忘れた頃に思い出すのと同じで今更になって気になることだってある。 after world
永遠の14歳。3、4年前に寿命でもないのにうっかり死んでそれから幽霊やってます。 幽霊といってもそこら辺でぷかぷか浮かんでるただの幽霊とは違ってほんのちょっと格が上というか、 斜め後ろから熱い視線を送ってくれてる可愛い少年よりは遥かに下だけどそれでもどこぞの金髪幽霊よりは上な感じの幽霊です。 「赤ちゃんの幽霊もいるんですねーびっくりしました」 「だからってあんなに時間かかった言い訳にはなんないから」 「だって何喋ってるかわかんないんですもん。宇宙人相手した気分」 「話なんて聞かずにさっさと連れて行けば良かったんだろ。てかボクはいつもそう言ってる」 「そうなんですけど、でももしかしたら未練があるのかもしれませんしー」 「赤ん坊にどんな未練があるんだよ」 「もっと生きたかったとか?」 「何その模範解答ツマンナイ」 面白さを求めたなら是非とも先に言って欲しかった。 鼻で笑った先輩というか上司の変わらぬ鬼っぷりにちょっぴり泣きそう…かと思ったけどダメだ、涙の気配すらない。 まあさっきの赤ちゃんは未練があったわけでもなく、単に上に行く方法がわからなくて彷徨ってたみたいだけれど、 「でもあんな若いのに死んじゃうなんて可哀想ですねー」 「また直ぐ転生すんだろ、寿命だったみたいだし」 「そーだ。前から聞きたかったんですけど寿命ってどうやって決まるんですか誰が決めるんですかてか何なんですか?」 「お前が何なんだよ」 ノンブレスで言いきったあたしに翼が怪訝そうでいて呆れた視線を向ける。 今まで聞いたことなかったてか知らなかったのかよとか金髪幽霊がいたら盛大なツッコミをくれそうだけど、 この場に彼がいないので気にすることはない。それに質問しなかっただけで実は前から気になってはいたのだ。だって―― 「あのですね、寿命が予め決まってるんだったら、どうしてあたし寿命じゃないのに死んだのかなーて」 「今更聞くのかよ」 「細かいことは気にせずにー」 今更なのはあたしも思うけどこの際スルーして説明を求めるように視線で先を促す。 少年はめんどくさそうに一度大きく息を吐き出して、本当にめんどくさそうに口を開いた 「ったく、一度しか言わないからよく聞けよ。 誰が決めてるとかじゃなくて前世での行いの善し悪しが長さに比例することが多い。 つっても前世で悪事を働いたヤツは転生の前に働いて罪を償わせてるから、転生後の性格が前世と同じになるわけでもない。 そうして魂が廻るうちに物凄い悪人だったヤツが物凄い善人になることもあるし、 前世や現世でなんの問題もないヤツでも魂の輪廻の都合上寿命が短くなる場合もある。 だから事故や病気で早死にするヤツや難病に掛かるヤツラが必ずしも前世で悪さしたってことでもないわけ。 ――ここまでは理解した?」 「えーと、それなりに。仕組みは一応理解できたんですけど、あたしの場合どうなんですか?」 「みたいに寿命じゃないのに死ぬヤツってのは、予定外の干渉が入ったから」 「予定外…?」 眉間に皺を寄せて首を傾げるあたしに翼はこくりと頷くと、めんどくさそうな顔を少しだけ真面目な顔に変えた。 「そう。人間って事あるごとに運命とか言うだろ?でも実際は人の一生が生まれたときから決まってるなんてことはあり得ない。 事細かに決めるなんて面倒だし決めたところで一人一人の人生を観察なんてしないからね。 ま、寿命は転生の時に定められてるからある意味運命って言えるんだけど… が事故で死んだことは予定外。あの時が寿命じゃなかったってことは、軽傷か重傷かはわからないけど死ぬことはなかった筈」 「えーと、つまり?」 「つまり、寿命ってのは生きてるヤツに適応されるだけで死んだヤツには関係ない。 裏を返せば生きてるヤツは寿命に抗うことは出来ないけど、死んだヤツは寿命なんて無視して死を遅くすることも早めることも出来るってこと」 「……死んだヤツって、幽霊?」 「それ以外いないだろ」 説明を求めたのはあたしだけど長々と言われたもんだからいまいち頭が追い付かない。 そもそも平々凡々なあたしの理解力が天才だと自負する目の前の少年とイコールである筈がないのだ。 だからうっかり間抜けな質問をしちゃっただけで……落ち着いて整理すればそれなりに理解できた。ていうか是非ツッコミたい。 「ちょっと待ってください。てことはあたし幽霊に殺されたってことですか? 霊感なんてこれっぽっちもなかったし、身近で亡くなったのなんておじいちゃんくらいだし……幽霊に恨まれる心当たりないんですけど」 「アイツラにそんなの関係ねぇよ。ただの暇つぶしなんじゃねーの?」 「暇つぶしで殺されるなんてご免です!」 「もう死んでんじゃん」 「―とにかく、ソイツの所為で親より先に死んだとかイチャモンつけられたんですよ。寿命で死んでたらこんな面倒なことしなくて済んだのに…! その幽霊って今どうしてるんですかね。もしまだ彷徨ってるんだったら絶対捕まえて文句言ってやる。 夜も眠れなくなるくらい耳元でずーっと恨みつらみを囁き続けてやる!」 「幽霊は寝ないから。つーか文句言って終わり?」 「はい。それと出来れば上へ連れて行きたいですねー。100年くらいただ働きすればいい」 「殺されといてそれだけかよ。ま、ボクには関係ないけど」 「だってもう死んじゃったんだから仕方ないじゃないですかー。 それにもしあたしが怒りに任せてその幽霊消しちゃったりしたらあたしの罪が増やされそうですし」 「よくわかってんじゃん。相手がどんなヤツであっても魂を消すのは重罪。その判断を下していいのは神ぐらいだよ」 「ですよねー。てか神様ってほんとにいるんですか?」 「知らない。でも上にも階級はあるから一番権力あるヤツが所謂 神様なんじゃないの」 「なるほどー」 どの世界も縦社会なんだなーと再確認しつつ、ぶつけどころのない怒りをいつまでも抱えていても仕方がないので今は忘れることにする。 この怒りはその幽霊に出会ったときに思う存分ぶつけてやろう。ま、出会わない可能性のが高いけど。 くあ、と欠伸を噛み殺すあたしの姿に翼は彼のデフォルトである呆れ顔を披露してくれた。 気になっていたことがわかってスッキリした今、顔もわからない幽霊に想いを馳せて再びモヤモヤする必要はないのだ。 考えるのがメンドクサイってのが本音だけどまあそれも気にせずに。 「……んん?翼さーん、あれなんですかねー?」 そろそろ鬼上司から働けと催促されそうだなーと思ってぐるりと周囲を見渡すと、ふと目に入った不思議な光。 糸のような紐のような、とにかくロープみたいに伸びているそれに首を傾げる。 物知りな天使サマを首だけで振り返れば少年は何ともいえない面持ちで光を眺めているだけで答えてくれない。 そんな彼に更に首を傾げつつ光の紐へと近づいていく。近くで見てもやっぱり紐だ。 「バカッ!」 「…へ?……う、わ!」 先の見えない紐を引っ張ると同時、斜め後ろから怒鳴るような大きな声 きょとんと間抜けな表情を浮かべるのも束の間、あたしに向かって物凄い勢いで飛んでくる「何か」に驚いて目を瞠る。 ――翼が引っ張ってくれなければ落下物の下敷きになっていただろう多分…いや、絶対。 「っ、てて、ビビったー。誰だよ急に引っ張ったの」 どうやら落下物ではなく落下幽霊だったらしい。少しだけ不機嫌そうに頭を押さえながら振り返った幽霊の姿にあたしは再び目を瞠ることになった。 |