しあわせになりたかった。幸せになりたかったの。 今もまだ彼女の声が耳の中で響いている。 * 「郭くんは天国って信じる?」 「…なに、突然」 「そう、信じてないのね」 会話が成り立たない。そんなのは彼女といると当たり前で今更どうしようとも思わない。 そもそも真夜中に人を公園まで呼び出すような人物に常識なんて通用する筈がない。 ―非常識な呼び出しに応じてしまう俺も俺だけれど。 星灯りの中ゆらゆらとブランコを揺らす彼女は至極つまらなそうに息を落とす。 白く染まる熱はすぐに闇の中に引きずり込まれた。 「現実主義者って嫌いよ」 「さんに嫌われたところで痛くも痒くもないね」 「…そういうところ、ほんっと嫌」 大人ぶった態度も嫌、口煩いのも嫌。 花でも綻びそうな無邪気な笑顔で唇からはらはらと毒を吐く。 彼女はいつも、無垢な少女の顔をして俺を殺すのだ。 「…怒った?」 「別に」 「じゃあ拗ねてるのね」 「……いい加減本題に移ってくれる?」 「ほら、やっぱり拗ねてる」 溜息を吐き捨てればそれはそれは嬉しそうに頬を緩め、白く細い指先を伸ばして俺の指を絡め取る。 俺が抵抗しないのを良いことに皮膚を抓んだり撫でたり好き勝手滑る指は正直逃げ出したくなるほど冷たくて、 このまま俺の体温を吸い尽くされてしまいそうだ。 「全くどこまでも嫌味な人ね」 「今度は何が不満なの」 「不満じゃないわ、褒めてるの。綺麗な手は好きよ。切り取って部屋に飾りたいくらい」 「…まるで褒められてる気がしない」 「なあに、もっとわかりやすい言葉が欲しいの?」 絡めた指をきゅっと繋いで、うっとりと双眸を溶かす。 「でも、言ってあげない」 ふわり、唇に降った雪は余韻も残さず、 けれど解けた指先にははたはたと涙が散った。 「だいきらいよ。だからずっと憶えてる。この身体が腐り落ちて骨になってもずっと」 「…俺には、なにも言わせてくれないの?」 「聞きたくないもの」 「……そう、」 伏せた目蓋を持ち上げれば彼女はもう消えていて、名残惜しそうにブランコが揺れるだけ。 俺は一人冷え切った肩を両手で抱きしめて震える唇を噛み締めた。…あ、しょっぱい。 * 「ねえ、天国って信じる?」 肩を揺らして睫毛を瞬かせた彼女にもう一度同じ言葉を紡ぐ。 逃げるように泳いだ視線を縫い止めるように壁に追い込んで、ほっそりとした手首を掴めば彼女は諦めたように息を吐いた。 「…どうして貴方がここに居るの?」 「あの時からずっと言いたかったんだ」 閉じ込めるように壁に手を付いて俺の中に囲った彼女をじっと見下ろす。 「俺と一緒じゃ幸せになれないの?」 a half and a half -------------------------------------------- ひとつになりたかったお話。 |