「消えてしまいたい」 たった一言。抜群の威力を発揮した声。 彼女は自分に向けて放っただろうその言葉は、物の見事に私を殺した。 彼の吐息は、コーヒーの香りがする。 「勿体ないね。こんなにいいヤツなのに」 「いいヤツだから駄目なんだよ、多分」 「そうかなあ…?」 「そうだよ、絶対」 「ああ…うん、そうか」 「?」 「きっとさ、独り占めしたいんじゃん?」 「誰が?」 「んー、神様?」 「…あほか」 (俺がってのはナイショでいっか) 「一瞬と永遠って似てない?」 「…や、それ真逆の言葉だから」 「そうかなあ?すごく近いと思うんだけど…」 だって、どっちも切ない。 「は猫だから、待っててって言っても待っててなんかくれないよな」 「そうだね。あたしは忠犬にはなれない」 それでも、他でもないあなたがそれを望むなら、待っていようと思うんだよ。 ――なんて、絶対言ってやんないけど。 「どんかーん!」 だからそうやって、意味わかんないって眉を顰めていればいいよ。 「きみはひとりじゃないよ」と言われた途端、ひとりになった気がした。 言葉にするには足りないなにかを埋めたくて仕方ない。 どんなに楽しい時でも不意に襲ってくるんだよ。 その瞬間全部が作り物に変わる。 「最低だろ?思わず笑っちまうよな」 (…違う、ちがうよ。) 最低なのは、なにも応えられない、私。 滑稽な私に酷刑を。 もしかしたら、あたしはあたしを嫌いな人のことが好きなのかもしれない。 だって、あたしはあたしを嫌いだから。 「酷いこと言うね」 「嫌いになった?」 「…ほんと、残酷」 じゃあキミは一生俺のことを好きになってはくれないんだ。 「だって、涙は拭ってもらうものじゃなくて、自分で拭うものでしょう?」 昔から沢山泣いたけどいつも一人だった。 今更誰かの前でなんて泣けないよ。そんなカッコワルイこと出来ない。 自分を曝け出すのを恐れないようなカッコイイ人間じゃないもの。だから、―だから、ね、 「そんな優しい顔しないでよ」 両腕で視界を隠してもあなたはいなくなったりしないから、 溢さないように 必死なんだよ。 「また明日ねー」「またねー」「ばいばーい」 「…あれ?そいやあいつっていつからここにいんだっけ?」 「夏に転校してきたんじゃなかった?」 「え?体育祭んときいたか?」 「え?」 「あれ?」 「……あれ?てかあいつの名前なんだっけ?」 一つの場所に留まれない女の子のお話。→人の中にも留まれない=記憶に残れない。 「ねえ、これ今度書く話のメモ?」 「ん?…あーそれ、どこにいた?」 「いたって生き物じゃないんだから…ゴミ箱の横に落ちてたよ」 「逃げたかと思ったけど隠れてただけだったのか。ありがとー」 音のない夜が怖かった。(しんぞうのおとがよくひびくから、) 親愛なる×××様 久しぶりのお手紙になってしまってすみません。お元気ですか? 私は、と言うより私を含む私の周りは変わらず穏やかな日々を送っています。 (中略) 貴方が憎むその才能も環境も貴方自身も、私が欲しくて欲しくて堪らなかったものなのです。 けれど、私が立ちたくて仕方がなかった舞台から貴方は飛び降りたくて仕方がないのですね。 いらないのであれば私に譲ってください。 なんて願ってみても、こればかりは与えたり貰ったり出来るものではありません。残念です。 (以下、インクが滲んで読めたものではなく―) 「私が貴方で貴方が私であれば互いに幸せだったでしょうか?――ね、」 「何読んでんの?」 「誰かが誰かに宛てた手紙」 「悪趣味」 「あたしが拾ったんだ、どうしようがあたしの勝手」 「あっそ」 「それに、誰にも読まれない手紙ほど寂しいものはないじゃない?」 「……、…ちょっと、何してんの」 「紙飛行機ー。ほら、とーんでーけびゅーう!」 「お前さあ、」 「さーってと、仕事仕事っ!」 「…まあ良いけど」 四角く折った誰かの心が誰かのもとへ届きますように。 |