「俺を上に連れて行きたいんだったら、小鉄が死ぬときに迎えに来てよ」 after world
「あの兄ちゃんも面白いこと言うなあ。そんなん何十年後やねん!」 「ですよねー。ちびっこが早死にでもしない限り、その頃にはあたしもう生まれ変わってますよ」 それともなんだ、あたしにずっと現世でぷかぷか浮かんでろってか? 爽やかさんの台詞を思い出してわざとらしく憤慨して見せると、斜め後ろからの視線が刺さる刺さる! 「なんですかー翼さん。あたしちゃんとノルマ達成しましたよー」 あの視線をスルー出来るほどあたしも図太くはないので、首だけで振り返ってご機嫌斜めの少年を視界に入れる。 何でそんなに不機嫌なんですか?思い当たる節がないわけでもないけれど気づかないふりして首を傾げる。 あたしの態度が気に入らないのか、鬼上司の視線は更に鋭くなった。 「……もしかしてまだ怒ってるんですかー?」 「当然だろ」 「仕方ないじゃないですかー。不可抗力ですよ、ふかこーりょく」 「仕方ない?不可抗力?―もう一遍言ってみろよ。お前の存在ごと消してやる」 「翼さんの冗談は冗談に聞こえないんですからやめてくださいー」 「冗談じゃないから良いんじゃない」 「何や姫さん、なんでそんな機嫌悪いん?折角の可愛い顔が台無しやでー」 「お前の存在がボクの機嫌を下降させてるってことにいい加減気づけば?」 見事な話の逸らし術を披露してくれた金髪幽霊にはいつかお礼をしようと思う。…たぶん。 逸らした先にあったのが地雷だったのはきっと藤村さんの日頃の行いが悪いからで、断じてあたしの所為ではない。 ――たとえ翼の不機嫌な理由が、あたしが彼の可愛い顔を利用してふらついていた幽霊を上へ連れて行ったからだとしても。 細かいことはスルーして鬼上司の意識があたしに戻らないうちに用事を済ませに行きましょうか。 「さん」 「遅くなってごめんー」 「俺も来たばかりだから」 相変わらずのやり取りに笑いを堪えつつ、それでも顔にはしっかりと営業スマイルを貼り付ける。 「それで結局誰か連れて行けた?」 「可愛い天使サンのお陰でなんとかねー」 「…どういうこと?」 「中年のおじさんがね、翼のこと女の子だって信じちゃって。しかもあの顔がストライクだったらしく、 上に行けば生まれ変わるまで翼と一緒に楽しく過ごせますよーて言ったらあっさり行ってくれたの」 「うわー……ご愁傷様」 騙された方と利用された方のどちらへ向けた言葉かはわからないけれど、笠井くんは何ともいえない顔をした。 ちなみにあたしが今までにないほどのスピードで交渉を行ったため、翼が口を挟む隙はなかったのだ。我ながら物凄い頑張ったと思う。 「それで今日は何の用?翼の機嫌が悪いからあんまり長くいられないんだ」 「そっか。用って言うほどでもないんだけど、改めてお礼言いたくて」 「お礼…?」 「うん。光宏のこと、本当にありがとう。あの時ちゃんと言えなかったから」 「そんなのわざわざ良いのに。律儀だねー」 「さんの仕事が終わったのかも気になったし…性質が悪いの紹介しちゃったから」 「あー……うん、そのことはもう気にしないで」 遠くを見つめるあたしに笠井くんは少しだけ楽しそうに笑うと立ち上がる。 「わざわざ時間作ってもらっちゃってごめん。ありがとう」 「気にしないでー。笠井くんはこのあと用事?」 「うん。光宏に会いに」 「そっか、光宏さんにもよろしく伝えといて。それと笠井くん、性質の悪い幽霊には十分注意するよーに」 「気をつける。さんも大変だろうけど頑張れ」 にっこり微笑んで差し出された右手を今度は凝視することなく自然に握る。 …うん、あったかいなー。生きてるから当たり前だけど。 そんなこんなで珍しいほど強い力の霊感少年にさよならをして向かうは鬼上司が待つ上空 まだ機嫌悪かったらやだなーと思いつつ、金髪幽霊がいれば彼を盾にしようと心に決める。 よくよく考えればさっきの会話も聞いてただろうし翼の機嫌が悪い可能性は高い。 どうせなら爽やか幽霊さんからあの爽やかさをわけてもらえば良かったのに! …まあ翼もある意味爽やかか。頼むからまだいてよね藤村さん。 「遅い!いつまで待たせんだよ」 「彼氏みたいな台詞やなー」 「みたいな彼女なんてあり得ない」 「あたしも自分より可愛い彼氏は嫌ですよー」 永遠の14歳。今日も今日とて鬼上司に怒鳴られつつ、天使だか悪魔だか死神だかよくわからない仕事を何だかんだでこなしてます。 |