せやなあ。でもええねん、俺ずっと待っとったんや。アイツが転生してくるのを、ずーっとな」

怖いぐらい綺麗に笑う藤村さんが何を想っているのかなんてわからない。
あたしが知ってる金髪幽霊はいつだって楽しそうで、時にはウザいくらい構ってくる空気を読まない人だ。 悲しい顔も怒った顔も見たことがない。いつだって笑っていた。いつだって平然としていた。
そんな藤村さんがこんな顔をしてるんだから、よっぽど大きな理由があるんだろう。

「どーせ姫さんのことや、俺の前世のことくらい知っとんのやろ?」
「当然」
ちゃんは知らへんねんな?」
「…はい」

翼の返答に藤村さんはカラカラと楽しそうに笑う。それからあたしに視線を移せば、世間話をするような軽い口調で話し始めた。

「俺、不慮の事故で死んだっちゅーてたけどほんまはちゃうねん。殺されたんよ。 アイツに殺されるんが寿命やったのかもしれん。
俺かて自分が善人やないことくらいわかっとるし、前世で悪さしたのかもしれん。 せやけどどーしても許さへんねん。ほんまは死んですぐ呪ったろ思たけど、アイツ寿命だったらしく病気でころっと逝きよった。 そんなん俺はなあんもスッキリせえへん。どないしよー思て取敢えずふらふらしとるうちにちゃんみたいに上から降りてきたヤツに会うてん。 それがエライお喋りなヤツでなー、寿命のこととか転生のこととかギョウサン教えてくれたわ。 ソイツに会うたとき死んでからもう何十年も経っとったし、俺かてずーっと殺したヤツのこと考えてたわけでもなし。 死んだばっかの頃みたいに、絶対恨み晴らしたる!――なんてことものうなってん」

話からすると偶然でも何でもなく、計画的に悪意を持って殺されたということだろう。
いつもと変わらない笑顔を見せる藤村さんに、何とも言えない感情がぐるりぐるりと回り出す。

「……じゃあどうして?それならもう良いじゃないですか。そんなヤツ殺して藤村さんが悪霊になることなんてないですよ!」

しっかり届くように声を張り上げれば、藤村さんはやっぱり笑った。手が届くならあの金髪を思い切り引っ張ってやりたい。

「おおきに」
「感謝の言葉はいらないので一発殴らせてください」
「物騒やなー」

ケラケラと散々笑った挙句、笑いすぎて涙が出たのか目じりを拭いながら呼吸を整えるように深く息をする。
あーほんとこの金髪空気読まない。――笑い話にでもしないとやってられないのかもしれないけれど、

「悪さしたヤツが転生前に上で罪償うっちゅーのも聞いとったから、 いつどこに転生すんのかわからんけどアイツがどないなったか見届けよお思て暇なときに探しててん。 そんでこの前――せやな、ちゃんのクラスメートに会うた頃によおやっと見つけてそれから暫く観察しとったんや」

「……駄目やアイツ、アカンねん。なあんも変わってへん。俺を殺した時と同じ、脳ミソ腐りまくりや」

ゾッとするほど重く冷たい空気に思わず両腕を抱きしめる。 ちらりと翼に視線をやれば、彼は平然と前を見据えている。 その顔は不機嫌にも取れるけれど、どちらかと言えば真剣なときのそれだとあたしのシックスセンスが感じ取った。