「明るくなければ明日じゃないの?」



水溜りに映った空を踏み潰す。
靴が濡れるのなんて構わなかった。ただ、鮮やかな世界を壊してしまいたかったんだ



「優しいんじゃないよ。嫌われるのが怖いだけ」
「…うん。でもね、あたしにとっては優しさだったよ」

だからお願い、その壁を越えさせて?



「酷いたっちゃん!そんな子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えもねぇよ」
「うん、だから育てた覚えはないんだって」
「……」



何かを忘れたのは確かなのに、それが何なのか思い出せない。
ぽっかり空いた違和感に首を捻る。
私は一体何を忘れたんだろう。ほんの一瞬前までは覚えていた筈なのに。

残ったものはただ一つ。首を傾げたくなるような違和感
もしかしたら何も忘れてないのかもしれない。忘れたと思い込んでいるのかもしれない。
自分自身への問いかけは、いつだって答えが見つかることはない。



「さっさと謝れば良いじゃん」
「むりー」
「何で」
「だって何で怒られたのかわかんないもん。本気で怒ってるときに形だけの謝罪なんてあたしだったらいらないよ」



あなたならわかってくれると、どこかでしんじていた。
ばかね、わたし。
おおばかもの。

押し付けた想いは鉛のように重いのに。



「お、そこの少年ちょっと待った。その命いらないならあたしに頂戴。今ね、猫の手でも借りたいほど忙しいの」



氷を溶かせるのは温かいものだけじゃないよ。
冷たい水だって溶かせるの。早いか遅いかの違いだけだよ。



「あなたがいない世界でもあたしは生きていける。でも、あの子は違うよ」



ごめん。頭ではちゃんとわかってるんだけど心が追いつかない。



まだ泣かない。
――まだ、泣けない。



「だって泣いてたのに…!」
「あんなに、泣いてたのにっ……何にもできない」



私を造る世界にあなたは必要不可欠だけど、あなたが生きる世界に私はいらない



「そろそろ黙れよ」
「黙らせてみろよ」
「…言ったな?」
「言ったさ」
「んじゃ、遠慮なく」

がぶり。



あんなに一緒に過ごしたのに、彼女が写った写真は一枚もなかった。
馬鹿みたいにはしゃぐ俺たちは沢山いたのに。

「……あぁ、そうか」

彼女はいつも、シャッターを切っていたんだ。
こんなにも幸せそうな俺たちは、いつだって彼女に向けて笑ってたんだ。



「あの子の幸せはどこにいくんだろうね」



例えば私が全てを見通す目を持っていたとして、
それでもきっと、彼らの幸せを願うには何一つ足りないのだと思う。



首を振るのは振り払うため、
掌で顔を覆うのは守るため、
耳を塞ぐのは閉じ込めるため、

あの頃のぼくは、自分だけが世界だと思っていた



「一人でいたくないの。一人になると、涙が出るから」