放し飼いって周りに迷惑だから止めた方が良いよね。 犬、飼い始めました。 「あ、ちゃん!こっちこっち!」 日本の代表的な忠犬の前でぶんぶんとしっぽ…手を振る忠犬もどきくんはかなり目立つ。 元々背が高いのに加え、高く上げた手を左右に大きく振っての猛アピールの所為か周囲の視線を独り占めだ。 しかもわたしにまで視線が集まるから止めて欲しい。ちょっとウザい。…嘘、凄くウザい。 彼は一度自分の顔の良さとかについてじっくり考えるべきだと思うの。 本来なら飼い主のわたしが教えてあげるべきなのかもだけど、面倒だからそれは嫌。 ぽてぽてとペースを変えずに歩いていれば、藤代くんがぱたぱたと駆け寄ってきた。 「藤代くん来るの早いね」 左手に巻き付けた時計を確認すると、待ち合わせ時間よりまだ5分も早いのだ。 正直に言おう。藤代くんは絶対待ち合わせ時間の10分後くらいに来ると思ってた。 「三上先輩が『ちょっとでも待たせると嫌われるぞ』って言うから頑張ってみた」 「…ということは、この場合わたしが待たせちゃったから嫌われるってこと?」 「俺がちゃんのこと嫌いになるわけないじゃん!そんなことより早く行こっ」 すっと伸ばされた手のひらを見ながら首を傾げる。 でも別に、この手が何を意味するのかがわからないとかそんなのじゃなくて、 ただ単に藤代くんに妙な助言をした先輩の名前に聞き覚えがあったからだ。 武蔵森のみかみ……選抜の合宿でそんな感じの名前の人がいた気がしないでもない。 合宿中のわたしはマネージャーって言っても選手とはそんなに関わってなかったから あの3日間で顔と名前が一致した人は少ないし、全く覚えていない人の方が多い。 てか3日間だけだし、わたしが正式採用になったら選抜に受かったメンバーだけ覚えればいいかなって思ってたからね。 「…どうかした?」 「ううん、何でもない。行こっか」 不思議そうに首を傾げていた藤代くんは、わたしが手を取るとにっこりと笑顔を浮かべた。 藤代くんは表情とか仕草がいちいち可愛いのでずるい。女の敵だと思うの。 今日は黒川家の双子ちゃん一押しのコーディネートだから良いけど、それ以外のときは街中で一緒に歩きたくはないタイプだ。 一緒に歩きたくないといえば翼くんだけど、翼くんが一緒のときはサルくんとかもいるから問題ない。 それに、大抵2人ずつ並んで歩くからわたしの隣に翼くんが来ることはないし。 「ちゃんってどんなとこ遊びに行くの?」 「そだな…ゲーセンとか」 「マジで!?意外かも」 「そう?柾輝たちとよく行くし、シューティングゲームとか得意だよ」 ゾンビを撃ち殺すのはストレス解消に最適だからゲーセンに行くと必ずやる。 柾輝とペアでやるとクリア率が高いから一緒にやることも多いなぁ。 あとはマリカーで対戦したり。でもいつも行くとこは5台しかないから全員で対戦したことはまだ一度もない。 前に一度「翼くんに向かってパイ投げるのは凄い楽しくてお気に入りなんだよ」って柾輝に言ったら、 ちょっと困った感じに笑って「アイツには絶対言うなよ」って頭をくしゃっとされたこともあった気がする。 「飛葉のヤツラずりぃ。俺だってちゃんと遊びたいのに」 ……んん?それはつまり、散歩だけじゃ不満ってこと? 公園とかでフリスビーを追いかけさせろっていう遠回しな催促? だけどわたし体力使うこと嫌いだし、藤代くんに合わせて遊んだりしたら確実に筋肉痛になると思うから却下。 ということで、口を尖らせる大型犬をはてさてどうやって宥めようか。 機嫌が悪くて周りの人に吠えたりしたら困るもんね、わたしが。 飼い主のマナーが悪いって思われるのは嫌だ。 どうしようかな。ぐいっと手が引っ張られたから一旦思考を中断して斜め上を見る。 …なんかきらきらしてるんだけど何故に?泣いたカラスがもう笑った。基、むくれた犬がもうご機嫌? 「ねね、あそこ寄っていい?」 「ん、いいよ……って、速いよ!藤代くんもうちょっとペース落として…!」 飼い主より前を歩くなんてまだまだ躾が足りないなぁ。 駆け出した藤代くんに引っ張られながら、ヒールじゃなくて良かったなと息を零した。 「じゃあずっと手繋いでたんだ」 「うん。だって藤代くん一応人間だから、首輪にリードはだめでしょう?」 「……そうだね、正しい判断だっだと思うよ。それより楽しかった?」 「んー…それなりに?でもやっぱり散歩って疲れるからあんまりしたくないや」 |