犬の何が好きじゃないかって、散歩が面倒なことだと思うの。



犬、飼い始めました。



「サルくんまだかなあ」

いつものメンバーでフットサルに来て、休憩中に暑い喉が渇いたと不満を漏らしたのは女王様の翼くんで
そんな女王様から直々に命を受けたサルくんが近くのコンビニへと向かったのが数分前の話。
なんで態々コンビニなのかって言うと、自販機に女王様が飲みたい物がなかったから。
ついでに言えばわたしが飲みたいココアには売り切れランプが点滅してた。
何で俺がとか文句を言いながらも買いに行くのがサルくんだ。さすがパシリの鑑。まるで忠犬みたい!猿なのに。きっとニホンザルだと思うの。
そういえば、うちの忠犬もどきくんは

「藤代くんってゴールデンレトリーバーっぽいよね」
「あー、わかるかも」
「ぱたぱた尻尾振りまくってそー」
「わたし、大型犬ってあんまり好きじゃないの。あんなでかい図体でうろつかれても邪魔なだけだし」
「うわきっつ!」
「そもそもお前、犬自体そんな好きじゃねぇだろ」
「うん。犬より猫派だもん。…そういえば柾輝は猫っぽいよね」
「じゃぁ俺は?」
「ロク?んー………雪男?」
「なんだそりゃ!」
「もじゃもじゃだって言いたいんだろ」

五助くんの言葉に騒ぎ出したロクはスルーで隣にいる柾輝に向き直ると声には出さずに「どうした?」と少しだけ眉を寄せた。
わたしは黙ったままポケットから取り出した携帯電話のボタンを押す。

『もしもーしちゃん?俺俺誠二!正式に選抜のマネージャーになったんだってな、おめでとー!』
「…は、藤代?」
「ロク煩い」
『今度一緒にご飯食べに行かない?返事待ってまーす』
「――ていうね、俺俺詐欺みたいな電話が着てたんだけど、これって散歩に連れて行けっていう催促?」
「…よく番号知ってたな」
「合宿の最終日に教えたの。しつこかったから」
「うわぁ、」
「それに藤代くんて無駄に…えーと、普通に?足速いから、何かあったときに便利かと思って」

きっとコンビニまでパシリ…買い物に行ったのが藤代くんだったら今頃帰ってきてると思うの。
やっぱりいくら憧れても猿は犬にはなれないよね…あれ?猿と犬ってどっちが足速いんだろう?

「……あ!」
「ん、どした?」
「サルくんってやっぱり報われないなあと思って」
「直樹がどうした?てか藤代の話は?」
「だってサルくんは翼くんが大好きなのに、翼くんはポメラニアンだから2人は犬猿の仲になっちゃうでしょ?」
「お前なぁ…、」
「聞いたかアニキ、翼がポメラニアンだってよ…!」
「バカお前黙ってろ!」
「……誰がポメラニアンだって?」
「翼くん。あ、そんなことより散歩連れて行かないとだめかなぁ。柾輝どう思う?」
「柾輝コイツ殴って良い?」
「六助で我慢しとけ」
「また俺かよ!」
「ちゅーかなんでこないに男前な俺が猿にされてることに誰もつっこまへんのや!」
「あ、お帰りー」
「おう帰ったで!やなくてな、」
「んなことよりサル早くポカリよこせ!」
「へ、翼こわっ!」

サルくんやっぱり報われないんだなぁ。
コンビニ袋からココアを取り出しながら言うと、柾輝が大きく溜息をついた。



「――と、いうわけで、面倒で嫌だけど連れて行かないとストレス溜まっちゃうのかな?」
「ストレスは溜まらないと思うけど煩いだろうね。そういえばその留守電入ってたのいつ?」
「んん?……1週間くらい前?」
「……。散歩より返事が来ないことの方がある意味ストレスかもしれないよ」