同じ立場になって初めて他人の気持ちがわかったりもする。 after world
永遠の14歳。一体いつまで14歳で居続ければいいのか、反抗期と思春期真っ盛りな年齢もそろそろ飽きてきた。 …なんてことを言うと、4年前からお世話になっている見目可愛らしい少年の愛らしい顔が別人のように歪むことはわかっているので決して口にはしない。 そういや彼も青春真っ盛りなお年頃だったなーと思い出して、斜め後ろから突き刺さる視線を受けとめようと振り返る。 「翼さーん、何でそんなご機嫌斜めなんですかー?」 「自分の胸に手を当てて考えてみたら」 「………。思い当たる節がありすぎて選べませんー」 あ、だからそんな顔したら折角親から授かった可愛らしい顔が台無しですって。 口にはしていないのに鬼上司の顔が更に歪んだのは、顔に出ていたのかはたまた心を読まれたのか――後者は常に否定されるけれど。 「がコッチに来てから何年経った?」 「えーと…4年ですかねー?」 「それで、今まで上に連れて行った人数は?」 「8人ですねー。しかも内7人は3年くらい経ってから漸く連れて行けた人数です」 「何で最初の2年で1人しか連れて行けなかったのか未だにボクは不思議でならないんだけど」 「適応能力が低いもので。きっとあたし、スロースターターなんですね」 「幽体に慣れるのは一瞬だったくせに」 言いながら諦めたように溜息を一つ落として、デフォルトである呆れ顔を披露する。 翼の台詞を否定するつもりはない。でもあれは慣れたというより慣れるしかなかったからありのままを受けとめたのだ。 宙に浮かんだり壁をすり抜けたり、ツッコミどころは大いにあった。実は未だに色々思ったりすることもあるが、考えるだけ無駄なのでスルーしている。 「自分からこの仕事やりたいって言ったんだからもっとやる気だしなよね」 「100年のただ働きが嫌だっただけで、別に働きたかったわけじゃ、……いや、あの、ゴメンナサイ」 極上のスマイルを浮かべた天使サマが怖かったので自主的に頭を下げる。 4年経った今でもあたしと少年の間には上下関係やら権力やらといった分厚くて高い壁があるのだ。 なんという縦社会。死後の世界までこんな柵が纏わりついてくるなんて思ってもいなかった。今からでも遅くないから、横社会を強く推奨したい。 「クダラナイこと考えてないでさっさと働け」 くいっと顎をしゃくるその先にぷかぷか浮かんでいる幽霊がいることに気づく。 ――ちょっと訂正。浮かんでいるには浮かんでいるんだけれど、寝そべった状態で浮いているが正しい。 「おはようございますー。今日は雨が降るらしいのでここにいると濡れちゃいますよー」 この4年で板についた営業スマイルを貼り付け、普段よりも高いトーンでうつ伏せのまま動かない幽霊へと声を掛ける。 ぴくりと動いた指先を皮切りにモゾモゾと、酷く緩慢な動作ではあるものの少しずつ起き上がり、やがてその動きと同じくダルそうな顔で振り返った。 「……アンタ誰?」 「と申しますー。お兄さんのお名前は?」 「おーすげー、雨が俺の手貫通してる」 「………幽霊ですからねー」 「何度見ても感動。だから雨は嫌いじゃない。これで雷落ちてきたらマンガみたいに骨透けて見えるかもしれないのに、一度も俺の上に落ちたことないんだよな」 「…………」 何だこの人、会話がちっとも成立しない。 こっちの投げたボールは掴んでくれないし投げてくるボールは変化球ばかりで経験不足なあたしには受け止めることが難しい。 翼が投げるいがぐりボールとこの魔球、どっちが厄介かなー。 降り始めた雨にすっかり気を取られているのか、彼は座り込んだまま楽しそうに自分の両手を見つめている。 ――楽しそうというのは彼の口からハハハと笑い声が紡がれるからわかっただけで、淡々と抑揚のない声や変化のない表情からは楽しさなんてちっとも読み取れない。 斜め後方にいるだろう少年とは違った意味で目の前の幽霊さんは人形みたいな顔をしている。ちょっと怖い。ちびっこが泣きそう。 「横山平馬」 「…はい?」 「俺の名前、さっき聞いたろ」 自分が言ったことも忘れたのかと言わんばかりの、呆れたというより憐れんだような視線を投げられて貼り付けた笑顔がぴくりと動く。 見た目は20代前半かその少し上。夢の中でもないのに独自の世界を惜しげもなく見せつけてくれる横山さんは、間違いなく鬼上司の嫌いなタイプだろう。 ユルユルを通り越してダルダル。一応形は止めているけれど固形というよりは液体寄り。なんかそんな感じだ。 生前も死後も色んな人にお前はやる気がないと言われたけれど、この幽霊にだけは絶対に言われなくないなーと思った。てか彼には負けると思う。 「えーと、横山さんはどうしてここにいるんですか?」 「暇だから」 「それなら上に行きませんか?ちゃちゃっと生まれ変わって新しい人生を歩めば暇じゃなくなりますよー」 「メンドクサイ」 「……現世に心残りがあるんですか?」 「あーあるにはあるけど別にどーでもいーし、生まれ変わるとか興味ない。だからここで暇つぶし中」 顔にはにっこりと笑顔を貼り付けたままくるりと後ろを振り返って相変わらず不機嫌そうな翼に視線を送る。 心が挫けそうというか挫けたのでもう諦めていいですか? ただでさえやる気なんてないのに、あたし以上にやる気のない横山さんを見ていたら全てが消えた。 今のあたしはダルダルを通り越してグデグデだ。もう何もしたくない。 「…あ、アイツ傘持ってねーじゃん。びしょ濡れダッセー」 少年は否定するけれど、それでもやっぱり読心術の心得があるんじゃないかとか テレパシー的な何かを受信してくれるんじゃないかとか期待してじいっと視線だけを送り続けていたけれど、 背中越しに聞こえた、少しだけ感情を乗せたような声に翼から視線を外して再び横山さんの方へと振り返る。 何の色も映していないように見えた彼の双眸は、うっすらと穏やかに色付いていて 「野良猫気にするより自分のこと気にしろっつーの」 見落としてしまいそうな些細な変化だけれど、確かに彼は微笑ったように見えた。 |