久しぶりの再会にこれっぽっちも嬉しさを感じないのは、あたしが薄情なのではなくて相手に問題があるからに違いない。 after world
「こ、のバカ!安易に行動すんな!」 「……」 「ちょっと聞いてんの!?――?」 「って、…じゃあマジで!?うっわ久しぶり!てか変わってねー!」 目を見開いて固まるあたしに気づき怒鳴るのを止めた翼は、彼が呼んだあたしの名前に大きく反応を示した落下幽霊へと視線を移す。 驚いたり喜んだり、あたしと翼の顔を何度も行ったり来たりして忙しい幽霊は漸く落ち着いたのか楽しそうに笑った。 「え、何アンタ死んだの?」 「ほんとにだー。久しぶりだな!」 「それさっき聞いたてか人の話聞けよ」 「マジ懐かしー感動!」 ……ちょっと待って何コイツ何なのマジで。 あたしの台詞を悉くスルーしやがる目の前の男を半目で見つめていると、ぴくりと口許が引き攣ったのを感じた。 「なに、知り合い?」 「知り合いって言うか……元クラスメート的な、」 何だこのウルサイヤツ。あたしと似たような表情を浮かべているだろう本来可愛らしい顔である少年の問いに答えつつ、視線は目の前の男から逸らさない。 いい加減こっちの質問に答えてほしいてか答えろバカ――「藤代、」そんな思いが通じたのか、あたしが名前を呼ぶとソイツは笑顔を浮かべたまま口を開いた 「ん?…あぁ死んでないよ、バリバリ生きてる」 「じゃあなんで……もしかして、」 そこでふと、未だに掴んだままの紐の先が藤代へと繋がっていることに気がついた。 紐を見ただけでは気づかなかったけど、あたしはこんな風に紐と繋がっている幽霊というか幽体を見たことがある。 そしてそれが何を表わすものかも知っている。 まじまじと紐を見つめるあたしがその意味を理解したと気づいたのか、彼はとびきりの笑顔を顔いっぱいに広げ、 「幽体離脱中でーす」 まるで世間話をするように、極々自然にさらっと言いやがった。 「ばっかじゃない!なに変な芸身につけんの!?」 「俺もよくわかんないんだけど、楽しいからいっかなって」 「アホか!さっさと身体に戻りなさい!」 「えー」 「えーじゃない。何が不満?」 「だって俺霊感ないから戻ったらと話せねーじゃん。折角久しぶりに会えたのに」 「話せなくていいから戻れ。戻れなくなったらどうすんの馬鹿」 「ほんと変わってねぇ」 その言葉そっくりそのまま返してやりたい。 子供染みた理由と表情にうんざりしつつと大きな溜息を一つ。 「……ほんと、お願いだから早く戻ってよ。死んだ人間に心配かけないで」 「初めてじゃないし少しくらい平気だってー」 「ばか。アンタがいない間に性質悪いヤツラに身体乗っ取られたらどうすんの。 あたしと話したいんだったら夢にでも出てあげるからとにかく今は戻って」 「じゃあ約束な。俺の家覚えてる?」 「はいはい覚えてるから」 さっさと行けと手で払うと「じゃー今夜な!絶対来いよ!」と叫びながら素早く紐を辿って行った。 ……足の速さは相変わらずだ。 ヤツが無事身体に戻れたのかちゃんと確認したいけれど、光が消えたから多分大丈夫だろう。 それよりまずは斜め後ろで存在を主張している天使サマと話をしないと。 「えーと、さっきはスミマセンでした。それとありがとーございました」 「誠意が見られない」 「これが精一杯ですよー」 「ふうん……それで?アイツどうすんの」 「取敢えず約束したんで今夜会いに行きますー。行かないと幽体離脱して探しに来そうだし」 「随分仲良いんだね」 「ただの腐れ縁ですよー。――翼さん、アイツもうすぐ死ぬんでしょうか?」 「…そんなのボクがわかる筈ないだろ」 「そーですかー」 営業中ではないのでへなりとやる気のない笑みを浮かべると、翼が少しだけ顔を顰めた。 上でも割と立場の高い彼が「わからない」ということは、藤代の寿命は本来ならまだ先ということだ。 だって資料見放題の彼なら藤代に死期が迫っていれば「知っている」はず。 たとえ初対面の相手でも、その人間の寿命が近ければ翼にはその情報が伝わっているはずなのだ。 ――何故なら彼はそういった類の仕事を任されているのだから。 今はあたしの監視役としてコッチに入り浸りなため上では別の人が代わりにやっているけれど、だからと言って翼に情報が来ないわけではない。 幽体離脱という行為が多く示すのは、その者の死期が近いことだ。 もうじき寿命を迎える生きモノは魂が肉体から抜けやすくなるといった現象が稀に起こる。 だからあたしはアイツがもうすぐ死ぬのかなーって思ったんだけど、翼がわからないってことは寿命じゃないらしい。 本人が気づいてないだけで実は霊感でも持っているのか、それとも予定外の干渉があったのか。 前者なら良いけれど後者だとあまりよろしくない。これは面倒なことになったなーと溜息をついた。 「…グースカ寝やがって」 人の気も知らないで、と続く言葉をなんとか飲み込んで気持ち良さそうに眠る藤代を見下ろす。 いつもあたしを監視している仕事熱心な少年はこの件が仕事とは無関係なので姿を消したままだ。 ま、本人の承諾も得ていることだし、藤代の夢に入るのはそんなに危ないことではないので大丈夫だろう。 それにきっと何かあれば近くにいる鬼上司がどうにかしてくれると信じている。…日頃の恨みとかいって出入り口を塞ぐなんてことは、ない…はず。 ゆっくりと落ちていく感覚がやがて慣れた浮遊感に変わり、ぱちりと目を開くと一面の青、あお、アオ 清々しいほどの光景にこの夢の主を思い描けば一つ頷く。海だか空だか知らないが、アイツには青が良く似合うのだ。 「おーいー!」 ぶんぶんと手を振って存在をアピールする藤代に近づくと、彼は相変わらずにこにこと人懐こい笑みを浮かべていた。 あーなんか、オプションで尻尾と三角の耳が見えてきそう。 こちとら仕事ではないときに営業スマイルを貼り付けるほどのサービス精神は持ち合わせていないので、我らが天使サマ デフォルトの表情で応戦しよう。 |