「じゃあ、好きだって言ったら抱きしめてくれた?」 「…なに、突然」 「答えて」 「……。わからないよ、そんなの」 だって、今はもうあの時とは違うんだ。 「過去形なんかにしないで。思い出してよ……あたし、」 「―ごめん、」 「やだ、」 「お願いだからちゃんと聞いて」 「聞きたくない」 英士はいつもそうだ。昔からそうだった。何も変わってない。 それなのに、どうしてわからないなんて言うの? 変わってないくせに、なんで思い出そうともしてくれないの? 「……ごめん、」 だって、が好きなのは俺じゃないから。 「違う」 「違わない」 「、違う!」 「違わないよ。昔からそうだった。何も変わってないのはだって同じだ」 だから俺達はいつまでたっても平行線のままなんだろ? 「あんたにとっては贅沢な悩みかもしれないけど、誰が何を悩むかなんて人それぞれ。 送ってきた人生も抱く感情も違うんだから。たとえあんたにとって贅沢なものでも、あのこにとっては深刻な悩みなの」 「……わかったような口ぶりだな」 「だって、ずっと見てきたから」 だからあたしの前であのこのこと悪く言うのは許さない。 「もう俺一馬になら抱かれてもいい!」 「ごめんなさい」 「なぁ英士ー嫁に行っていい?」 「聞こえない」 ふとした瞬間に溢れ出すのはきっと、 「あたしもテレフォンショッキング出たい出たいタモリさんの隣座りたい」 「スタジオ物凄い狭いらしいぞ」 「ツッコミ所そこ?ねぇ一馬いいとも閲覧行こうよお」 「あれ18歳以上じゃないと無理」 「誰かから身分証借りればいーじゃん」 「顔写真付きじゃないと駄目でスタッフに必ず1人ずつ本人確認されるから不可能」 「えー…て言うか、なんでそんなに詳しいの?」 「姉ちゃん情報」 きっとその瞳に本当の意味でわたしが写りこむことはないのだろうと、 透きとおるほど真っ直ぐなあなたの瞳を見て、確信した。 ――あぁ、せめて泣くことさえできればどんなによかったか。 「そこに愛があるのかと聞かれれば勿論ないんだけど」 「え、何これ何フラグ?泣きフラグ?」 「それでも放っておくとあたしに苦情が集まってきて迷惑だし」 「スルーとか本気で泣くぞ」 「え、やだかわいくない」 「泣いてイイデスカ」 寧ろ泣かせて。そして慰めて 「無理」 あたしね、ヒーローになりたかったの。ヒロインじゃなくていい。 大好きな人の笑顔を守れる、ヒーローになりたかった。 「誰もわかってくれない?―寝言は寝て言え馬鹿者が」 「このご時世、自分のことだって理解するのが難しいんだ。それを他人に委ねるなんて、馬鹿以外の何者でもないね」 きっとね、出会いの数より別れの数のが多いと思うの。 だからあたしは大切にしていきたいよ。些細なことでいいの。今、この瞬間を大切にしたい。 「だからねぇ――手、つないでもいい?」 |