ぱたぱたぽてぽて。尻尾を振る犬を見ているのは割と好き。



犬、飼い始めました。



「何でタクといとこだって教えてくんなかったの?」


うーわーメンドクサイ。ので、まずはさっくり斬ってみる。

「メンドクサイから」
「なにそれ!」
「……面倒なことになりそうだったから」
「言い直しても駄目!ヒドイ!」

ほら、正に今面倒なことになってるじゃないか。
わたしの前でぷくっと頬を膨らませた犬に内心大きな溜息をつく。
実際に吐かなかったのはあれだ、そんなことしたら目の前の大型犬が益々騒ぎ出すから。

わたしとたくちゃんの関係を内緒にしていたのはほんとだけど、でもそれが悪いことだとは思ってない。
そもそも今まで気づかなかった彼も彼だと思うの。
藤代くんの苦手な物とか学校での失敗談とか、本人に聞かされたわけでもないのにわたしが知ってる時点で少しは疑うべきだろう。
キャプテンさんなんてとっくに気づいてたのに。
……うん、藤代くんは番犬には向いてなさそうだなあ。誰にでも懐くか誰にでも吠えるかのどっちかっぽい。


「―って、ちゃん聞いてる!?」

いいや、全く。右から左どころか入ってもなかったや。
きゅっと眉を吊り上げてわたしを睨みつけてくる藤代くんに取り敢えず頷いておく。だってほんとのこと言ったらもっとウルサイ。
わたしの言葉を素直に信じたのか、藤代くんは興奮気味にわたしの方へ乗り出していた身体を大人しく椅子に凭れさせ、
それでも拗ねたように尖らせた唇はそのままにぷいっと顔を横に向ける。

…うわあ、全身で感情を表してるよ。

こういうところは何度見ても飽きなくて、実はちょっと気に入っていたりする。

「一緒に遊びに行ってくんなきゃ許してやんない」

別に許されなくても良いんだけどなあ…。
でもこのまま放置しとくと後でもっともっと面倒なことになることは学習済み。
ちらちらと視線を送ってくる犬をいい加減大人しくさせるべく、わたしは はああ と大きくわかり易く息を吐き出した。


「まずは藤代くんが空いてる日を教えてね」


噛み付かれる前に適当に餌でも与えておくのが一番。
それに、わたしがどれだけ投げやりに言ったとしても、雨雲を一掃するような晴れやかな笑顔が返ってくるのはいつものことなのだ。



「たくちゃんうちの学祭来るんだよね?」
「うん、丁度練習もないしそのつもり」
「じゃあついでに藤代くん連れて来て」
「……もしかしてそれでチャラにするつもり?」
「ん。だって休みの日は家で寝てたいもん」