手を伸ばしても届かないならすべてが無駄だと諦めた



「…なんだろう、この、胸の底から湧き上がる気持ち」
「……成程、これが殺意か!」

「えぇ!そっち!?」



一人が寂しいなんてすぐに言えなくなるよ。
だって、一人が恋しくなるくらい騒がしい毎日になるからね。


膝を抱えて蹲るぼくと目線を合わせるように屈みこんだ彼女は、そう言ってゆっくりと笑った。
じわじわと融けていく感覚に目が熱くなって、気づいたらぼとぼとと大きな水滴が目から零れ落ちたんだ。


「……なにそれ、夢?」
「ちっげえよ!が言ったんだってあの時!俺に!」
「えーそうだっけ?覚えてないなあ」
「なんだそれ!俺すっげえ感動したのに!あの頃のお前はどこにっ!?」
「遥か昔に旅に出ちゃったんじゃないかなあ」
「今すぐ連れ戻せ!!」
「むりー」
「即答!?」
「あはは、ごーめんねえ?」



やさしいひと

そう言われる度に胸が軋む。
優しいという意味で言ってくれているのはわかっているのに、
易しいと言われている気がしてしまう、捻くれた私。
お前なんか容易く扱えるのだと暗に告げられているような気がするんだ。

…かわいくないな。素直に受け取れない。

こんな私を知ったら、あなたは離れて行きますか?



「…こわ、壊しちゃったあ……大切だったのに、あたしが、壊した……!」



こいわずらい
こいはつらい



芽生えたと同時に昇華していく感情に名前を付けることは出来ない。
だけど、だけどね?

「涙が出たの。……ああ。すきだったんだね、きみのこと」

そう告げたさんは妙にすっきりした顔をしていて、告げられた俺はどう応えれば良いのかわからなかった。



ふとした時にいつも想うのはただ一人。
大丈夫だよって、ここにいるよって、頭を撫でてほしい。…ううん、隣にいてくれるだけでもいいの。
そしたらすぐに大丈夫になるから。だからお願い、あたし以外の子を隣にいさせないで。



「例えば明日地球が滅んじゃったとして、」
「は?」
「全部失くなって白紙になったのにそこに立ってるの」
「…」
「そしたらどうする?」
「……意味がわからない」
「想像力ないなあ」
「前提に無理がある」
「人生なんて矛盾ばっかりだよ」

だからちゃんとここにいてね?



好きは片手で足りるのに、嫌いは両手でも足りない。



「ありがとうなんて言わないで」

感謝されたくて、やったんじゃない。



目に鮮やかな色彩がぼくを殺したというのなら、
窪みの中でうずくまっているこのぼくはだれなんだ。