人様の事情に口を挟むつもりなんてないのです。



after world



永遠の14歳、4年とちょっと前から幽霊やってます。だから実際には14歳に4年をプラスした年齢になるわけだけれど……うわあ、あと2年で成人だ。 たとえ20歳になったとしても見た目はずっと14歳のままなのでお酒や煙草は止められそう。
それ以前にとっくに死んでるあたしには何も関係ないんだけどね。
永遠の14歳から抜け出すには、あと5人の現世をふらついている幽霊を捕まえればいい――じゃなくて、上に連れて行けばいい。
何だかんだで残りは5人なんだなーと思うと、ちょっと感慨深いものがあるかもしれない。

「おいそこのアホ幽霊、アホ面晒してないでさっさと働け」
「やる気が削がれるので言葉の暴力は止めてくださいー」
「ハッ!流石のボクでも元からないものを削ぐことなんて出来ないよ」
「今の一言であたしの心が抉れました」
「バカ言ってないでさっさと働け」

あーほんと、今までよく頑張ったと思うの。生きた凶器…や、死んでるけど、とにかく鬼上司の傍でよく耐えられたなあたし。
ほんのちょっぴり感動に浸っている間も斜め後ろから鋭い視線が刺さる刺さる!
いつか後頭部に穴が開いたらどうしよう。思わず片手で頭を擦ってしまった。

「でも翼さん、働けって言われてもどこにも幽霊なんて見当たらないですよー」
「探せばいるに決まってんだろ」

辺りを見渡して言ってみても可愛らしい少年はこっちの言い分なんて聞いてくれない。
呆れる怒る鼻で笑う極上スマイルを浮かべる。あたしに対する翼の態度なんてこんなもんだ。あしらわれるのも慣れたけど。

「探すって言っても気配も感じないのにめ「メンドクサイは却下」…ですよねー」

にっこり笑った天使サマが怖いのでそろそろ真面目に探そうと思う。
腹筋を使って寝そべっていた屋根から起き上がれば、まずは大きく伸びを一つ。 ポキポキと背中から小気味良い音が聞こえた気がする。さあて、幽霊探しに行きますか。



ふらふらと空中散歩を始めてからどれくらい経っただろう。出会った幽霊はいたけれど悉く逃げられた。 中には目が合った瞬間に逃げ出したのもいたんだけど、もしかしてあたしの顔割れてるの?
恐るべし幽霊ネットワーク。いい加減この振られ人生から卒業したいのに、顔見ただけで逃げられたらどうしようもないじゃないか。
休憩だと銘打って電線に座り込んでいれば、ふと覚えのある気配が近づいてくることに気づいた。

「よおちゃん久しぶりやなあ」
「飛んで火にいる何とやら」
「初っ端にそれってなん?相変わらず面白いやっちゃで」
「藤村さんには負けますよー。そんなことより藤村さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
「突然やなあ…ま、ええよ。ちゃんの頼み断ったら男が廃るってもんや」
「じゃあ上行ってください」
「アカン」
「うわー即答した。男に二言はないんじゃないんですか?」
「幽霊にはあんねん」

勢いでもなんでも頷いてくれれば言質を取ったということで無理矢理にでも連れて行けたのに。
さも当然というように屁理屈を捏ねる金髪幽霊にわざと大きな溜息を零す。その無駄に眩しい金髪を引っこ抜いてやろうか。

「確かあと5人連れてけばええねんな?」
「はい」
「せやったら俺に声掛けへんでもすぐ見つかるやろ」
「それがですねーこの辺りの幽霊にあたしの顔が割れてるみたいでして」
「逃げられたん?」
「悉く」
「こんな可愛い子見て逃げるなんてエライ失礼やなー」
「自分だって断ったじゃないですかー」
「逃げてへんもん」
「いっそ逃げてくれた方がマシです」

可哀想にと頭を撫でる藤村さんを拗ねたふりしてじと目で睨みつける。
堪忍やとか何とか言ってるけど、顔が笑ってるので説得力の欠片もない。口先だけの大人にはならないように気をつけよう。

「そんな可哀想なちゃんに優しいシゲちゃんが一個プレゼントしたる」
「…プレゼント?荷物になるので物ならいらないですよ」
「ちゃうって。情報や情報」
「幽霊の、ですか?」
「幽霊ちゅうか、死にそうな人間情報やな」
「それって寿命が近い人間のことですか?てかなんでそんなの藤村さんが、」
「そこら辺はトップシークレットやねん。詳しく訊かへん言うなら教えたるで?」

訝しげな視線を送るあたしに金髪幽霊さんは相変わらず楽しそうな顔で笑う。
この幽霊とも4年程の付き合いになるから彼があらゆる情報に長けていることは知ってるし、 なんでそんなこと知っているのかなんて今更か。てか訊くだけ無駄だろう。 斜め後ろの鬼上司が口を挟んでくることもないので問題もなさそうだし。

「……わかりました」
「ん、ええ子や」
「お褒めに預かり光栄ですー」

だからさっさと本題に入ってくださいな。営業モードでにっこり笑って見せれば、藤村さんもその笑みを深めた。