躾っていつまで続ければ良いの?



犬、飼い始めました。



「……藤代くん」
「なにー?」
「この達筆過ぎる字は筆ペンで書いたの?」
「あぁ、真田のね。多分そうじゃないかな。アイツ習字得意らしいし」
「…筆ペンは持参?」
「だと思う。マジックなら監督とかから借りたけど筆ペンはなかったと思うし」

つまり、ツリ目くんは常に筆ペンを持ち歩いてるってことか。
筆箱の中に筆ペン入れてる中学生って珍しい気がする。あ、でも書道やってる人なら持ち歩くのかな?

帰りのバスで何故か隣に座ってきた藤代くんに笑顔で渡されたのは文字がびっしり書かれたサッカーボール。
そういえば昨日ちびっこくんに寄せ書きがどうとか言ってたなーって思いつつ受け取ったけど
書くことが浮かばないから皆のを手本にしようと思って眺めてたのね。
個人的に気に入ったのは、選抜には落ちたけどちっちゃい方のキーパーくんの代理で来た人の物凄く長い解説。
彼だけで3人分くらいのスペース使ってると思うの。でもこれで予想が当たったらすごいなあ。


「ねーちゃん」
「んー」
「…」

え、何で無言なの?でも特に興味はないのでこちらから訊ねたりはしない。
だって今は全員分のメッセージを読むのに忙しいんだもん。

ちゃん」
「なにー」
「……なんでもない」

じゃあ黙ってろよ。待ては覚えさせた筈だから大人しく座ってて欲しい。
達筆過ぎるツリ目くんの字は所々解読出来ないのもあったけど一応全部読み終わったから今度は何を書くか考える。
みんなガッツリ書いてるのかと思ったけどそうでもなかったからわたしも一言で良いよね。

ちゃーん」
「…」
「…え、シカト!?」

ギャンギャンと騒ぎ出した大型犬に仕方がないと溜息をつく。
反応しても何にも言わなかったのは自分のくせに、と思わないこともないけど顔を上げてあげたわたしは優しいと思うの。
まあ、優しさというよりこのまま放置してるともっと煩くなりそうだったからなんだけどね。

「藤代くん、さっきから何の用?」
「あ、えーと用ってわけじゃないんだけど」
「なあに?」
「うん、あのさ、キャプとかは高校生になるわけだし選抜チームも入れ替えとかあるじゃん?」
「そうだね」
ちゃんはこのままマネージャー続けるのかなーって」
「あー、」
「もしかして辞めちゃうの?」
「んー………どうだろう?」
「自分のことなのに訊き返すの!?」

俺は辞めないよ!と喚く藤代くんは合宿中に散々体力使ったのに何でこんなに元気なの?
そもそもチーム継続を決めるのは監督の玲さんであって藤代くんじゃないよね。自分は絶対残るって自信満々なの?
そして起きている人の視線が痛いからいい加減黙って欲しい。疲れて寝てる人だっているのに。わたしも寝たい。

ちゃんがマネ続けても辞めても俺とは仲良くしてね。メールも電話もいっぱいするし遊びにも行こうね!」
「えー」
「えーって何で!?あ、俺が飛葉に遊び行くでも良いから!」
「えー」
「嫌なの!?俺と仲良くするの嫌なの!?」

ほんとに元気だなあ藤代くん。元気が有り余ってるのは良いことだけど五月蠅い。そしてわたしは疲れてるの。
ちびっこくんの怪我とかあったけど何だかんだで今日も平和だなーと思いながら止まっていたペンを動かした。

「うっせぇよ藤代!」
「だってちゃんが…!」

取り敢えず、人の所為にするのは止めさせよう。まだまだ躾が足りないみたい。



「寄せ書きはちゃんと書けたの?」
「うん。『わたしはもう少しマネージャー続けます』って書いた」
「へえ、続けることにしたんだ」
「受験勉強に差し障りがない程度で構わないからもし良かったら続けてくれないかって。気遣いを忘れない玲さん素敵」
「つまり監督の為に続けるってこと?」
「当たり前ー。てか玲さんいなかったら最初からマネなんてやんないもん」
ってほんとに監督のこと好きだよね」