選抜合宿1日目、妙な生き物に懐かれた。 犬、飼い始めました。 「ねぇ、ちゃんちゃん!」 「…」 「ちゃん何してんのー?」 「……」 「あ、ちゃんみっけ!」 「……。あのう、非常に申し上げ難いんですが、わたしあなたと初対面ですよ、ね…?」 「多分そうじゃないかなー?俺、ちゃん見たことないし」 「……えぇと、藤代くん?」 「俺の名前覚えてくれたんだー!誠二で良いよ」 「…うん、じゃぁ藤代くん」 「だから誠二で良いって」 「何で用事もないのに藤代くんは休憩の度にわたしのところに来るの?」 仲良くもないのに下の名前で呼ぶのはあまり好きじゃないし、呼ばれるのもそうなんだけどこの際その話はスルーだ。 今わたしが一番知りたいのは、このでかい図体でわたしの周りをうろちょろする生き物の行動理由について。 自分で言うのも切ないけど、わたし別に可愛くないし美人でもないし、この人がわたしに一目惚れなんてことは絶対ないはず。 どう見たってこの人は世間一般で言うモテる男の部類に入る人間だろう。 かっこいい人に気に入ってもらえるのはまぁ、正直言えば嬉しいけれど、 こう何度も何度も用もないのに現れてでかい図体で周りをうろちょろされると邪魔というか目障りというか、 更にぶっちゃけて言えば、仕事がはかどらなくて迷惑なんだよねー。 「だってちゃん笠井でしょ?」 「うん。…うん?」 「俺のダチに笠井っているから、もしかしたら知り合いかなーと思って」 「結構低い確率だと思うんだけど…」 「えー、だって笠井っていなくない?」 わたしの親戚は笠井ばっかだよ! とかいう突っ込みは、流石にそんなに仲良くない人に対してはできないから心の中に止めておこう。 「藤代くんって中学どこ?」 「武蔵森だよ」 「……」 「因みに俺のダチの笠井は笠井竹巳っつーんだ」 知ってる?と妙にかわいく小首を傾げた藤代くんを、ぽかんとした表情で見上げる。 知ってるも何も、たくちゃんはわたしのいとこですけど、と答えるのは何だか悔しいので今はまだやめておこう。 「すべての元凶はたくちゃんだったんだね」 「ごめんさっぱりわかんないんだけど」 「…藤代誠二くん」 「……ごめんなんとなくわかっちゃった」 |