「また仰山持ってきよって。どないしたん?」 「拾った」 「……は拾い物の天才やなあ」 心底感心した様子の単純な男に「そりゃどーも」とにやり。 その横に並んだ男は箱の中を軽く物色して、それからちらりとこっちを見た。 「で、これどうすんだ?」 「これとこれ以外は好きにして良いよ」 予め用意していた答えを言い放ち一本のナイフと一丁の銃だけを箱から出す。 あたしの言葉に嬉々とした様子の二人は早速ガラクタ状態の物を分類し始めた。…あれ、そういや一人足りなくないか? 騒がしさが売りみたいな店なのに今日はやけに静かな気がして、店内を見回せば原因はすぐにわかった。 「弟は?」 「宝探し中。ま、がこんだけ良いもんくれたから無駄足だったかもな」 「あら、あたしタイミング悪かった?」 「ええねんえーねん。どーせ六助じゃ碌な物見つけらへんわ」 「お前が言うな。この二つは修理しとけば良いんだろ?」 「ん、お願い。お代はお宝でチャラにしてよ」 にやりと笑えば二人は手を止め、ご丁寧に顔まで上げてあたしを見るものだからサービス代わりに笑みを深めてやる。 それなのに何だ、溜息なんか吐きやがって失礼なやつらめ。 「まじかよ……まあならそう言うよな。てか最初からそのつもりで来ただろ」 「は商人に向いてるんとちゃうか?…せや、うちで働けばええやん!」 「勘弁してよ」 きっぱりと斬り捨てればドレッド頭の男がぷっと噴き出す。―「また振られたな」。 拗ねたように目を吊り上げた金髪にあたしはこてりと首を傾いだ。話が全くわからない。 「こいつこの前も客に同じこと言って同じように振られたんだぜ」 「同しちゃうわ!あいつはサルの飼育係なら他当たれ言うたんや…!こないな男前捕まえて何がサルやっちゅーにっ!」 「飼育係っつーより漫才コンビだよな。お前ら口調同じだしテンポもぴったりじゃん」 「ド阿呆っあいつと一緒にしな!」 食って掛かる時のこの顔がサルに見えるんじゃないの?思っても口にはしない。一応空気は読めるのだ。 更に言うならあんたたちのやり取りだって漫才じゃない。とも口にはしない。だって以下略。 ―そんなことより。と、ポケットから取り出した金の懐中時計。 耳を寄せても時を刻む独特の音が聞こえないこれは、ど真ん中に見事銃弾が埋まっている何ともオシャレな代物だ。 「うわあ、こりゃまたスゲエ…」 「ついでに直してくんない?」 「軽ーく言ってくれてっけど、ここ武器専門だから」 「知ってる」 ぶら下げた懐中時計をしげしげと眺める五助にこれまた軽ーく応えれば何とも微妙な顔を披露してくれた。 そんな中伸びてきた手がチェーンの先にぶら下がった丸を掴む。 「……なあ、これも拾い物なん?」 「さあ、どうだったかな」 「…」 「…直樹?」 時計を手に珍しく神妙な顔(恐ろしく似合わない)をした仕事仲間に訝しげな視線を送る男を見て、あたしは一度だけ目を伏せる。 …どうやら野生の勘も捨てたもんじゃないらしい。 「大事な物か?」 「そーでもないよ」 「そか。せやったら他当たってくれや。悪いけどうちじゃ直せへん」 「…それは残念」 じゃらりと音を立てた金色を再びポケットに落とす。 相変わらず不思議そうな顔をした男の視線は気づいていないことにしよう。 あたしはぐっと伸びをして、ついでとばかりに肩を回せばコキリと骨の軋む音。 「それじゃあ用も済んだことだし帰るとしますか」 「こっちの二つは待っててくれればすぐ直せるぜ?」 「いや、別に急ぎじゃないしまた今度取りに来るよ」 「ほなそれ直せそうなやつ紹介しよか?」 「いやいやお構いなく」 「…ほーか」 「じゃ、またね。弟クンによろしく」 「おー」 愉快な武器商人の店を後にして赤く染まった道をのんびりと歩く。「あ!」ふと顔を上げればついさっき見たのとそっくりな顔。 「その様子じゃ宝物は見つからなかったみたいねぇ」 「何で知って、…うちに来てたんだ?」 「まあね」 うーん、いつ見ても兄とそっくり。これで双子じゃないってのが驚きだ。 思わずじいっと眺めていれば居心地悪そうに苦く笑われた。こりゃ失敬。 「そーだ!さんどっか良い場所知んねえ?」 「知ってると言えば知ってる」 「まじで!?どこ?」 目を輝かせて食い付いたドレッドパートツーににやりと笑って場所を教えた途端、その顔は一瞬で固まった。 いやあ、相変わらず感情に直結な表情筋をお持ちで。是非ともその技をうちの無表情どもに伝授して欲しい。 「俺まだ死にたくないからパス」 「いやいや死なないから」 「へ?だってそこって例の…、」 「こっわーい死神なら今じゃ我が家のペットになりやがりました」 「……さっすがさん」 「ソレホドデモ。でもま、今からあそこに行くのも面倒だろうし、もっと楽な道教えてあげる」 指先に触れる冷たい温度。じゃらりと音を立てて引っ張り出した金色に目の前の少年は首を傾げた。 「壊れてるけど中々イイ値が付くと思うよ」 にこりと笑んだまま差し出した時の止まった役立たずは伸びてきた手の中に大人しく納まる。 当たり前に消える温度と空になった手。――思った通り、これといった感情は浮かばないようだ。 「ほんとに貰って良いんすか?」 「どーぞ」 「あざっす!……ん?何か刻んである……らぶ、…だ、うぐ…、……?」 眉間に皺を寄せて一生懸命慣れない字体を解読している六助は、だけどもすぐにお手上げだと息を吐いた。 答えを求めるように寄せられた視線には応えてやらない。だって読めなくても問題はないのだから、彼が気にすることではないのだ。 「それ売って直樹と五助が驚くような物持ってってやりなよ」 ぽんと肩を叩いて彼の横を通り過ぎる。 後ろから追いかけてきた元気の良い声には振り返らずに手だけを振っておくとしよう。 |