ぼくのあだ名はクラッシャー あっちもこっちも がしゃんがしゃん 元に戻らなくても、知らないよ 「…」 「……」 「なんやあ、センセーも笑いのセンスあったんやなあ」 「む、俺はこんなもの作ってなどいない。そもそもこの筆跡は、」 「言わなくてもあんたじゃないってわかってるから」 「……あいつか」 「…多分、そうだね」 「おい、ちょっと来い」 「ん、なにー?」 「何だよこれは」 「不破くんのテーマソングー。ねね、クラッシャーと壊し屋さんどっちが良いかな?」 「……、…部室に変なもの置いていくな」 桜上水サッカー部と女の子。 「あ、水野くんたちのも考えてるから完成したらまた持って来るね。ばいばい!」 わたしという銃から放たれる目に見えない弾丸は、いつだってなにかを傷つける。 引き金が壊れているのか、いつだって無差別発砲を繰り返す。 誰か壊してくれないか? 言葉にしようにも、それはまた弾丸へと形を変える。 「そこの歩く校則違反、止まってください」 「オハヨーさん。ほなまた教室でな」 「なにナチュラルに通り抜けようとしてんだ止まれっつってんだろ金髪」 「相変わらず風紀委員サンは元気やなあ」 「相変わらず佐藤くんの髪は黒くないね。いつになったら戻るの?」 「突然変異でも起こらん限りこのままちゃうん?」 「なにその他人事みたいな言い方」 「だってこれ地毛やもん」 「そのネタもう古いよ。飽きた」 「ネタちゃうて。昔の写真見るか?」 「…見る」 風紀委員と佐藤くん。 「な、金髪やろ?」 「別人じゃん。顔からして違うじゃん」 「佐藤家にゃ成人するまでに何遍も顔が変わるっちゅー呪いがかかってん」 「いやいや無理だからどう頑張ってもその嘘通らないから」 問、もしも幼馴染ヒロインと犬ヒロインが校内でばったり出会ったら。 「あ、」 「…あ?」 「…マネージャーさん、だよね?前に一度会ったことあるんだけど…、」 「……ツリ目くんの幼馴染」 「(一馬のことかな?)うん、正解。それにしても同じ学校だったなんてびっくりしちゃった」 「そうですね。そう言えば かりあ…郭くんと同じクラスですよね?」 「うん(かりあ…?)」 「伝言頼んでも良いですか?」 「(…刈り上げ?もしかして英士のあだ名刈り上げなの!?)」 「あのーもしもし?」 答、会話がぎこちない。 「ちなみに結人のあだ名は?」 「茶髪くん」 「(普通だ。てか茶髪っていっぱいいるよね?)」 大好きでした。 ……嘘です。ほんとは、だいすきです。 …あ、だめ。まだ駄目。 しゅるりしゅるりと毛糸が解けるように、 さらさらと砂が落ちるように。 ゆっくりと背中から、 わたしが 消 え る 「眩暈」 元々わたしはとても曖昧な存在だった。 わたしの気配を感じられる人は少ない。 ここにいるのに気づかない。ここにいなくても気づかない。 そんな存在のはわたしは、果たして生きていると言えるのだろうか? わたしの心臓と言う名のポンプは身体中に血液を送り出していたけれど、でもそれがなんの意味を持つんだろう。 確かにわたしは息をして、感情だって持ち合わせていた。 声を出すこともできたし、物に触れることもできた。 幽霊とも違う、だけれど不確かで曖昧な存在がわたし。 思えばいつだって、わたしが見る景色は歪んでいた気がする。 最初は世界が揺れているのかと思ったが、わたしが揺れていたのだ。 やがて色が薄れて、そして―― 「なにしてんの」 終わりを告げる紅に染まりながらひとり、固く目を閉じて消えそうな身体を抱きしめていた。 今この場にいるのはわたしだけ。それなら、彼はわたしに話しかけたのだろうか。 わたしを、知ってるの? 「クラスメートなんだから当たり前だろ。てかなに、もしかして俺のこと知らないの?」 不機嫌そうに眉を寄せる姿さえ、うれしい。 歪んで色が滲んだ景色。いつもと同じ。だけど、こんなにも、 「ちょっと、なに泣いてんの?俺が泣かせたみたいだから止めてよ」 巻き戻しのボタンを押したように、 壊れかけていたわたしがゆっくりと再生していく。 あなたがわたしを見つけてくれたから、わたしはわたしでいることができる。 ここにいられるしあわせに、心からの愛をこめて。 ――ありがとう。 「煙草、だめだよ」 「関係ねぇだろ」 「うん、そうだね。でもここは学校だから」 「優等生としては注意しないといけねーってか?」 「先生に見つかったら、面倒なだけだよ」 屋上、煙草。不良と優等生。 いつだって完璧な笑顔を浮かべるクラスメートが、完璧な笑顔でそう言った。 「黒川くんが吸いたいなら、好きなだけ吸えばいいんじゃないかな」 煙草の味が平気だなんて、黒川くんは大人だね。 かちりと合わさった視線。二つの香りが風に乗って混ざり合う。 白と黒。自由に漂う煙りと、型にはめられた髪。 「あ、そうだ。顔に傷は作らない方がいいよ」 「喧嘩したってばれるからか?」 「ううん。黒川くんは整った顔してるから、痕が残ったらもったいない」 灰が落ちる。笑みが落ちる。 崩れないその表情が崩れる日が来るのか。…俺には無理だ。崩せねぇ。 崩す前に崩されちまったんだ、俺ができるのは見ていることだけ。 笑顔のポーカーフェイス ま、精々楽しませてくれよな。 踏み潰した煙草とともに、込み上げる感情をもみ消した。 |