「…嘘つきの何が悪いの?なんで謝るの?」
「アンタの些細な嘘で、あたしがどれだけ救われたと思ってんの!?」



優しくなりたいから、
優しいうたばかり歌ってみた。
優しい言葉ばかり紡いでみた。
それなのにわたしはいつまでたっても優しくなれない。
上辺だけ繕っても無駄なのだと、いい加減諦めればいいのに。



「ちょっとそこの人!あたしの有希ちゃんに気安く触らないでください」
「え、?」
「有希ちゃん久しぶりー!会いたかったんだよ!(ぎゅー)」
「私も会いたかったけど、どうしてここにいるの?」
「お父さんの仕事の都合でこっちに引っ越してきたの。新学期からあたしも有希ちゃんと同じ学校だよー」
「ほんと?これから毎日会えるわね!」
「同じクラスになれるといいね!」

「盛り上がってるとこ悪いんだが、そろそろミーティングの続きしてもいいか?」

「あ、」
「あたしと有希ちゃんの仲を裂こうだなんてどういうつもりですか」
「どうもこうも部活中なんだよ」
「ごめん、もうちょっとで終わるから待っててくれる?」
「いいともー!」



たった一つでいいから、誰にも負けない「なにか」が欲しかった。



「携帯鳴ってるよ」
「うん」
「…煩いんだけど」
「ごめんね、電話だから」
「……出ないの?」

がこうして微笑むのは、都合の悪いことがある証拠だ。

「止まったらサイレントにするからもうちょっとだけ待っててね」

それなのに、その顔に頷いてしまう僕はもう末期だと思う。



「笠井くんがあたしのことどう思うのかは自由。だけど、あたしの気持ちまで決めないで」
「想像で決めないで、ちゃんとあたしの言葉を聞いてください」



「もう、戻れないよ」
「そんなことない!だから早くもこっちに…!」
「無理だよ。だって、あたしがあたしを許せないんだ。もう平気でなんかいられない」

汚れてしまった手のひらじゃ何も掴めないことくらい知ってたのに、
それがこんなに痛いなんて思わなかった。苦しいなんて知らなかった。
違う形で出会えたらよかったのに。こんなことになるくらいなら、出会わなければ よかった

「ずっと騙しててごめん。いっぱいありがとう。―ばいばい」

あぁ、これでやっと自由になれる気がする。
身体が重いな。それに、なんだかすごく眠いよ。もう疲れることはしなくていいんだね。
きっとこれが幸せってやつだ。……それなのに、どうして涙が出るんだろう。
嬉し泣きって、こんなに苦しいものだったの?

「……あーだめ、だ。もう、瞼が重いや」

遠くで誰かがあたしの名前を叫んでる。「」って、呼んでる。
そうだよ、それがあたしの名前。無機質な数字じゃなくて、人として生きるための名
誰が付けてくれたんだっけ?誰が、最初に呼んでくれたんだっけ?
今度目が覚めたらいっぱいいっぱい笑いたいな。大声で、みんなの名前を呼びたいな。
だけど、今度なんてないんだ。これで終わり。
いつか終わりがくるとは思ってたけど、まさかこんな風に終わるなんて思わなかったなぁ。
さいごに、名前が聞けるなんて思わなかった。

「あり、が―」

ばいばい、嫌いじゃなかったよ。



「ほんとうは、いらなかったよ。なんにもいらなかった。一緒にいられるだけで、幸せだった」

いつから欲張りになってしまったんだろう。しあわせだったのに。あいして、いたのに



「で、誰なん?」
「私の幼なじみよ」
「有希ちゃんが引っ越すまでずっと一緒だったんだよねー。あなた方より断然あたしの方が付き合い長いんですからね!」
「きみもサッカーやるの?」
「有希ちゃんの華麗なプレーを応援するのがあたしの仕事です」
「できないってことか」
「失礼な!やらないだけですよーっだ!」

「小島さん、ほんと?」
にやらせるとボールが何個あっても足りないの」
「えーと……飛ばしすぎちゃうの、かな?」
「取りに行けなかったり見つからないような場所にね」

「有希ちゃんあたしもサッカー部入る!」
「え?」
「野獣の群れに一人でいたら危ないよ。有希ちゃんはあたしが守るんだから…!」
「男を野獣に例えているのなら小島は一人というわけではないぞ」
「それに他の女子に比べたら小島は男よりだろ」
「うっさい外野!特に顔デカイ人!」



目に見えるものだけが全てだったらいいのに。
言葉なんていらない。知らないことは知らないままでいい。
そうすれば、ずっと好きでいられるでしょう?



「…もう会わないって、言った」
が勝手に言っただけだろ」
「……だめ。帰って」
「何でだよ!」
「もう会わない。結人とは一緒にいられない」
「ッ、意味わかんねーよ。お前が勝手にやるなら俺だって勝手にやる」
「…ごめん。ごめんね」

だいすきだよ。だいすきだから、さよならだ。

「……ほんと、って勝手」
「うん。でも結人は違うよね」

わたしたちは似てる。一緒にいると落ち着くけど、それと同時にいつだって寂しい。
所詮傷の舐め合い。満たされることはない。
お互いに目隠しをし合って蹲っていても、誰も幸せにはなれないから。
――だけど、だけどね。この気持ちに嘘はなかったよ。
あなたを好きだという気持ちに、嘘なんてなかったよ。

「みんな待ってる。結人は前に進まなきゃ」

うごけないのはわたしひとりでじゅうぶんだ。