最近は天気の良い日が続いていて、体育の授業で外に出るたびに太陽に負けそうになる。 わたしは運動は苦手だから体育の成績はあまり良くない。完全に悪くならない理由は、実技以外で頑張っているからだ。 たとえば自主的に先生の手伝いをしたり、体育担当の先生とはなるべく仲良くなるようにしている。 ちょっとせこいかもしれないけれど、こうでもしないとわたしの体育の成績が真っ赤に染まってしまうのだから仕方がない。 今日はサッカーをやると言った先生は、近くにいたわたしに倉庫からボールを運んでくるようにと頼んだ。 確か、体育倉庫にはボールが大量に入った籠があった筈だからきっとそれのことだろう。 ふたつ返事で頷いて出来る限り早足で倉庫に向かう。鍵はすでに開いていて、がらがらと鈍い音を立てて扉を開いた。


「…え?」


サッカーボールが入った籠は、ボールだけを取り出すなら簡単だけど、他の色んな器具に邪魔されていて籠ごと引きずり出すのは難しかった。 みんなを待たせるわけにはいかないので少しずつ邪魔なものを端に除けていると、突然にゅっと手が伸びてきて驚いてしまった。 ぱちぱちと数回瞬きをしてからゆっくり視線を持ち上げていくと、飛び込んできたのはふわふわの茶色い髪


「若菜、くん…」
「女子ってサッカーなの?」
「う、うん」
「男子はリレーだってさ。俺と変わってよ」
「え、そんなことしたら怒られちゃうよ…!」
「冗談に決まってんだろ。それに学校レベルのサッカーじゃつまんねーし」


驚いて手を引いてしまったわたしに代わるように若菜くんはガタガタと少し乱暴に籠を引っ張り始めた。 慌てて手伝おうとするけれど、わたしが籠を掴むスペースがなくて躊躇してしまう。 ちらりと見上げた若菜くんの顔には、教室で見せる太陽みたいな笑顔がない。 だけど若菜くんの口から零れる音はカラカラと楽しそうに響くものだから、そのギャップに足が竦んだ。 きっとわたしは、若菜くんに嫌われてしまったのだ。理由も告げずに距離を置いたのはわたしなのだから、文句なんて言えるわけがない。


「ったく、女子一人でこれ出せるわけねぇのに。お前も無理だと思ったら誰かに手伝ってもらえよな」
「ッごめんなさい」
「別に怒ってないけど…よ、っと。後は一人で出来んだろ」
「うん、ありがとう若菜く、!」


くるくると回る足がついているので籠を押せば自然と動いてくれる筈なのだ。 だから若菜くんにお礼を言って籠を運ぼうとしたのに、サッカーボールが重いのか、籠はあたしの望み通りには動いてくれなかった。 それどころか籠に振り回されそうになってしまって、見かねた若菜くんの腕が伸びる。


「……いいや、俺が持ってく」
「え、でも」
「だってお前転ぶだろ」


溜息とともに言われてしまえば、わたしは口を噤むしか出来ない。 若菜くんは俯いたわたしに「行くぞ」と声を掛けて歩き始める。 一拍遅れて慌てて後を追うけれど、隣に並んでいいのかわからなくて結局少しだけ後ろの位置に落ち着いた。 運ぶのを手伝おうかと思って伸ばしかけた手は、だけどやっぱり最後まで伸ばすことが出来なかった。





ゆうとくん って、名前で呼べたかな、