6




「なあ、お前らって口に出さなくても互いが思ってることわかるか?」


同じ顔が同時に顔を合わせて、これまた同時にくるりとこっちを見る。
顔のベースが同じなのは一卵性だから当然として、服の趣味とかは正反対だけど同じタイミングで似たような動きをするのはよくあるな。 なんだかんだで同じものが好きだったりもするし。


「お兄どしたの?」
「熱ある?悪い物でも食べた?」
「だったらお前らも同じ物食ったな」
「お兄のご飯は美味しいよ!」
「らしくないこと言うからびっくりしただけだよ!」


急に慌て出す妹たちの頭に右と左の手を載せた途端大人しくなる。
同じ角度から俺を見上げる二つの顔に「ちょっと訊いてみただけだ」と言えば同じタイミングで息を吐いた。


「欲しい物が一緒だったりはするよね?」
「同じこと同時に言ったりも」
「でも考えてることまではわかんない」
「もしかしたら似たようなこと考えてるかもしれないけど声に出さなきゃお喋りできないもん」
「よくあるテレパシーみてえのは無理ってことか」

「お兄、漫画の読み過ぎ?」

「それ面白い?双子の話?」
「読みたい!」


騒ぎ出した二人の頭をくしゃりと撫でてこの話は終いにする。
自分で訊いといてなんだがまあそりゃそうだよな。双子の神秘なんて都市伝説みてえなもんだわ。

死んじまった双子の妹が姉の身体の中で精神だけは生きていて時々身体の支配権が入れ代わるなんて、まじでどんな漫画の世界だよ。

だけどそれが実際に俺のすぐ傍で起こってるともありゃ鼻で笑い飛ばすこともできやしねえ。
二重人格ってのも考えた。精神的なショックでもう一つの人格ができたりするらしいが あいつの場合はもう一つの人格が一年前までは実在しててそいつを知ってるやつまでいるんだ。


「めんどくせえ」


考えてみたって滅多に使わないお粗末な脳ミソじゃどうしようもねえわな。
そもそも頭を使うのは俺じゃなくてあいつの役目だろ。

らしくないことはするもんじゃねえと歩きに出た先でばったり出くわした顔に思わず口の端が上がった。


「人の顔見てなに笑ってんだよ」
「ちょっとな」
「今日は一人?」
「休みの日まで一緒ってわけじゃねえよ」
「それもそうだね」


自販機の前で立ち止まった翼が投げて寄こした缶を受け取ってどうやら気前良く奢ってくれるみてえだから遠慮なくプルタブを開ける。
ガコンと二度目の音が響いて、しゃがんで缶を拾い上げた翼も俺と同じくプルタブに指をかけた。


「どう?少しは真面目に勉強してんの?」
「六助よりはな」
「あいつまじでやばいらしいね」
が教えてやってたからちっとはマシになったんじゃねえか」
「だと良いけど。てかは六助なんかに教えてる暇あるなら自分の勉強した方が良いんじゃないの」
「あー…あいつ志望校変えたんだよ」
「武蔵森じゃなくて?」
「おう。俺と同じとこにしたらしい」
「それはまた随分下げたね」
「だろ?」
「本人がそれで良いなら良いけどさ」


言いながら後ろのフェンスに体重を預け視線だけをその奥に送る。
フットサルをする賑やかな光景に端整な顔が少しだけ緩んだ。


「なあ」
「なに」
「ちょっと馬鹿げた話しても良いか」
「珍しいね。聞いてやるよ」


にやり、歪む口許。
ちらりと俺を見た勝気な顔にさてなにから話そうかと目の前のこいつとは比べ物にならない脳ミソをフル回転させる。


「死んだ人間の精神が生きてる人間の中に入ったとして、あんたなら最後どうなると思う?」


上手く説明はできねえがこいつなら汲み取ってくれるだろう。
たちの名前は伏せて飽くまでも馬鹿げた話という体で続ける俺の話を翼は紅茶を飲みながら最後まで黙って聞いていた。


「柾輝って幽霊とか信じるタイプだったっけ?」
「あんたは?」
「こっちが訊いてるんだけど、まあ良いや。僕は自分が見たものしか信じないよ」
「そうか」
「でもま、珍しくお前がこんな馬鹿げた話をしたから答えてやるけど、それって二重人格っていうより憑依に近いんじゃない?」
「憑依…?」
「だって精神だけのやつはもう死んでんだろ?それで持ち主には気づかせずに時々身体を乗っ取ることができる」
「入れ代わりって言ってるけどな」
「似たようなもんだよ。まあ僕もこの手の話は詳しくないから憶測でしかないけど、」

「このまま行ったら最後は完全に身体を乗っ取られるかもな」

「やっすいB級映画に付きものなお粗末な展開。これくらいお前も読めてんだろ」
「……」
「なんで突然こんな突拍子もないことを言い出したのかとか詳しくは訊かないよ」
「…サンキュ」
「そう思うなら今度なんか奢れよな」
「へーへー」


後ろに預けていた重心を元に戻した翼はそのまま本来進む筈だった道に足を向ける。
俺はまだその場から動かずにすっかり冷えた缶に目を落とした。


「柾輝!」
「あ?っと、」
「最後のどんでん返しでハッピーエンドってのが有りがちな展開だぜ?」


蹴り飛ばされた空っぽの缶を胸で弾いて受け止めてから飛んできた先を見る。
数メートル先に立つどこまでも自由な名を持った我らがキャプテンは呆けた俺を見て左右の口角を綺麗に持ち上げるんだから、こいつにはまじで敵わねえな。


「精々足掻けよ騎士様」