Happy valentine! 自給自足って、大事ですよね? 甘い物が苦手な私による私の為の即席バレンタインプチ企画(笑) 付き合って初めてのバレンタイン。チョコレートがありません。さて、彼氏の反応は? #1 郭英士の場合 #2 李潤慶の場合 「…へえ。ないんだ、チョコ」 「いや、あのそれには事情がですね、はい言い訳はやめますありませんごめんなさい」 冷やかな視線に射抜かれて素早く頭を下げる。 ちょうど自主正座をしていたところだから、見事なまでの土下座になった。 …ギャグでもなく土下座をする機会が自分に与えられるなんて夢にも思ってなかったよ。 「……まあ良いや。反省してるみたいだし今回は許してあげる」 「ほ、ほんとにっ!?」 「うん」 労わるような優しい声に思わず顔を上げたのが間違いだった。 目の前に広がっていたのは女性顔負けな綺麗な微笑み――ではなく、見るからに「チョコです!」と激しい自己主張をしたホールケーキ。 直径15cmほどのそれは、チョコのスポンジをチョコでコーティングし、 表面にホワイトチョコで三連のハートが描かれた以外は飾りのないシンプルなものだ。 世間一般ではガト―ショコラとでも言うんだろうか。 生憎お菓子の種類には詳しくないあたしにはチョコの塊にしか見えない。 突如現れた天敵と見つめ合うこと数秒。ふと我に返って顔を上げる。 「これ全部食べてくれたらね」 ホールケーキを飛び越した向こう側に広がる女性顔負けの綺麗な笑みにひくりと頬が痙攣を起こした。 「……英士さん、わたしに死ねと?」 「なに言ってるの。最近の流行りに乗ってみただけだよ」 誰だ逆チョコなんて広めやがった馬鹿は! ええそうですあたし今更隠すまでもないけれど苦手なんですチョコレート。 というか、甘い物全般が得意ではない。もっと言えば嫌いだ。 匂いだけでアウトなあたしがお菓子会社の陰謀に踊らされて手作りチョコなんて作るわけもなく、 甘い匂いと女の子の熱気が充満しているチョコレート売り場に行くわけもなく、 結果、バレンタインデーを放棄しました。 バレンタイン関連の話題には極力触れず今日がただの休日だと言わんばかりに帰ろうとしたらちょっと待てと引きとめられて今に至る。 …まあそうよね。付き合って初めてのバレンタインだもん、期待するよね。 「…ええと、そのとっても見事な出来栄えのチョコレートケーキはどうしたんですか?まさか手作りとかじゃないですよねー」 「そのまさかだよ」 「!」 「なにその顔。嘘に決まってるでしょ」 「あ、そうか、良かった…」 「これ、食べてくれるよね」 「…あの、あたしチョコレートはあんまり、いやその英士が用意してくれたのはものすっごくそれこそ歌って踊りたいくらいには嬉しいんだけど如何せん甘い物はあたしの舌が受け付けないというか胃が拒否するというか」 「食、べ、な、い、の?」 「……いや、だからあの、……ハイイタダキマス」 あれ、やだなんでだろ目から汗が。 素晴らしい笑顔とともに一音一音区切って紡がれた死刑宣告に頷いてしまったあたしは弱者です。 だって目が怖かったんだもん。なんかいた。瞳の奥に魔物がいた! にこにこと笑みを浮かべる英士を前に正座でケーキを頬張るあたしは、 日本に独自のバレンタイン制度を作りやがったお菓子会社への恨みごとを脳内で吐き続けた。 …全部食べられたかって?――いいえ。 三分の一ほどで三途の川に片足を突っ込んだあたしに気づいた英士が仕方ないねと渋々お許しをくれました。 ものすっごい大きな溜息をしてたわりには、ものすっごく楽しそうだったけどね! 結論、バレンタインなんて消えてなくなれ。 「え?なんでチョコケーキがあったかって?が甘い物嫌いなのは知ってたしの性格ならバレンタイン自体なかったことにするだろうと思って予め買っておいたんだよ」 あたしが甘い物ダメなの知ってて用意したのがアレですか。 ……なんであたし、こんなドSを好きになったんだろう。 「ごめんなさい!チョコレート、ないの」 がばっと頭を下げる。 付き合って初めてのバレンタイン。チョコレートを用意できなかったあたしは彼女失格だ。 。名前を呼ばれて恐る恐る顔を上げると、そこにはいつもと変わらない優しい表情が広がっていた。 「なんで謝るの?僕はチョコレートが嫌いだからいらないよって言ったよね?」 「うん。でも英士くんが潤慶のチョコ嫌いは饅頭怖いだって…」 「ヨンサったら言っちゃったんだ。には内緒にしてって言ったのになあ」 「あたしに内緒って、どうして?」 「だって、甘い物苦手でしょ?」 「うん、そうだけど」 「僕はワガママだから、貰うんだったら手作りが良いんだ。市販のチョコでも嬉しいけど、やっぱりの手作りが良い」 「…あの、」 「そんな顔しないで。もうっ、だからには内緒って言ったのに」 「……あたしが甘い物ダメだから、嘘ついてくれたの?」 「とオソロイにしたかっただけだよ」 どこまでも優しい笑顔を広げた潤慶に、胸の中を複雑な想いが渦まく。 潤慶の言う通りあたしは甘い物が苦手で、潤慶からは「僕も嫌いだから用意しなくて良いよ」と二月に入ってすぐ言われていた。 そしてその代わりバレンタインにはデートをすることになったのだ。 待ち合わせ場所に向かう途中、偶然出会った英士くんとバレンタインの話になったところ発覚したのが饅頭怖い。 元ネタである落語の話はこの際置いといて、つまり潤慶はチョコレートが好きなのだ。 直前に知ったあたしがチョコレートを用意できるはずもなく、その結果、待ち合わせ場所に着いてすぐ頭を下げることとなった。 「ありがとう潤慶。でもね、あたしは潤慶がチョコレートが好きなら用意したかったよ」 「手作りじゃなきゃやだって言っても?」 「うん」 「匂いだけでもダメなのに?」 「うん」 「…ふふ、愛だね、」 「う、ん……うん」 「じゃあ来年はちょーだい。の愛がたくさん詰まったチョコレート」 にっこり笑ってあたしの手を取った潤慶にしっかりと頷く。 たとえ甘い物が苦手だって、大好きな人が好きな物なら何としてでもあげたいよ。 来年までにせめて匂いだけは克服できるように頑張ります! 「なんで嘘ついたかって?うーん、僕の所為でが困るのは嫌だったからかな。でも、愛があればヘッチャラだったね。サランヘヨ!」 好きな物がオソロイになる日も近いかもしれない。 だって、チョコレートなんかより潤慶の方がもっともっと甘いから。 |