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「ねぇ、何で情報屋ってねっとりした感じのやつばっかなの?」
「それを俺の前で言うか?」
「だってあんたの相棒じゃん。噂によるとフリーの糸目も相当らしいし」
「酷いですねー。僕のどこがねっとりしてるって言うんですかー?」
「存在。それで?頼んでたものはどうなったわけ」
「調べはついた。けどさ、俺らに頼まなくても優花んとこにもいるだろ。金払ってまで頼むような内容でもないし」
「嫌だなあケースケくん、そんなの知られたくなかったからに決まってるじゃない。ほーんと優花さんって身内には甘いんだからー」
「黙れ似非紳士」


にこにこと安い笑顔を振り撒く長身の男を一蹴してもう一人の男が差し出した資料に手を伸ばす。
素早く目を通しながらも投げられる言葉には適当な相槌を。


「依頼を請けた以上仕事はしっかりやるけど、……大丈夫か?」
「大丈夫も何もあたしに拒否権がないんだからどうしようもないじゃない」
「方法くらいあるだろ。今回はいくら優花でも相手が悪い。わかってんだろ、あそこがどんな場所か」
「行きはよいよい帰りは怖いーって歌あったよね。知ってる?」
優花」
「…もー、そんな怖い声出さないでよ。そもそもケースケが気にすることじゃないでしょーが」


アニキ風なら他の場所で吹かせてくれ。一見爽やかなこいつも中身はねっとりっていうか、しつこいっていうか…。
情報屋がねっとりしてるって考えも強ち間違ってないんじゃないの?我が家の元情報屋が聞いたら憤慨しそうだけども。


「ケースケくんは優花さんのことが心配で心配で堪らないんですよ。調査の結果噂以上の場所だということもわかりましたし」
「心配、ねえ?そーいうあんたは相変わらずみたいだけど?」
「僕は優花さんのことを信じてますからー」
「うっわありがとー嬉しくないー」
「相変わらず照れ屋さんですねー」
「あ、見てよケースケ鳥肌立った」
「……」
「そんな顔してると眉毛がくっつくよ」
「それはないだろ」
「いーや、あるね。三秒以内にどうにかしなければあたしがマジックでくっつけるもん」
「勘弁してくれ。…行くなっつっても無駄なのはわかった。でも、せめて椎名にだけは教えといた方が良いんじゃね?」
「何で翼なのさ」
「だってあいつと一番付き合い長いんだろ?椎名なら機転も利くし、いざとなった時のフォローもできる」
「さっきの歌の通りあそこは入るのは簡単でも抜けるのは難しいですからねー。優花さんでも一人では厳しいと思いますよ」


おいそこのノッポ、お前さっきあたしのこと信じてるって言わなかったっけ?
じろりと睨みつけても相変わらずの笑顔でかわされる。ついでに手まで振ってきやがった。
二対一(しかもねっとり×2)は流石に厳しいと資料を机に放り投げて会話だけに意識を集中する。さて、どう言い包めようか。考える間にも小言は続く。


「あいつらも全員仕事できるようになったんだしもっと信頼してやっても、」
「そういう問題じゃないの。放任主義で自由な我が家にもね、唯一で絶対のルールがあってさ」
「ルール?」
「そう。今回のはそれに反する。一人前になろうが何だろうがこの一線は越えさせない」
優花さんは良いんですかー?」
「だから好きで関わるんじゃないっつーの。腐った場所に身を置いてもあたし自身が腐るつもりはないよ」
「よっぽど関わらせたくないんですねー」
「じゃなきゃ依頼なんてしないし。てか最初から言ってんじゃん」
「……でも椎名くらいには、」
「ケースケしつこい。あいつは駄目だよ、猛反対した挙句 自分が代わりに行くとか馬鹿なこと言い出すに決まってる」


そして、そんな可愛い顔の男の様子に綺麗な顔の男が気づかない筈がないのだ。
……まさに最強タッグ。そうなったら最後、芋蔓式に全てがばれる。あたしの計画が台無しだ。
想像するだけで引き攣る口許を隠そうともせずにうんざりと溜息を一つ。


「郭くんならともかく、椎名くんが判断を間違うとは思えませんが」
「郭なら間違っても可笑しくないの?」
「だって彼の世界の中心は優花さんでしょう?」
「……。翼だって冷静さを欠くことはあるよ。この手はアウト」
「何でわかるんだよ」
「似てるの。あたしとあいつは同類だもん」
「同類?」
「そ。翼とあたしは唯一が同じ。……過去も似たようなものだったし、」
「え?」
「とにかく、色々と面倒だから誰にも言わないってこと。それに一人の方が気楽だしー」
「でも、」
「駄目だよーケースケくん。これ以上何を言っても無駄」
「スガに一票」


この話はこれで終わり。再び資料に手を伸ばせば漸く諦めたのか心配性の男は渋々ながら口を閉じた。
胡散臭い男の探るような視線が纏わりつくのは気に入らないが相手にしなければ良いだろう。

残り僅かだった内容に素早く目を通し、必要な部分は全て頭に入ったことを確認してポケットからライターを取り出す。
すかさず灰皿を机に置いたスガとは目を合わせずに口先だけのお礼を告げた。こいつに振り撒く愛想なんてとうの昔に使い果たしたのだ。


「相変わらず覚えるの早いな。ほんとに全部入ってんの?」
「全部は無理。この量を短時間で覚えられるやつなんて一人しか知らないよ」
「尾ひれのついた噂だとばかり思ってましたが、その様子だと真実だったんですねー」
「あげないよ。あいつの驚異的な記憶力は重宝してるから。―じゃあ後は段取り通りで。上手いこと操作してよね」


最後の欠片が灰に変わり、ゆらゆらと揺れていた炎が消えたのを確認してにやりと笑う。
こいつらの情報操作力は買ってるし、だからこそ依頼したんだ。ヘマをするとは思ってない。
ま、仕上げというか駄目押しというか、後で別件を依頼しに行く予定だけど。…念には念をって言葉もあるでしょ?


「次はいつ会えますかねー?予定している十年で片が付けば良いんですが」
「一生会えなくて良いんじゃない?」
「無事に帰って来いよ。あの家とあいつらの情報はちゃーんと弄ってやっからさ」


これはこれは、頼もしい番犬ができたこと。



失踪
「三日後の夜は静かだと良いんだけど」