スキンシップは大事なんだって。 犬、飼い始めました。 「俺、ドイツ行きます」 あ、うん。行ってらっしゃい。それよりわたしもう帰っても良い?勝負終わったんだよね? ギャイギャイと騒がしい犬を横目で見て、わたしがこの場にいる経緯を思い出して顔を顰めた。 ちびっこくんたちの勝負には全く興味がなかったから授業を終えてさっさと帰ったのは良かった。 無事に家に着いて制服を着替え、冷蔵庫を漁っても食べる物がなかったからとコンビニに向かったのが失敗だったんだ。 コンビニに向かう途中でばったり出くわした藤代くんたちというか、主に藤代くんに捕まってそのまま学校に連行されて今に至る。 犬が飼い主を捕まえるとかあってはならないと思うの。下剋上が許されるのは戦国時代だけで良い。 「ちゃんも一緒にラーメン食いに行かない?」 突然話を振られて内容を深く考えずに頷くと、藤代くんが嬉しそうに笑った。 お腹は空いてるし寒いからラーメンは丁度良い。ついでにご馳走してくれるともっと良い。 そもそもわたしが寒さと空腹に耐えながらここにいるのは藤代くんの所為なんだから。 「ふざけんな藤代!行かねぇぞ!」 「鳴海が自分で言ったんじゃん。ちゃんも見たいよね、鼻からラーメン」 「……ラーメンは食べたい」 「ほら、ちゃんも見たいって」 「アホ!マネージャーはラーメン食いたいって言っただけだろ。な!」 必死の形相でぐるんとこっちを見たロン毛くんにこくりと頷く。 見苦しいものを見ながら食事なんかしたくないしお店の人にも迷惑だから、やるなら自分たちだけでやれば良いと思う。 てか、耳が痛いから近くで騒がないでほしいんだけどなあ。 飼い主としてびしっと躾けるべきか悩んでいると、耳慣れた声が響く。 「飯食いに行くにしても、まずはを家に帰してやれよ」 「お疲れ黒川。なんで?」 「の格好見ればわかるだろ」 その言葉にじいっとわたしを見る藤代くんはスルーして柾輝を見上げる。 「着替える?」 「ん、このまま部活だしジャージで帰るから着てろ。マフラーもそのままで良いぜ。終わったら取り行く」 近くのコンビニに行って戻るだけの予定だったわたしは、上着もマフラーも身に着けていなかったのだ。 この季節に薄着で外にいたら寒いに決まってるし、その上わたしは極度の寒がり。これ何の拷問? そんなわたしに気づいた柾輝がマフラーと学ランを貸してくれなかったら今頃凍死も夢じゃないと思うの。 ちなみにぶかぶかの学ランは当然のように全てのボタンを閉じてあるし、 少しでも冷たい空気の侵入を防ぐために袖口は丸めて蓋にしている。皺になるとか気にしない。 わたしが柾輝にお礼を言う前に、藤代くんが口を開く。 「別にこのままでも良くない?可愛いし!」 「……そういう問題じゃなくてな、」 「は寒がりだからこの程度の防寒具じゃ足りないよ。てか藤代部活じゃないわけ?」 「あ、椎名。ちょっと遅れるって言ってあるから大丈夫」 「なに言ってるんだ藤代、間宮はもう帰ったぞ?」 「ちょっとくらい良いじゃないっすかー」 「駄目だ。お前が戻らなければ笠井にだって迷惑が掛るだろ」 「えー、タクなら平気っすよー」 ラーメンは食べたいけど、たくちゃんに迷惑を掛けてまで食べに行きたいとは思わない。 てか別にラーメンじゃなくても温かい物ならコンビニで買えるし。 どうしようかと眉を顰めると、それに気づいた柾輝がいつものようにぽん、とわたしの頭を撫でた。 …んん、もしかしたらこれ、良いかもしれない。これは実践するべきかと駄々をこねている藤代くんを見る。 「藤代くん」 「ん、なにちゃん?」 「部活は行かなきゃ駄目だよ」 「えー」 「ラーメンはまた今度。ね?」 「……うん、わかった。またメールすんね!」 背の高い藤代くんの頭を撫でるのは一苦労だ。 背伸びしても足りないから藤代くんの手を引っ張って、ちょっと強引に前屈みにさせたところでやっと手が届く。 周りにいた人から妙な視線を感じたけど、これ以上寒い場所にはいたくないのでさっさと家に帰った。 「思ったよりふわふわしてたよ」 「……一応聞くけど、なにが?」 「ん、毛並み?」 |