狭い世界で生きてきたことくらい、俺達だってわかってる。 だけどどうしても受け入れられない。広い世界なんて知りたくない。 俺達の世界に入ってこようとする「異物」を真っ先に排除しようとするのは、意外にも結人だ。 人一倍警戒心の強い一馬じゃなく、人一倍排他的要素の多い俺でもなく、人一倍人懐こいアイツ 近いようで遠い地にいる潤慶ならわかる。 こんなこと言うのは悔しいけど、俺達より一つだけ年上のアイツは昔から俺や親友達に厳しくも甘いから。 そんな、どうあっても敵わない俺の従兄に似ているようで似ていない結人の行動にしては違和感が残る。 だってアイツは広い世界でも生きていける人間だ。 良くも悪くも世界の中心に自分を置くことが出来るのが結人だ。 俺達にとっての「異物」をアイツは笑顔一つで遠ざける。 俺達を想ってのことではないと思う。そういうヤツじゃない。 俺達に合わせてるわけでもないと思う。他人に合わせることなんてしない。 ――じゃあ、どうして? 「一馬、結人は?」 「あー…藤代んとこ行ってる」 「…そう」 結人が藤代と仲が良いのなんて別にどうでもいい。 一馬は気にしてるみたいだけど、だからといって口を挟んだりはしない。 それに俺は知ってるんだ。結人が藤代を見つけると真っ先に近づいて行くのは、自らが壁になって藤代という名の「異物」を俺達の世界から遠ざけてるんだって。 一馬が藤代のことを気にしているのを知っているから、尚更。 ……あぁ、そうか。アイツは人一倍寂しがり屋だから自分の立ち位置を失うことが怖いんだ。 俺達が「異物」に関わる前に自分が近づいて行って、笑顔という名の壁を築きあげる。 器用なヤツだと思う。それと同時に、不器用なヤツだと思う。 俺達の世界が崩れる日が来たとしても、俺達の関係が崩れる日なんて来る筈がないのに 「結局みんな同じってことか」 「…英士?」 「なんでもないよ。結人のとこ行こう」 早く教えてやらないと。お前はそんなことしなくていいんだって、無理に拒絶する必要なんかないんだって 「あ、若菜。真田と郭 来たよ」 「なんだお前ら、ちょっと離れるだけでも寂しいってか?」 「なんも言ってねーし。結人まじうぜー」 「ガハハ!お前らほんと俺のこと大好きだな!」 「間違ってないんじゃない」 「は?」 「どした英士、悪い物でも食ったか?」 「だって俺達仲良しでしょ」 「…」 「……」 「やべー英士が壊れた気持ちわりー!」 「寝惚けてんじゃねーか?」 「本人前にしてよくそんな酷いこと言えるよね」 「はは!お前らほんと仲いーな!」 幸せにならなきゃいけないんだ。 人並み程度でいいから、高望みなんかしないからだから、アイツだけは、しあわせに 「頑張らなくていいですよ」 告げられた言葉がやさしすぎて 泣いた。 「渋沢先輩って怒るんですか?」 「そりゃ俺だって怒るときは怒るぞ」 「ほんとですか?でもあたし先輩に怒られたことないって言うか、怒ってるとこ見たことないんですけど」 「あぁ、がいるときは機嫌が良いからな」 「…喜ばせるようなことした覚えないんですが」 「がそこにいてくれるだけで俺は十分嬉しいんだ」 その台詞と笑顔は反則だろう。 「うわ、出たよ渋沢の天然爆弾」 「あれで無自覚って相当ですよね」 「がいればにんじん食わなくても怒られないかも…!」 「結人って劣等感の塊だよね」 あぁ、音が通り抜けて行く 空っぽなココロにはどんな綺麗な音色も響かない 足りないピースを埋めてくれるのは、今も昔もたったひとつ 「」 …あぁ、音が通り抜けて行く 「腹減ったー。ちゃんなんか奢ってよ」 「真面目に働いてください山口さん。そして年下に集らないでください山口さん」 「じゃあ俺が御馳走するから一緒に飯行かない?」 「遠慮します」 「俺あと10分で上がりだからさ。それにアイスばっかり食べてたら背伸びないぜ?」 「別にアイスを主食にしてるわけじゃないですし成長期ならとっくに終わりました」 「デザートにパフェもつけるから」 「……デザートは普通のアイスでいいですよ」 「あれ、パフェ嫌い?」 「デザートの前にパフェを食べます」 「やっぱ主食じゃん!」 「あー女ほしー」 「女子高の子と大学生は?」 「両方切れた。俺は遊びだったんだってー」 「お互い様でしょ」 「遊びは遊びでも俺の場合一緒にいるときは本気だし」 「理解できない」 「うっせームッツリ!」 「他の客に迷惑だからボリューム落してねオープン」 やがて劣等感という名の翼が彼の背を突き破ってしまうのではないかと不安でしょうがないのだ。 彼にはそんな歪な翼で空を飛んでなんか欲しくない。 「おい、いつまでこうしてんだよ」 「んー?」 「…寝んなよ」 「起きてる起きてるー」 「言いながら体重掛けてくんな。重い」 「かじゅくん、女の子に重いだなんて言っちゃだめだよ」 「じゃあ退けよ」 「だってあったかいんだもん」 「俺は苦しい」 「だいじょぶだいじょぶ」 「…なんなら交替するか?」 「やだよ、潰れちゃうもん」 「潰そうとしてるヤツの台詞かよ」 「聞こえなーい」 残念ながらわたしはロボットではないので、自分の意思で泣いたり笑ったり怒ったりするのです。 「なぁ英士、彼女が伸し掛かってきてるのにスルーで雑誌読み続けるとか何なのアイツ馬鹿?」 「自分基準で判断しない」 「だってよー。ねぇわ、マジねーわ。あり得ねーバカズマ」 「羨ましいなら素直にそう言えば」 |