俺ってさ、結構自信あったわけ。 自意識過剰なんじゃね?って思われるかもしんねぇけど、自分で言えるほど努力とかしてきたつもりだし。 つもりってか、実際そうだと思う。好きだから楽しかったけど、でもやっぱそれだけじゃなかったし。 …と、今はそんな話じゃなくて、アイツのことな。 そんな自信満々の若かりし頃の俺が唯一「勝てない」と思ったのがアイツ。 なんかもう、見た瞬間に無理だと思ったね。「あ、負けた」って、素直に。 でも悔しいとかそんなんちっとも思わなくてさ。…寧ろ、悔しいって思わないのが悔しい、みたいな?あれこれ矛盾?まあいーや(笑) 目標とかそんなんじゃねーけど、でも今こうしてアイツと肩並べてられんのは正直嬉しい。 でもアイツには一生言ってやんねぇ。すぐ調子乗るからな。 てことで、「アイツ」が誰かってのはオフレコでよろしく。書いたら二度と取材受けないから。 「…あ、それこないだの?もう記事になったんだ。見ていい?」 「ダメ」 「えー、何でだよ」 「あ、休憩終わりだってさ。ほらさっさと行くぞ」 なに、今でもそう思ってるかって? ――まさか。勝てないなんて思わないし、負けるつもりなんてない。 アイツだけじゃなくて、他の誰にも負けるつもりなんかないから、俺。 「好きです。取敢えずキスしてください」 泣いても笑っても朝が来るならぼくは、笑っていようって思っただけだよ。 そこに覚悟とか、前向きな気持ちなんてないんだ。 ただそれだけだよ。 「なんかさー、色んな人にしっかりしろとかちゃんとしろって言われるけど、あたし結構ちゃんとしてると思うんだよねー」 「…」 「……」 「え、何その顔」 「お前がちゃんとしてるなんて認めたら全人類に申し訳ないだろ」 「規模でかっ!」 誰にも言えない過去がある。 ……なんて言うと大袈裟だ。 ただ、誰にも言いたくない過去がある。 それってきっと、誰だっておんなじだろ? あとどれだけないたらこの声はとどくんだろう 「―ッ頑張ってるよ!これでもちゃんと、頑張ってる!」 それなのに頑張れ頑張れって、頑張ってないように見えるの?それとももっと頑張れって意味? もっともっとって、どこまで頑張ればいいの?いつまで頑張ればいいの? わかんないよ。…そんなの、ちっともわかんない、 「……うん。頑張ってるんだよね、知ってるよ。みんなちゃんとわかってる」 「じゃあなんで?」 「それでも 頑張れ って言う以外、言葉が見つからないんだ」 ごめんね。と笑ったきみは、少しだけ哀しそうに目を伏せた。 「最近の教育テレビって色んな業界の人が出てるよね」 「あー。この人なんでこんな仕事してんのってたまに思う」 「でも割と好きだぜ。面白いし」 「勉強にもなるよな」 「そーそ。それに朝とか夕方の暇な時間が潰せんのは嬉しいかも」 「わかるわかる!」 「10本アニメ超和む」 「和む?ニヤッとするじゃなくて?」 「てかあれまだやってたんだ」 「……ねぇ、その暇な時間にテスト勉強すればいいんじゃないの?」 武蔵森サッカー部の日常 「やる気のないやつには教えないぞ。な、笠井」 「一夜漬けには付き合わないから」 「なに騒いでるの?」 「か、会長…!」 「…それが、会長が今日使われる原稿を駄目にしてしまって」 「見事に滲んでるね」 「す、すみませんでした…!」 「なんで謝るの?」 「…え?」 「必要なものなら全部ここに入ってる。そんなものなくても上手くやってみせるさ」 とん、と人差し指で頭を叩く。 だから大丈夫だと微笑む彼女にこれ以上なにを言えるだろうか。 「ま、舞台袖であたしのかっこいい姿でも眺めててよ」 ……今だって十分すぎるほどかっこいいです、会長。 この足でどこまで駆け抜けて行けるだろうか。 「泣けば?」 「やだ。だって翼ちゃん、不細工嫌いでしょう?」 「その顔も十分不細工だけど」 「……翼ちゃんが冷たい」 「その呼び方許してる時点で十分すぎるほど優しいと思うのは僕だけ?」 「翼ちゃんは翼ちゃんだもん」 「どうでもいいから泣くのか泣かないのかはっきりしてよね」 あぁ誰か、この手を振り解く勇気をください。 他のなにを犠牲にしてでも、守りたいものがあるのだから。 「…せい、じ、くん……やだ、」 「なんで。なんで俺じゃだめなの?」 「ごめん…ごめん、ね」 キリキリと痛むのは、掴まれた手首じゃなくてもっともっと深い場所 「アイツのとこなんか行くなよ。――好きなんだ、」 走り出すならどしゃ降りの日にしようって決めていた。 |