犬にも反抗期ってあるの?



犬、飼い始めました。



王子くんが顔面キャッチしたりキャプテンさんが病院行ったり、年内最後の練習でアクシデント続出だ。
コーチが病院に付き添ってる間はわたしがサポートに入ったから、いつも以上に疲れてるわけで。

ちゃーん!」

つまり、解散と同時に駆け寄ってきた藤代くんの相手をするつもりはないのだ。
玲さんたちがちびっこくんとちっちゃい方のゴールキーパーくんに話をするのは知ってたから、邪魔をしないようにさっさとその場から離れる。

「待ってよちゃん!」
「……なに?…あ、キャプテンさんの怪我なら全治1か月だって」
「そうなんだ。って、キャプのことじゃなくてさ。ちゃんクリスマスの予定って決まってる?」
「決まってるよ」
「イヴも?」
「イヴも」
「…じゃあ、23日とか26日は?」

歩き続けるわたしの隣に並んで、ひょこっと顔を覗きこんでくる藤代くんに少しだけ眉を寄せる。
これはもしかしなくてもあれだろうか。
2か月前のことを思い出して、先手を打とうと口を開く。

「あのね、藤代くん。クリスマスにプレゼントを配るのはサンタクロースと大人だけだよ」
「…どういうこと?」
「つまり、ハロウィンのときみたいにわたしから貰おうとしないでねって話」
「えー!」
「以上、解散」

不満そうな声もなんのその。玲さんの真似をしてぱちんと両手を打ち鳴らす。
わたしは一応飼い主みたいなものだけど、だからと言って飼い主にプレゼントを強要しないでほしい。
一人で騒がしい大型犬を放置してさくさく歩く。…すぐに追いつかれるのは足の長さの問題じゃなくて、相手が犬だからだよ。

「プレゼントはなくても良いからさ、どっか行こうよ」
「どこに?」
「イルミネーションが綺麗な場所とか!」
「寒い場所はちょっと…てか武蔵森は12月毎日練習あるんでしょう?」
「夕方からなら空いてるよ……あれ?なんで毎日練習だって知ってるの?」
「あー……マム、みやくんとかが言ってた気がする」

ほんとはたくちゃん情報だけど、それを言ったらいとこだってことがバレるので言わない。
マムシくんがそんな話をしてるのは聞いたことないけど、確かめたりなんかしないだろうから問題ない筈。

「あ、じゃあ大晦日は?元旦は練習ないし、初詣行こうよ!」
「無理」
「なんで?」
「もう行く相手決まってるから」
「…それって黒川?」
「柾輝も一緒だけど、飛葉のみんなとだよ」
「ふうん。……もしかしてクリスマスもあいつらと一緒?」
「当日じゃないけど、一緒に遊んだりはするかな」
「だったら俺とだって遊んでよ」
「えーと、でも藤代くんは寮生だから門限あるし、実家にも帰るだろうし」

武蔵森の練習が完全に休みなのは三が日だけだった気がする。
わたしは元旦と2日に毎年恒例のあいさつ回りという名のお年玉ツアーがあるから、都合が合うのは3日だけ。
どうしたものかと考えていると、やけに明るい声が降る。

「じゃあさ!俺も一緒に初詣行っちゃだめ?」
「んー、柾輝たちに聞いてみないと」

わたしは別に良いけど、一人だけ他校生だと会話についてけないんじゃ…あ、でも藤代くんなら平気そう。
勝手に決めるわけにもいかないから後でメールするよと言おうとして、隣に藤代くんがいないことに気づいた。
ぴたりと足を止めて少しだけ振り返る。どうしたんだろう?俯く藤代くんに首を傾げる。

ちゃんっていっつもあいつらばっかり」

……ん?
わたしの隣を駆け抜けて行った藤代くんを追いかけるなんて無謀なことはしなかった。



「だからアイツ不機嫌なのか。3日に相手してやったら?」
「えー、だってどうせ5日の練習で顔合わせるんだし最後の休みを潰さなくても」
「確かに武蔵森は4日から練習だけど、誠二がに会いたがってるんだから気にしなくて良いんじゃない」
「そうじゃなくて。わたし、寝正月がしたい」
「……じゃあせめて年明けたらメールしてあげて」