飼い主だからって何でも知ってるわけじゃない。



犬、飼い始めました。



「……ねぇ、さっきから何なの?」
「メール打ってる」
「そんなの見りゃわかるよ」
「じゃあ聞かなければ良いのに」
「…柾輝、通訳して」
「さっきから何で唸ってんだ?」
「なんて打とうかなって」
「内容は?」
「あけましておめでとー」
「なにそれ。そのまま打てば良いじゃん」
「それじゃだめだから考えてるんだよ。翼くん、そんなこともわかんないの?」
「いってぇっ!なんでいつも俺殴んだよ…!」
「黙れ六助」
「……。何でそのままじゃだめなんだ?」
「もうちょっと文章多めにしてあげてって。たくちゃんが」
「もしかして、メールの相手って藤代か?」

ロクたちが騒がしいのはいつものことだから気にせずに携帯と睨めっこしたままこくりと頷く。
反抗期っぽい藤代くんとはずっと連絡を取ってなかったけど、たくちゃんに頼まれたからこうしてメールを作成してるのだ。
そういえばわたしからメールするのって初めてだなー。
藤代くんからのメールはいつも内容がない。にんじんは食べたくないだとか先輩に殴られただとか、正直どうでもいい。
何だかんだで夏から毎日のようにメールが送られてきてたし時々電話で話したりもしてたから、こんなに連絡取ってないのも初めてだ。

「今年もよろしくとか韓国戦頑張ろうとかで良いんじゃね」
「でもわたしよろしくするつもりないよ?」
「…社交辞令で良いんだよ。年賀状みたいなもんだ」
「そっか。じゃあそーする」

かこかこかこ。簡単な文章を打って取敢えず保存。冷たくなった手に急いで手袋をする。
出来れば日付超えるのと同時に送ってあげてって言われたから、忘れないようにしないと。
もし忘れてぴったり届かなかったとしても、センターが混んでたってことにすれば問題ない。


、携帯光ってる」
「あ、ほんとだ」

手に持ったままだった携帯を開くと、ディスプレイに表示された「藤代くん」の文字。
サルくんとロクが1分前からカウントダウンをしてたお陰でメールを送るのは忘れなかったんだけど、なんで電話…?

「どした?」
「電話だから放置してる」
「出てやれよ」
「だってどうせここじゃ煩くて話せないだろうし」

お参りの列に並んでるから離れるわけにもいかないし…てか、周りも人いっぱいで身動きが取れない。
留守電に切り替わった携帯を閉じようとして、でもすぐにまた画面が着信を知らせるものに切り替わる。
表示される名前はやっぱり藤代くんで、どうしようかなーと眉を寄せる。

「藤代じゃん。しつこいだろうから出れば」
「んー…」
「…あ!そういやお前ら今喧嘩中なんだっけ?」
が喧嘩あ?いつもみたいに相手が勝手にキレてるだけちゃう?」
「でもこの前の練習の後藤代が不機嫌でよ。俺ちょっと睨まれた」
「お前の勘違いじゃなくて?…、ほんとに喧嘩したのか?」
「違うよ五助くん。喧嘩するほど仲良くないもん。…あ、でも反抗期っぽかったかも」
「…藤代、」
「不憫なやっちゃなー。藤代ってにほ…っ!翼なにするん!?」
「お前らが口はさむとややこしくなるから黙ってろ。の世話は柾輝の仕事だろ」
「……。藤代から最近メールなかったんだろ?」
「うん」
「だったらあっちは喧嘩したって思ってるかもな。気にしてるだろうし、出てやれよ」

ちょうど3回目の着信がきたので通話ボタンを押す。
近寄ってきたサルくんとロクを翼くんと五助くんが叩いてるけど、いつものことだからまあいいや。

『――し、ちゃ…?』
「あーごめん、今無理」
「直球かい!」
「人混みの中とか出れなくてごめんとかフォローしてやれよ…!」
「2人とも煩い。……えーと藤代くん?今ちょっと煩いから後で掛け直すよ」
『めー…うれしかっ、りが―!それと、もうい――おめ、とっていっ――いんだけど』
「んん、なに?ごめんほんとに聞こえない…!」

周りが煩くて途切れ途切れにしか聞き取れない。てか、藤代くんだってわたしの周りが煩くて聞こえないんじゃないかな?
これじゃ会話にならないし、取敢えず切ってメールすれば良いかなと思いながらも耳を傾けていると、さっきから同じような言葉を繰り返していることに気づいた。
一音一音はっきりと区切られた言葉を一生懸命繋ぎ合わせて、

「あ、わかった!――おめでとう」

言い終えると同時に、ピーっという機械音が響く。

「……充電切れた」
「そういや年明け前からずっと携帯弄ってたもんな」
「藤代なんだって?」
「んーと、なんか新年のあいさつがしたかったみたい」

わたしもメールだったんだからメールで良かったのに。
わざわざ電話とか、藤代くんって意外に律義?



「あけましておめでとー」
「おめでとう。さっき誠二からメールきたよ。が祝ってくれてすごい喜んでるみたい」
「年明けを祝うのってそんなに嬉しいの?」
「そっちじゃなくて……、電話でおめでとうって言ったんだよね?」
「うん。新年のあいさつ」
「…誠二からメールきてない?」
「きてるかもだけど、あけおめメールいっぱいだからまだ読んでないよ」
「じゃあアイツのだけで良いからすぐ見て返事してやって。それで、誕生日おめでとうって忘れずに打ってね」