今日と明日の境目が見つからないの。
――貴方に、この恐怖がわかる?



恋をするなら、あなたがよかった。

時には甘く、時には苦く、記憶の中の彼女は様々な感情にのせては同じ言葉を繰り返し俺に放る。
此方の心など構いもせずに、


「キミはとても綺麗だね」
「男に対する褒め言葉には向かないよ」
「どうして?誰だって綺麗なものは好きでしょう?」

楽しげに首を傾げては猫を撫でる手付きで俺の髪を梳く。
彼女に対しては好きにさせるのが一番面倒が少ないと悟ったのは随分と前のことで、今更咎めるのも馬鹿らしい。



好きなものを並べてもキミにはならないのに、どうしてこんなにもキミが好きなんだろう。



「手は二つしかないから、掴めるものは限られてるんだよ」

―それでもまだ足りないなら、全部抱きしめるしかないね。


困ったように、呆れたように、その人は落とすように笑んだ。



たとえば電車の中。
あの子目おっきくて可愛いな。あの人背高くていいな。あの子すごい細くて羨ましい。
あんな可愛い格好したいな、オシャレだなあ。
ふとした時に溢れている いいな は同時にあたしを不安にさせる。
この中に一人でもあたしをいいなって思う人はいるだろうか。
誰かから見たあたしに羨ましいと思えるところがあるんだろうか。
人より勝っているところなんて一個も見つからない。
あの人よりはあたしの方が可愛いと思ったとして、でもそれはそんなこと考えている時点で間違いなのだ。



あなたが明日を生きる人なら、あたしが今日を生きるから。



授業中、隣の席。ノートorプリントで内緒話

「答え合わせ、する?」

恐る恐る持ち上げた先で少しだけ悪戯っぽく、だけどすごくきれいに微笑う郭くんに、
わたしの頬はかあっと熱を抱くのだ。

(好きな人いるって噂あるよーほんと?どうかな、気になるの?まあねー。じゃあ、問題)
隣の席の人気者が実は自分のことを好きだったよっていう話。



たとえば君がいない世界でもぼくは上手に息ができる



わからない、……わからないよ。
それじゃあキミの幸せはどこにいくの?どこにあるの?
もらってばかりで、そんなに、詰め込まれたって、消化不良を起こしそうだ……、



これ以上なんて、ないよ。



翼が背中から抱きしめてくるときは泣いているときだ。
誰よりも強い彼は、誰よりも 弱い。



わからない わからない わからない
胃の中で感情が回っている。
吐けば楽になるの?――否。空っぽの胃でも胃液は吐けるのに、空っぽの言葉が吐けるのは精々呻き声くらいだ。


「……あほくさ、」



何度も止めようと思った。何度も何度も、全部やめてやるって思った。
だけど結局、やめることをやめちゃうの。馬鹿だなって思う?あたしは思ったよ。



捨てた筈なのに、なんでまだ、ここにあるの