「かなしいね」 あたしには、そういって笑ったあなたが一番かなしく見えました。 感情が流れる。こころが、ながれる。 まるで三流映画みたい。わたしの中を言葉と映像が流れてゆく。 もしも今、この手を伸ばしたら掴めるのだろうか。 流れて行った先にわたしの手はあるのだろうか。 ――そもそも、終わりなんてあるのかな。 いつまで流れていればいい? どこまで流れてゆけばいい? 自分でもわからないものを、他人に委ねるのは酷だろう。 だからわたしは、わたしを流す。 「ごめんなさい。それでもわたしは――、」 果てがないのなら掴むことだって不可能だ。 なんで、言えないんだろう。好きって、なんで、 「あたしがいつ、愛してって言った?――答えて。ねえ、答えて!」 右手から放たれた指輪が放物線を描いて落ちる。 笑えるくらい綺麗にゴミ箱へとシュートを決めたそれは、ほんの少し前まであたしの指にあったものだ。 左手の薬指。――だけどあたしは、アレに意味なんて求めてなかった。 定位置となっていた指にだって意味なんてなかった。 そこが一番しっくりくる場所だっただけだよ。それ以外の理由なんて、ない。 「あの子と別れるくらいならあたしを終わりにすればよかったのに。」 自己犠牲。――ナニソレ?そんなんじゃないの。 たとえ偽善だろうが優しくもできないあたしが自分を曲げてまで何かをするなんてアリエナイ。 あたしはずっと、傷つけないように生きてきた。 そしてこれからも、傷つけないように生きていく。 対象は勿論あたし。あたしはあたしを傷つけないようにいつだって必死だ。 だから、愛なんていらない。 満たされない心を満たすのはそんなものじゃないし、あたしの中心にぽっかり空いた穴はそんなものじゃ埋まらない。 だってあたしは、一方通行でいたいのだ。一方的で盲目的。見返りなんて求めてないし欲しくもない。 「さよなら。もう会わない」 アンタなら、あたしに愛なんて与えないと思ってたのに。 一緒にいて息苦しくない相手だったのに。アンタの隣なら、息ができたのに。 ごぽごぽごぽ。耳が、鼻が、口が、 ごぽごぽごぽ。目に映る色が翳み始めた。 あぁ、今日も。 あ た し が 溺 れ る 音 が す る 。 いつか世界を失くしても 石に刻まれている名前を探した。 膨大な数をひとつひとつ、順を追って指でなぞりながら。 「― 」 その名前を見つけたときに、泣くように笑って、「ここにいたんだね。」 愛しそうにその名に手を触れて、額を押し当てて、目を閉じた。 同姓同名の人かもしれない。―そう思ったけど、口には出来なかった。 彼女は、ここが最後の希望なんだと言っていた。 ここにいなければ、もう当てはないのだと。 ずっと捜していた最愛の人の行方 ずっと探していた最愛の人の最期 やっと見つけることが出来たんだ。やっと出逢えたんだ。 これでようやく、彼女の旅は終わる。 そしてまた、ここから はじまる。 「生きていくよ。笑ってあなたに逢えるように」 あなたがわたしを嫌いでも、わたしはあなたが大好きです。 「え、溺れる?なに、海にでもいるの?――は?あのさ、アスファルトの上でどうやって溺れるわけ?」 「何話してんだ?」 「知らね。どうせいつものアイツだろ」 「アイツって?」 「アイツだよ、あー…。」 「…誰?」 「同じ学校のやつだってさ」 「彼女か?」 「知らね」 「お前さっきからそればっかじゃん。名前以外になんか知らねえのかよ」 「あー……スタイル抜群の美人」 「……よし、紹介してもらおう」 「やめとけ」 「何でだよ」 「見た目はよくても中身がな。変わってるつーか……、関わんねえ方がいいタイプ」 「……なにそれ。人すらいないじゃん。酔ってんの?」 「不思議ちゃん系ってこと?そういやさっきから変な話ばっかだけど…でもいいじゃん不思議ちゃん。アリだろ」 「アホ。ありゃお前の手に負える女じゃねえよ」 「そんなんわかんねーじゃん」 「だからお前はアホなんだろ」 「お前さあ、いい加減男と別れる度に俺に連絡すんのやめろよ。…や、それ別れたってことだから」 「アイツが手こずる相手だぜ?お前がどうこうできるわけねえだろ」 「……確かに」 「いい?地上で溺れる人間なんていないの。第一そんな器用な真似、にできるわけないだろ」 「―そう。わかったならいつまでもそんな場所にいないでさっさと家に帰れ。…迎え?自力で帰れ馬鹿女」 「……、いっそのことお前が溺れそうになったら俺が頭押えて浮かんで来れないようにしてやるよ」 「うわっ、なんか言ってること犯罪なんだけど…!」 「安心しろ、まだ軽い方だ」 「マジか」 「俺が助けてやるわけないだろ。もがき苦しんでるとこなら見ててやってもい、――のやろ、切りやがった」 「……お前らの会話こえーよ。これで軽いとかどん引きなんだけど」 「あっそ」 「アイツ、また別れたって?」 「ん?…あぁ、そんな感じ」 「行かなくていいのか」 「行かないよ。―大丈夫。は溺れたりなんかしないから」 「お前も大変だな」 「そうでもないさ。近づきすぎなければ、それなりに楽しめる」 「うわーサイテー女の敵!」 「…こいつわかって言ってんの?」 「ねえな」 「あのさ、写真とかねえの?顔だけ見たいんだけど」 「ない。会いたいなら連絡先教えるけど?」 「無理無理無理!俺にあんな高度な会話はできない」 「高度って…」 「馬鹿だな」 「馬鹿だね」 「馬鹿にすんなよ!俺はただスタイル抜群な美人が見たいだけだ!」 永遠なんて、イラナイ |