世話好きでもお節介でもないつもりだけど、あたしが楽しむためならそれなりのことはしてもいい。



after world



ベンチに腰掛けた笠井くんの正面に浮かびながら事の顛末を告げると、彼は一度目を伏せてそれから小さく微笑んだ。
苦笑にも似たそれは見ているこっちが申し訳なくなってくる……なんてこともないけれど。

「そっか……なんとなく、こういう結果もありかなって思ってた」
「出来る限り説得したつもりなんだけどね。力及ばず申し訳ない」
さんが気にすることないよ。というか、探してくれてありがとう」
「どういたしましてー」

嘘は言ってない、嘘は。あたしなりに説得紛いのことをしたのは本当だ。 それでも爽やか光宏さんは首を縦に振ってはくれなかった。しかも会いたくない理由も言いやしない。 笠井くんから不満が飛ぶこともないので一応役目は終えたわけだ。 役目は終えたけど、あたしにはまだ仕事が残っている。幽霊探しはただの暇つぶしであたしの本職は彼らを上へ連れて行くことなのだから。

「それでね笠井くん、こんな結果で言うのもアレなんだけど約束した幽霊スポット教えてもらってもいー?」
「勿論。あっちに昔使われてたトンネルがあるの知ってる?事故とかも多かったみたいで結構いるよ」
「うわーありがち」
「うん。更にありがちなんだけど性質悪いのも多いから気をつけて」
「ご忠告ありがとー。そんな優しい笠井くんに耳寄り情報ー」

霊感少年の彼が言うんだから本当に性質の悪いヤツラが溜まっているんだろう。絡まれるのやだなーてか上行ってくれなそー。
うんざりしたままの表情でやる気なく続けるあたしに笠井くんは少しだけ首を傾げた。

「光宏さんの出現スポットと彼が気にかけてるちびっこについて」

笠井くんに会うときは周りに他の人間がいないことをチェック済み、 そして今回は幽霊ネットワークとやらに引っかからないように幽霊がいないことも要チェックしたのでこのことが光宏さんにバレる心配はない。 だから霊感少年の頑張りと運次第で会うことも出来るだろう。でもあの感じだと光宏さん、笠井くんを見かけた瞬間に逃げ出しそうだけれど。

後のことは気にせずに、くるりと目を丸くした笠井くんに言葉通りの情報を与えてからあたしはこの場を後にした。


「お節介」
「褒めてるんですかー?」
「貶してるんだよ」
「それは残念。でもま、折角それなりの苦労して見つけたんだからちゃんと会わせたいじゃないですかー」
「本音は?」
「あの爽やかさんが困り果てたところが見たいなーと」
「悪趣味」
「そっくりそのままお返ししまーす」

2人が再会を果たそうが果たせまいがどうでもいい。
光宏さんが笠井くんに会いたくない理由が気にならないわけでもないけど、物凄く気になるかと言われればそれもどうでもいい。

――ただ、上へ行くお誘いを笑顔一つで断った爽やかさんにほんのちょっとムカついただけで。

きっと断られるだろうなーとは思っていたけど、それでもムカツクものはムカツクんだから仕方がない。 だって彼が断わった所為であたしは性質の悪いヤツラに会いにいかなければならなくなってしまったじゃないか。 鬼上司との約束というか命令があるので、今回あたしは必ず一人は上に連れて行かなければならない。
あーほんとメンドクサイ。笠井くんも何でよりによってあんな性質悪いの紹介するかなー。
というのも、実はトンネルに幽霊が沢山いるのはとっくに知っていたのだ。 だけど見るからに嫌な雰囲気が漂っていたので存在自体をスルー。 この辺りの幽霊はあの場所に引き寄せられてしまうのか、あそこ以外で見つけた幽霊は数えるほどしかいない。
笠井くんがトンネル以外のスポットを知ってること期待してたのに…。 でもあそこ以外で見かけた幽霊には断られたしなー。

「翼さーん、やっぱりあそこ行かないと「ダメ」…ですよねー」

精一杯のおねだりを言い終える前にばっさり切り捨ててくれた少年はどこか楽しそうに笑っている。
きっと彼ならトンネルに溜まっている性質の悪いヤツラにも負けないと思うんだ。
あからさまにしょんぼりと肩を落としてみたら鼻で笑われた。酷過ぎる。 でも仕方ない。昔から長い物には巻かれろって言うし、ここは大人しくぐるんぐるんに巻かれておこう。



「どないしたんちゃん。自分死んだ魚見たいな目ぇしとるで」
「魚ではないけどあたしとっくに死んでますから目だって死んでて当たり前です」
「そりゃそうや!相変わらず面白い子やなあ」

別に面白いことなんて何も言ってないのに、相変わらず藤村さんの笑いのツボは理解出来ない。
ぐったりして寝転がるあたしに鬼上司の視線が全身に突き刺さる。視線で人を殺せるならあたし何百回死んだんだろう。

「その様子やとアカンかったんか」
「仰るとおりです。てか無駄に絡まれてうざいうざいうざい」
「よっぽどしつこいナンパやったんやなー」
「……」
「よしよしそら怖かったな、お兄さんが慰めたる」
「じゃあ上行ってください」
「こないええ天気やと散歩したなるわ」

この金髪あたしの台詞完璧スルーしやがった。だけど彼の薄情っぷりは今に始まったことではないのでこっちもスルーしてあげよう。 そんなことより今気にするべきなのは、どうやって可愛い天使サマの機嫌を取るかだ。
見た目だけなら誰よりも天使なのに中身が悪魔なのが悔やまれる。そして今まさに視線だけあたしを殺そうとしている死神

「最初にボク言ったよね、あの人間に関わってる間に必ず一人は連れて行けって」
「はいー、しかと聞きましたー」
「アイツとお前はもう無関係。違う?」
「違いませんー」
「だったら何で未だに一人も連れてってないわけ?ふらついてるヤツだっていたのに悉く逃がしやがって!」
「みんな逃げ足が速いんですよー」
「その喋り方ほんとムカつく。反省してないんじゃない?」
「してますしてます」

反省しているのだと伝えるために自主的に正座をする。尚もガミガミとお小言を降らせる翼を見て藤村さんは笑いを堪えるのに忙しそうだ。 …いっそあの金髪無理やり連れてってやろうか。そんな物騒な考えに気づいたのか藤村さんはぴたりと笑いを止めた。

「それならさっさと………アイツ、」
「翼さん?」

ヒートアップしたお説教が中途半端に終わりを迎える。ありがたいけど不思議に思って翼の視線を追えば、その先に見えるのは鬼ごっこ中の人間と幽霊

「わーお、笠井くん頑張るねー」
「あないに上ばっか見て走っとったら怪しいことこの上ないやろ」
「そうですねー……というか、あれじゃあ人間だけじゃなく幽霊にも怪しまれちゃいますよ」
「自分から霊感ありますって教えてどうすんだ」
「割と隠してたっぽいんですけどねー…この辺りは性質の悪いヤツラがふらついてるから尚更。……もしかして笠井くん、ピンチ?」

2人とも気づいているのかいないのか、トンネルまであと少し。
性質のわるーいヤツラがこの騒ぎに気づいて出てくるまであと何秒かかるやら。