飼い主の実力が試されるときだよね。



犬、飼い始めました。



玲さんの話も終わり、無事に選抜合宿は終わった。
それでもわたしがまだ帰れないのは、未だにこの部屋から出て行かない数名の所為だ。
わたしはここの戸締りを確認して鍵を玲さんに渡すという大事な仕事があるのに彼らの所為で仕事ができない。

彼らというか、彼というか。元凶は未だに眠りこけてるちびっこただ1人。
そういえばこの人、翼くんによく遊ばれてたなー。
……ちびっこ繋がり?ちびっこ同盟でも組みたかったの?
類は友を呼ぶって言うし、ちびっこ同士惹かれあったのかも…。
それにこの人も犬っぽいし…翼くんがポメラニアンなら、ちびっこくんはコーギー?
――別に、足が短いなんて思ってないよ。ほんとほんと。


「悪いなマネージャー」

わたしの思考を遮って困ったように苦笑を浮かべるのは尾花沢監督のお気に入りだった……誰だっけ?
王子オーラ全開だから王子くんで良いかな。うん、キミは王子くんだね!
だけどね王子くん、申し訳なさそうな顔すれば良いってもんじゃないのよ。
本当に申し訳なく思ってるんだったら、そんな優しく揺らすんじゃなくて、それこそ殴るくらい力任せに叩き起こしてくれないかなぁ。

いっそのこと王子くんがちびっこくんをおんぶすれば良いと思うの。
それかその隣でぶつぶつ言ってる無表情のキミでも良いよ。
それともわたしが部屋の外まで引きずって……疲れるから嫌だな。

「あ、」

どうしたものかと視線を巡らせた先でこちらに駈けてくる大型犬を発見。
相変わらずしっぽを大きく振って瞳をきらきらと輝かせた大型犬 基 藤代くんは大きな荷物を肩に提げたまま部屋の中へやって来た。


ちゃんに聞き忘れてたんだけど、マネージャーってこれからも続けるの!?」
「……あのね、藤代くん。それはこの3日間でのわたしの仕事の成果によって監督たちが決めるんだよ」
「だったら大丈夫だね。ちゃん一生懸命働いてくれたもん」
「だけどまだ最後の仕事が残ってるの」
「仕事?」
「うん。ここの戸締り。あとは部屋に鍵を掛けるだけなんだけど…」

ちらりと視線を向けた先には、夢の世界から一向に帰ってこないちびっこくん。
できた犬ならここで飼い主のために働いてくれるはず。
まだ3日目だけど、短いながらにそれなりの躾はしてきたのだ。

「おい風祭!かーざーまーつーり!起きろって!」
「ん…あ、はい!」
「やっと起きたか」
「小さな体に疲れが蓄積しているのだろう。早く家に帰って休むべきだな」
「え?あれ?僕……うわぁごめん笠井さん!」

流石のちびっこくんも大声で名前を呼ばれながら乱暴に体を揺すられれば目を覚ますようだ。
顔を赤くして何度も頭を下げるのでそれを止めさせるのにまた時間が掛かってしまった。


「ありがとうちゃん。これからのことは後日改めて連絡するわ。3日間、本当にお疲れ様」
「こちらこそありがとうございました。お疲れ様です」

この3日間、憧れの玲さんと一緒にいられただけでも十分な報酬だ。
それに、予定外の忠犬もどきも手に入ったしね。



「それじゃあ俺はのこと黙っておけば良いんだね」
「うん。たくちゃんがわたしのいとこだってことは内緒だよ。…あ、そだ!」
「ん?」
「やっぱりちびっこ同士って惹かれあうものなんだと思う?」
「……よくわからないけど、もその部類に入ること気づいてる?」
「あ、」