こんなのが天使でごめんなさい。幽霊になってまず最初に思ったのが、それ。



after world



14歳。と言っても、その年齢は死んだ時でストップしてるから実際はもうちょっと上だ。
寿命でもないのにうっかり親より先に死んでしまったものだから重罪とかなんとか言われて100年もただ働きをさせられそうなところ、 現在上司というか先輩である少年になんとか食い下がって仕事内容を変えてもらいました。

永遠の14歳、職業は幽霊 兼 天使というやつです。


「ちょっと、さっさと仕事してよね」
「はいはいわかってますよー」
「何その態度。ていうかわかってる?3年も経つのにたった1人!お前が連れてった人数!」
「…いやあ、そうなんですよねー」
「アイツラに情なんて移してどうすんのさ。が仕事終えないとボクまで帰れないんだぜ?」

この見目可愛らしい少年は3年程前からあたしの監視役である天使の翼
見た目と名前だけならあーなんかそれっぽいな、とか思うけど、少年の性格が全てを台無しにしている。
そもそも天使なんてものは生きてる人たちが勝手に呼んでるだけなので実際は悪魔だろうが死神だろうが何でも良いらしい。
あたしとしてはただの幽霊だと思っているので、呼び名が安定せずに3年たった今も曖昧のままである。

まあ別に、彷徨ってる幽霊に自己紹介するとき困るだけだからどうでもいいんだけどね。

「お前見てると実は転生したくないんじゃないかと思うよ」
「そんなことないですよ。何年もふらふらしてるのなんて疲れるし、出来ればさっさとこの記憶なくして生まれ変わりたいです」
「それなら早く仕事しろ」
「てか前から聞きたかったんですけど、翼さんはなんでそんなに上に戻りたいんですか?」
「アッチの方が楽だから」

きぱりと答える少年に、そういやあなたはそんな性格でしたよねと思い直す。
この3年間でわかったことは翼もあたしと同じく寿命でもないのに親より先に生を終えてしまったということだ。
死亡理由とか詳しいことは知らないけど、性格から考えても自殺の線は薄いと思う。きっとあたしと同じような理由だろう。 そして彼はあたしのように反発することもなく100年のただ働きをあっさりと承諾したらしい。
その理由はこうだ「簡単な仕事だし生きてるより楽だから」――亡くなった時の年齢はあたしより1つ上なだけなのに、この違いはなんだ。 あなたの人生ってなんだったんですか、と柄にもなく泣きそうになってしまった。嘘だけど。

「クダラナイこと考えてないでさっさと働け」
「心を読むのはやめてくださいー」
「読めないから。……、あそこ」

彼の呆れた表情はデフォルトなので気にせずに、けれど次いだ言葉と変わった表情に視線を移す。
――どうやら仕事モード突入のようだ。


「すいませーん、ちょっとお話聞かせてもらっても良いですか?」

少し離れた位置でぷかぷかと浮かんでいる幽霊さんに話しかける。
極力友好的に笑顔を振りまくということはこの3年間で学んだことの一つでもある。

「……」
「初めまして。わたくし決して怪しいものではなくてですね、あなたと同じ幽霊です」
「……」
「こうして浮かんでるのも暇なんで世間話でもどうですかーなんて」

現世を彷徨う幽霊にはいくつかのタイプでわけられる。

1、自分が死んだことに気づいていない人
2、気づいているけど上に行く方法がわからない人
3、現世に未練があってこの場所から離れたくない人

などなど、その他にもいくつかあるだろうけど大きくわければこんなものだ。
2のタイプなら話は簡単。説明して連れて行ってあげればいい。 だけど1と3はそうもいかなくて激怒されたり逃げられたり散々だ。その結果があたしが連れて行った人数に比例しているんだけど、

幽霊という言葉に反応しないことから見て、どうやらこの人は自分が死んだことに気づいているらしい。
ここで軽く世間話でも出来れば良いんだけど、さっきから刺すような視線を向けてくることから簡単にはいきそうにない。

「あ、あたしって言うんですけどお兄さんのお名前は?」
「……天城燎一」
「天城さんですかー、これはどうも初めまして」

育ちが良いのか根が優しいのか、目付きとは裏腹に案外礼儀正しい人らしい。
視線だけで2、3人殺せそうな天城さんはガタイも良いので話していると首が痛い。翼と並んだら姫と野獣だなこりゃ。
そんな失礼なことを思っていると気づいたのか知らないが斜め後ろからこれまた突き刺さるような視線を感じた。

はいはいわかってますよーさっさと仕事すればいいんでしょ

「まどろっこしい説明は面倒なので単刀直入に言いますね。天城さん、大人しく上へ行ってください」

うっわーイタイイタイ!視線の鋭さ増したんですけど!
表情までも強張らせた天城さんに内心冷や汗ダラダラだ。何かこの人、大人しく行ってくれそうにない。
あっさり名前を言えたことから生前の記憶は失っていないようだし、これは一番面倒な3のタイプですか?

「何でお前にそんなこと言われないとならない」
「そうですよねー分かります、でもこれがあたしの仕事なんです」
「…仕事?」
「はいー。わたくし実はただの幽霊じゃなくて、天使とか悪魔とか死神的な仕事をしてる幽霊なんですー」
「……」
「肉体を離れ魂になったものは上へ行ってさっさと生まれ変わるっていうのが昔からの決まりらしく、 あなたのように現世でふらふらしている魂が多いと困ってしまうんですよねー。ほら、新しい命が生まれなくなっちゃうでしょう?」

だからさっさと上へ行け。
どんなに丁寧に説明したところで結局はこういうことだ。
彼にどんな未練があるのかなんて知ったこっちゃない。こっちも仕事なんで後生ですから大人しく連れて行かれてくださいというのが本音 こんな軽い説得にみんながみんなあっさり応じてくれればあたしだって楽なんだけどね、

「お前には悪いが俺には遣り残したことがある。それが何か思い出せないが、遣り終えるまで俺は逝けない」

あーやっぱり、未練ありまくりなタイプだ。しかもその記憶を失ってるとくれば、一番面倒だ。
彼の表情からも意志の強さを感じられて…というか、意志が弱ければ自然に連れて行かれていた筈
めんどくさいなあと思いながらも、そろそろ誰か連れて行かないと天使の顔した鬼上司が怖い。

「それではその遣り残したことが終われば上へ行ってくれるんですね?」
「あぁ、」

「……わかりました。あたしが天城さんの未練を断つお手伝いをします」


斜め後ろからの視線の痛さが増した気がするけど、でもこれが一番の解決策なんだから仕方がない。
驚いたあとしっかりと頷いてくれた天城さんの優しさだけが救いだ。