実年齢より外見が幼いのは認めるけど、別に頭脳が大人なわけではありません。



after world



「あの人ですか……見たところ特に病気を患っているようにも見えませんけど、どう思いますー?」
がそう思うならそうなんじゃないの」

くるりと振り返ってみても少年は退屈そうにしているだけだ。
投げやりな態度はイタダケナイが、彼の仕事はあたしの監視であって支援ではないので仕方ない。
あたしが翼みたいに資料見放題だったら確かめられるのに。どうせあたしは下っ端天使だ。というかただの幽霊だけど。

「20歳くらいですかねー。普通に考えれば寿命はまだまだ先なんですけど」


この先真っ直ぐ行ったとこにデカイ家があんねんけど、そこの次男がもうすぐ死ぬんよ。 せやなあ…一週間後くらいちゃう?性格的にもすんなり上行くタイプやのうしコッチにしがみつく思うで。 死んだばっかのヤツならちゃんのことも知らへんし、魂出てきたとこ捕まえて適当に言い包めればええ。


脳内で藤村さんの言葉を繰り返す。 どうやら彼はあの人間が亡くなる日を正確に把握しているわけじゃないらしいけれど、 それでも一端の幽霊が人間の寿命を知っているなんて可笑しいのだ。
普通ではあり得ないけど相手が藤村さんとなると、何となくそれもありかなって思えてしまう。慣れって恐ろしい。
てか言い包めるってなんか悪徳商法みたいで嫌な響きだなー。

「一週間待ってみないと真偽のほどはわかりませんねー」
「それを理由に一週間何もしないってのはなしだから」
「わかってますよー。その間もちゃんと幽霊探しします」

ほんとは何もしたくなかったけど、先手を打たれてしまえばその案は却下するしかない。 いつかみたいに四六時中この家に張り付く必要はないし、暇な時に確認に来る程度でいいだろう。
そうと決まればもうこの場所に用はない。可愛らしい少年が仕事の鬼になる前に自分から仕事に行くとしよう。
行ったところでどうせ逃げられて終わりだろうけど。ちょっと傷つく。



「………今日一日で心に塞ぎようのない大きな傷が出来ました」
「そんな脆い心臓じゃないくせに」
「心臓は多分人並みに頑丈ですけどそうじゃなくてですね。あ、でももう止まってるから頑丈とは言えないんですかねー?」
「どうでもいいよそんなこと」

そう言って少年はデフォルトの呆れ顔を惜し気もなく披露する。
疲れてるのはあたしのはずなのに、なんで翼の方が疲れてますみたいな顔をするのか不思議でならない。

「切実に癒しがほしー……ん?」

小動物系の可愛らしさを持ったちびっこ幽霊とかいればいいのに。そういえば一番最初に連れて行ったのがそんな感じの幽霊だった気がしないでもない。 数年前の記憶を引っ張り出していると不意に感じた違和感に眉を寄せる。 発信源を辿るように目を閉じて意識を集中させ――見つけた。ぱちりと目を開けて視線を移す。

「翼さん」

視線の先にいたのはもうすぐ亡くなる疑惑浮上中の人間の姿。
そういえばここは彼の家の近くだったなんて思いつつ、その姿を見れば見るほど違和感だらけ。 視線を外さずに名を呼べばいつの間にか隣に来ていた少年が「わかってる」と力強く頷いた。

「さっき見た時はあんなじゃなかったですよね」
「ボクたちがいない間に何かあったんだろ」
「どうします?憑いてるわけじゃないからどの幽霊の仕業かわかりませんよ」
「…どうにかするしかないんじゃない?知ってて放っておいたなんて上にばれたら後々面倒だからね」
「……ですよねー。でも残り香も殆どないですし他に手掛りになりそうなものも見当たりませんから…暫く様子見ですかねー?」

横顔に突き刺さる視線に気づきながらもあたしの視線は人間に固定されたまま。
彼が次に言う台詞なら見当が付くのに、さっきから脳裏を掠める金色の頭の中はいくら考えてもちっともわかりやしない。

「しらばっくれるつもり?」
「何がですかー?」
「見当くらい付いてるだろ。それともまさか庇うつもり?」

いやいやまさか、庇おうだなんてこれっぽっちも考えていませんよ。 普通に考えれば彼がこの件と無関係だとは思えないし、あたしもそうだろうと思ってる。 でもだからこそ、普通に考えれば矛盾点が浮かび上がる。
関わっているということはほぼ間違いないけれど、だからと言って確かな証拠もないわけで

「まだ確信はないわけですし、そう簡単に犯人見つかったらツマンナイですよー」

へなりと笑えば少年は相変わらずの呆れ顔に溜息をプラスしてくれた。
何だかんだで彼らも4年程の付き合いになるんだし、信頼とかそんな感じの絆なんてものは芽生えてなくとも少しは思うところがあるんだろう。 てか普通に考えてこれから悪事を働くってのにその相手を曲がりなりにも天使だったりする幽霊に紹介したりするだろうか。 完全犯罪がしたいなら関わらせないことが一番。
いくら彼が日頃ふざけていることが多いといっても、そんなことにも気がつかない間抜けなわけがない。
……頭を使うのはあんまり好きじゃないんだけどなー。


「何考えてるんですかねー藤村さん」

気配すら感じない金髪幽霊の頭の中を想像しながら呟けば、わかるわけないだろ。と翼が言った気がした。