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どうぞあたしのことはお気になさらず。何なら存在ごと記憶から抹消して会話を続けてくださいな。



after world



「…ッ、つひろ!待てよ光宏!俺の話聞けって…!」
「竹巳こそ俺の話聞けよ!怒ってないから謝罪ならいらないっつーの!」

少し離れた上空から2人の会話を盗み聞き。彼らがどうなるか気になるのが2割、残りの8割は面白そうだから。

「それにしても光宏さん速い速い」
「ほんま、いくら幽霊には障害物ない言うても速過ぎるわ」
「生前も足が速かったタイプですねー」
「せやな。あれについてくボンもなかなかやで」

藤村さんの言うとおり。底なしの体力+走るというか飛べるなんて反則技を持った光宏さんを一定の距離で追いかける笠井くんはすごい。 確かサッカー部だとか言ってた気がするから体力あるんだろうなー。詳しいルール知らないけど。

「それよりアレ放っといてええん?」
「あーアレですか。あまりにもウザいので目に入りませんでした」
「自分ほんま正直なやっちゃなー」
「よく言われます」
「…ま、アイツラかて誰かに構って欲しいんよ」

基本的に幽霊なんて寂しいものだ。 上に行かず現世に彷徨っていたとしても、何かをするのに忙しい幽霊よりも暇を持て余している幽霊のが多い。 じゃあ大人しく上行けよと言いたいところだが彼らにも色々と思うところがあるのだろう。
そんな暇を持て余している幽霊にとって、初めて会う幽霊や自分の存在に気づくことの出来る人間は絶好の暇つぶし相手。
今もほら、騒ぎに気づいたヤツラがうようよ集まってきた。…当然 性質の悪いのも一緒に。

「……あ、笠井くんロックオン」
「ボンが見えること気づかれたみたいやな」

冷静に実況中継紛いのことをしているけれど、状況はあまりよろしくない。
何がよろしくないって、万が一にも笠井くんがアイツラに取殺されでもしたらさあ大変。 状況的に考えて彼がここに来たのは光宏さんを追いかける上での不可抗力。 そしてその光宏さんは逃げるのに必死で方向なんて気にしていない――だからこそトンネルに引き寄せられてしまったんだろう。
この場合あたしに責任がないのかと言われればないとは言い切れないのだ。 だってあたしが笠井くんに光宏さん出現スポットを教えなければ、2人の愉快な鬼ごっこなんて始まらなかったはず。

これは困ったどうしよう。

寿命でもないのに関わった人間をうっかり死なせちゃったりしたら、きっとあたしの罪とやらは増える筈。 上に戻されて100年間ただ働きをさせられるのか連れて行く人数を増やされるのか、はたまたそれ以外の何かをやらされるのか……。
どれにしても都合が悪い。だからといって自らアイツラに絡まれに行くのも嫌だ。 光宏さんが何とかしてくれないかなーと他人任せで未だに傍観者の立場は崩さない。
それに本当に拙い状況になったら鬼上司サマが行動を起こすだろう。…たとえそれが、あたしを蹴り飛ばすことだとしても。


「……」
小羽さん!?」
小羽!お前なんでいんの!?」

こんな予想が当たったところでちっとも嬉しくない。
人間と幽霊――主に後者の所為で混雑しているトンネルの前に、あたしは勢いよく蹴り飛ばされた。 そしてこれまた予想通り、突如躍り出たあたしに降り注ぐ何十もの目

「………。あーもうメンドクサイ!取敢えず2人ともさっさと逃げますよ!」

言うや否や、物凄い頑張って性質の悪い幽霊共を強制的に足止め基 金縛りに合わせ、 金縛りに遭ってないくせにぼんやり突っ立っている人間と幽霊の手を掴んで走り出す。 これすごい疲れるから嫌だったのに…!あたしの心を知ってか知らずか、我に返った2人が全速力でトンネルから遠ざかってくれた。



「……疲れたー」
「竹巳はともかく何でお前まで疲れてんの?」
「あのですね光宏さん、幽霊を金縛りに遭わせるのって物凄いエネルギー使うんですよ。だからあたしもうクタクタです」
「…ごめん小羽さん。でもお陰で助かった、ありがとう」
「いえいえー仕事ですからー」

姿は現さないけれど翼のことだ、どうせ近くで見ているんだろう。
予定外の仕事を申し付けた少年を恨みつつ営業モードに切り替える。

「ていうか光宏さん、鬼ごっこするときも前方への注意は怠っちゃだめですよー」
「予想外の鬼だったからびっくりしちゃってさ」
「笠井くんも。折角今まで気をつけてたのに、さっきのでアイツラにバレちゃったよ」
「うん、反省してる。でももうあそこには近づかないから大丈夫。アイツラってトンネルからあんまり遠くには行けないだろ?」
「縛られてるタイプというか、あの場所が幽霊を縛り付けるみたいだからねー」
「俺もうっかり縛られるとこだった」
「それは自業自得ですー」

大人しく縛られるタイプには見えないけど。相変わらずの笑顔を浮かべる光宏さんに深く突っ込むのは止めておこう。
あんなに逃げ回っていたくせに爽やかさんはこの場を去ろうとしない。それに気づいた霊感少年がこれ幸いと向き直った。

「光宏、あのときはごめん。今更だし自己満足だって思うだろうけど、でもどうしてもちゃんと謝りたかった」
「いいって。怒ってないって言ったじゃん」
「…サンキュ。でもだったら何で逃げたの?小羽さんのときだって、俺に会いたくないから隠れたんだろ?」
「あー……会いたくなかったわけじゃない。でも、竹巳に会って仲直りしたらさ、嬉しくてうっかり成仏しちゃう気がしたんだ」
「――は?」
「ま、今もこうしてここにいるってことは俺の取り越し苦労だったんだけどなー」

予想もしていなかったのだろう、光宏さんの言葉に笠井くんはぽかんと口を開けて固まった。
んん?もしかしてあたしお邪魔虫ってヤツですか?
感動の再会とやらに水を差すつもりは毛頭ない。だけどこの場を去るタイミングを失っちゃったわけです。
どうしたものかと苦笑するあたしに気づいたのか、光宏さんはこれまた爽やかに笑った。 ……うん、何かあたしここにいても良いらしい。というか、いたほうが良い的な。 頷くあたしに彼はその笑みを深くして、それからまた笠井くんへと向き直る。

「実は俺の未練ってさ、親友のことだったんだ。俺が生きてた時代は戦争真っ只中で勿論俺も兵隊として戦地に向かったわけ。
ソイツとは部隊が違ったんだけど、行く前に必ず生きてまた会おうって約束したんだ。…でも俺がヘマして死んじまって、約束はおじゃん。 アイツだって死んだかもしれないのにまた会おうって約束に拘った結果、こうして俺は何十年も未練がましくこの場にいる」
「…でもそのお陰で俺はお前に会えた」
「そーだな。それに上に行くのをずるずると先延ばしにしてたお陰でアイツの生まれ変わりにも会えた」
「生まれ変わり?」
「あれ、小羽から聞いてない?」

完全なる傍観者に徹していたあたしだけれど、くるりと振り返った2人に応えるために口を開く。

「個人情報を他人がぺらぺら喋るのもなーと思いまして、ちびっこが生まれ変わりだとまでは教えてませんよー」
「へー、結構良心的なんだ」
「じゃあ、あの家の子供が光宏の親友?」
「竹巳と離れて適当にふらついてる時に偶然見つけたんだ。―すぐわかった。名字も顔も違うけど、名前と性格はまんま小鉄。
だから俺、アイツがどうやって生きていくのか最後まで見たいんだ。そんで、アイツが寿命を全うした時に俺も一緒に逝くつもり」
「あっちはお前のことわからないんだろ?」
「うん。でもさ、それでも良いんだ。自己満足だから」

にっこりと爽やかな笑顔を浮かべる光宏さんを見て、笠井くんも同じくにっこり微笑んだ。