あたしの愛しいアノヒトは甘い香りをばら撒いて溶けるような苦味を残す。





ちょこれーとロジック





「夏、終わっちゃったね」
「結局どこにも行けなくてごめん。約束してた映画も駄目になっちゃったし」
「気にしてないよ。たっくんがサッカー頑張ってたの知ってるもん」
「ありがと。でも俺が気になるから今度遊びに行こう」

果たせない約束なんて悲しくなるだけだよ。

たっくんとの約束は、大体が果たされずに口先だけの物で終わるんだ。
言葉にするだけの幻想は決して形になることはない。

?」
「…ううん。どこ行こうか?」
「遊園地行きたいって言ってなかったっけ?」
「言ったけど、デートで行きたいって言ったの」
「俺とデートじゃ不満?」
「だってたっくんは彼氏じゃないでしょー」
「分かってるよ。久しぶりに遊園地行きたいから付き合ってくれない?」

受話器越しに響く笑い声が撫でるように耳をくすぐる。
そうやってたっくんはあたしの気持ちをわかっていながらしらんぷりをするんだ。

「一緒に行く相手がいないたっくんが可哀想だから、付き合ってあげても良いよ」

優しさだとわかっていても、痛んでしまう心もあるの。
わかっているからこそ、優しさが棘に変わるんだよ。

「ありがとう。それじゃ、今度部活が休みの日にでも早速」

だけど、ほんとは分かってるの。
しらんぷりをするのは、あたしを傷つけない為なんだよね。
あたしの気持ちを受け止めることは出来ても、同じ気持ちを返すことは出来ないからだよね。
知ってるよ。そんなの、ずっと前から知ってた。

「絶叫系乗り回すから覚悟しといてね」
「…それは良いけど、酔わないでよ」
「酔いませんー」
「コーヒーカップで酔うくせによく言う」

たっくんは優しい。その優しさに甘えるあたしを優しい優しい笑顔で許してしまう。
そんなあたしの考えを全てお見通しでしらんぷりをしてるってことも、ちゃんと知ってるんだ。

「コーヒーカップは絶叫系とは違うもん!」
「はいはい。細かい日程とかはまた連絡するから」
「…ん。期待しないで待ってる」
「信用ないなぁ」

たっくんは優しいから、気づいていても口にはしない。
だけど、だけどね。こんなのもう、振られてるのとおんなじだよね。
お互い言葉にしてないのに、告げてもないのに、もう振られちゃってるの。
たっくんは優しいから、振られてると気づいてるあたしに気づいていても尚、あたしが言うまでしらんぷりを続けるんだ。
ずるいあたしは、その優しさにまた甘えるから。甘えてしまうから、

舌先が痺れる苦味を知りながら、甘い甘いアナタを手放すことが出来ない。







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物凄く短い上に消化不良ですがこれでお終い。
私の中では幼馴染設定。さんは普通の公立中学に通ってます。
笠井くんは長期休みでもお正月くらいしか帰ってこないと思うから滅多に会えないんじゃないかなーと思って。
でも小まめに連絡は入れてそうな、憎めない人。一番ずるいのはさんじゃなくて笠井くんだと思う。