「午前の練習終わり!午後には練習試合があるので、各自しっかり食事を取るように」

真上に昇った太陽が容赦ない光を注ぐ校庭に監督の声が響き渡った。


「アッチー」
「夏なんだから仕方ないでしょ」
「ほら結人、」

日陰に着くと同時にどさっと地面に寝転んだ結人に一馬が苦笑してスポーツドリンクを渡す。
起き上がろうともせずに手探りでそれを受け取った結人は、冷たいそれを目元に当てながら徐に口を開いた

「こんな暑いとさ、が喜びそうじゃね?」



誰かの願いが叶うころ



「…」
「……」

あの日以来、俺たちの内の誰かの口から彼女の名前を聞ける日が来るとは思わなかったから俺は思わず目を瞠る。
だけど驚いているのは俺だけじゃなかったみたいで、一馬へと視線を向けると中途半端に口を開けたままの間抜け面を披露してくれていた。
俺たちに大きな爆弾を投下してくれた張本人の表情は残念ながらペットボトルに遮られてよくわからないけど―

「アイツのことだから絶対水浴びしたいとか言い出すんだぜ」

突然のことで混乱する俺たちの想いを知ってか知らずか、結人は笑いながら更に言葉を繋ぐ。
どうして、なんて言う事が出来ないほど俺の喉はまるで砂漠のように乾ききってしまった。
一体結人はどうしたんだ。
不意に目の前の親友がわからなくなった。だって、口にすることを頑なに拒んでいたのは結人だったじゃないか。
俺たちの中で結人が一番恐れていたのに。だから俺と一馬は黙ってそれに従ったんだ。
あの夏の日々のことは決して口にしないでくれという結人の無言の訴えに

「そういえば、夏好きだったよな」
「暑いって騒ぐくせにな」
「それは結人だろ」
「えー、違ぇよ」

さっきまで固まっていた筈の一馬まで彼女の名前を口にするから俺はますます訳がわからなくなる。
突然こんな話をし始めた親友たちの意図がわからない。
だけどその反面その名前が心地良くて、俺の頭の中には4人で過ごした夏の日々がぐるぐると駆け巡り始めた。

浮かんでは消える、その笑顔

「なぁおい、誰だって?」
「鳴海には関係ないでしょ」

懐かしい記憶の扉を開ける邪魔をした声に思わず舌打ちをしたくなる。
ピシャリと俺が言い捨てると、鳴海はそれが気に入らなかったのか「テメェ!」と俺の胸倉を掴んだ。
咄嗟に一馬が手を伸ばすのを横目で見ながら、鳴海の沸点の低さに呆れて溜息を吐きだした。

「なに、」
「人が質問してんのにその態度は何だよ」
「どうでも良い人間の質問に態々丁寧に答えないといけないの」
「なっ!…お前とは一度しっかり話つけなきゃならねーみてぇだな」
「止めろ鳴海!」
「俺は話すことなんてないけど」
「英士も落ち着けって…!」

「ねぇちょっと食事中にピリピリするのやめてくれない?」

正に一触即発。
必死に止める一馬の言葉も聞かずに睨み合う俺たちにボーイソプラノの声が響き渡った。

「折角の休憩時間に喧嘩とかウザイんだよね。 玲の言うこと聞いてなかったわけ?午後から練習試合なんだけど。 そんなクダラナイことに使う力があったらその分残して点入れろよ。お前FWだろ。 それに郭、鳴海が女好きなのは今に始まったことじゃないのにコイツの前で女の名前出したら絶対話聞きたがることくらい想像できなかったわけ? ま、お前らの仲が悪くても僕には全く関係ないけど、だから尚更関係のない僕の居る前で喧嘩して食事の邪魔なんてされたくないんだよね。 ―――で、まだ喧嘩したいの?」

何処で息継ぎをしたのかすら分からない椎名のマシンガントークに鳴海はぽかんと口を開けながらも手を放す。
この場が治まったことには安心したけど、それをやったのが苦手な椎名だったことに一馬は微妙な表情を浮かべた。

「まーまー英士の言い方も悪かったわけだし、お互い様ってことで」

今まで黙っていた結人が起き上がりながら笑ってそんなことを言うと、
その言葉に一馬は自分が椎名にからまれないように急いで食事の準備をし始める。

「ところでそのって子は郭の彼女なの?」

鳴海を止めておきながら実は自分も気になっていたようで、
椎名はちらりと鳴海に掴まれたTシャツを伸ばしている俺を見ながら結人に話しかけた。

「ちげーよ!」
「じゃぁ若菜の彼女なわけ?」
「それも違う」

放っておいたら「その通りだ」と胸を張って言い出しそうな結人を見て急いで一馬が口を挟む。
その所為で椎名に視線を向けられて困っている一馬を放っておけなくて俺は一度溜息を吐いてから口を開く。
まぁ、俺が鳴海なんか相手にしなければ一馬はこんな目に遭わなくて済んだんだし。

は俺たちの友達だよ」
「ふぅん」

俺の言葉に椎名はつまらなそうに返事をしてまた食事をしようと顔を背けた。
すると、今まで俺たちのやり取りを静かに聞いていた風祭が「さんとはどうやって出会ったんですか?」と、遠慮しながらも聞いてきたから困ってしまう。
真夏に校外で日陰があるところなんて少なくて、俺たちの直ぐ近くには選抜のメンバーがほぼ全員揃っているんだ。

「あ、ごめん。でも3人とも違う学校だから、その…」
「将の言う通りじゃん。で、誰が一番最初に会ったんだよ?」

風祭の質問が食事に戻ったはずの椎名の興味を湧かせてしまったらしい。
椎名はしつこいから、多分今話さないとこれから煩く聞いてくるだろう。

と初めて会ったのは3人一緒」
「学校でじゃないからな」
「じゃぁ何処で?」
「もう良いでしょ。関係ないんだから」

2人の言葉に不思議そうに首を傾げる風祭に鳴海の時と同じように言い捨てる。
俺たちの中でもずっと封印していたんだ。
なのにどうしてそんな大切な話をこんな大勢の前で話さないといけない?
当然2人もそう思っていると思ったのに、結人の言葉に俺はまた驚いた。
――あぁ、何で今日はこんなに驚いてばかりいるんだろう。

「そー言うなって英士。良いじゃん、折角だから話してやろうぜ」
「……なに、言ってるの」
「だってもう2年だぜ?アイツだって喜ぶだろうし」
「でも!―…一馬は?」
「…俺も、そろそろ良いと思う」
「――そう。勝手にすれば」
「英士…、」

そっと目を伏せて座り込む俺に一馬が心配そうな視線を送る。
俺だってわかってるよ。いい加減、忘れたフリをし続けるわけにはいかないってこと。

「でも結人に話させると碌なことがないから俺が話すよ」
「今勝手にしろって言ったじゃねぇか!な、一馬!」
「英士に賛成」
「うわ、コイツラ酷ぇ!」

一番気にしていた筈の結人に話させるのは酷な気がして俺がその役目を引き受けた。
どうせ椎名たちは誰が話したって良いって思ってるんだろうから、別に俺だって良いでしょ。
目を閉じて静かに息を吸う。カラカラと笑う結人と先を促す椎名の声。
――大丈夫、今でも鮮明に覚えてる。

「俺たちとが出会ったのは2年前。…小6の夏休みに偶然、ね」



あれから2年経った今、俺たちは変わらない毎日を過ごしている。
変わったことといえば東京選抜に選ばれたことくらいで、まるであの夏の日々が幻だったようだ

それでも俺たちは、君と過ごした1ヶ月間を、君の笑顔を忘れたことなんて一度もない。
君がいなくなった今でも、もしかしたらまたひょっこり現れるんじゃないか。なんて、そんな空想に浸っている。
言葉にしないことがいつの間にか暗黙の了解になっていたけれど、絶対。


――ねぇ、俺たちがこんなにも君を大切にしてたこと、気づいてた?





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君との想い出を振り返るのは簡単で、それと同時にとても苦しい。



誰かの願いが叶うころ



「バカズマ!何であの時シュート決められなかったんだよ!」
「なっ!あれはタイミングが合わなかったんだから仕方ないだろ…!」
「……2人ともいい加減にしなよ」


今日の練習試合は2対3で俺たちの負け。
負けたのは悔しいけど一馬を責めたって仕方ない。

「英士は悔しくねーのかよ!?」
「今更俺たちがどうこう言ったって仕方ないでしょ」
「それはそうだけど…」
「あーっもう!試合には負けるしスッゲー暑いしスッゲームカツク!」
「いや意味分かんねーから」
「うっせ一馬は黙ってろ!」
「なっ…!」
「放っときな一馬、結人が意味分かんないのは何時ものことなんだから」
「うっわ英士マジムカツク」
「はいはい」

今年は地球温暖化が原因で例年より暑くて、
結人が苛立ってるのも大方それが原因なんだと思う。
こう毎日暑いと流石に俺だって何かにあたりたくなる。

「水浴びしてープール行きてー泳ぎてー」
「お前我侭言い過ぎ」
「その気持ちも分かるけどね」

異常なほどの暑さにサッカーをやっていても集中力なんて欠けていて
だからきっと今日の試合負けたんだろうな、なんて頭の片隅でぼんやりと考えながら
早く家に帰ってシャワーを浴びたいって思っていた。

「あ、英士上」
「…え?」


バシャ


「……」
「あーぁ、俺知らねー」
「大丈夫か!?」

確かにシャワーを浴びたいとは思っていたけど
でもまさか上から水が降ってくるなんて思ってもいなかった。

「ほら!英士タオル!!」
「ビショビショじゃん!気持ち良いかー?」
「…」

あまりにも突然の出来事に俺は瞬きすらできずに唖然としていて
一馬はそんな俺を見て慌ててタオルを取り出して
さっきまで最上級に機嫌が悪かった結人は、面白いことになったと楽しそうに笑っていた。

そんな時上から声がしたんだ。


「あれ?もしかして人 間違えちゃった?」

見上げるとブロック塀の上に誰かがしゃがんでいて、真っ直ぐに俺を見ていた。
――正確には、俺たちを見ていたんだろうけど。

「…誰?」

その声の人の手元が太陽に反射してキラリと光り、俺はあまりの眩しさに目を細める。
視線の先の彼女は軽々と塀から飛び降りて


よ」

それが、俺たちの始まり。



「本当にごめんね」
「……別に、」

そう言って顔の前で両手を合わせる彼女を見ることなく俺がタオルで髪を拭きながら答えると、直ぐに横にいる結人が口を挟む。

「気にしなくて良いぜ、こいつ何時もこんなだから」
「え、そうなの?」
「そうそう、クール気取った無愛想なんだよ」
「ちょっと結人、」

フォローのつもりなのかもしれないけど、本人前にしてよくそこまで言えるよね。
結人が失礼なのは今に始まったことじゃないけど、聞き捨てならない科白に一応咎める素振りを見せると結人は「冗談だよ、じょーだん」と笑った。

ちゃん、だっけ?」
「うん」

こういったとき必ず話し相手になるのは結人で俺や一馬は黙ってそれを見ているだけ。
元々俺も一馬も社交性に欠けてるから結人が適任だ。
勿論今回も例外ではなく、自然に結人が彼女の話相手になっていた。

「えーと、何であんなところに居たの?」
「……」
「あ、別に嫌なら答えなくても良いけど、突然上から水が降ってくるから吃驚してさ」
「ううん、そうじゃないんだけど…笑わない?」
「へ?」
「えっと、だからね、聞いても笑わない?」
「おぅ!笑わないぜ」

得意の人懐っこい笑顔を向けた結人を見て、彼女は躊躇う素振りを見せながらも口を開く。
そんな2人を俺と一馬は黙って見つめる。

「空を……空をね、掴もうとしてたの」
「「え?」」

想像もしなかった彼女の一言に今まで黙っていた一馬までもが驚きの声を上げた。
俺はただ驚いて何も言えずに。

静かな沈黙が辺りを包むと、彼女は空っぽのペットボトルを両手で握り締めて困ったように眉を寄せる

「あ、えっと…こんなこと聞いたらやっぱり笑っちゃうよね」
「え、や、そんなことねぇって!吃驚しただけだし」
「…―ありがとう」


俺たちは笑わなかった。
――いや、笑えなかった。

空を掴むといったの顔はとても綺麗で、そして哀しそうだったから




---
運命なんて信じてねぇけど、お前がそう言うならそれでも良いと思った。



誰かの願いが叶うころ



「ねぇ、俺にかけたのってただの水?」
「へ?…あぁ、うん。何処の自販機にも売ってる、極普通のミネラルウォーターだから安心して」
「炭酸とかだったら今頃スゲェことになってたんじゃね?」

妙な空気を破ったのは英士の一言。
話を逸らしたりするのはいつも英士の役目で、それに結人が上手く乗ればほぼ完了。
俺はいつも2人に任せてばかりで基本的に何も言わずに通す。




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ZERO GAME(仮)

主人公:結人 高校生設定パラレル
中古で買ったゲームをやったらゲームの世界に入っちゃった。
笛キャラとゲームのキャラが戦ってる。戦闘ゲーム?

ヒロイン・しーなさん・黒川くん・たくちゃん・シゲさん・渋沢さん・藤代くん・えーし・一馬・ゆん
えーし・一馬・ゆんもゆーとのこと若菜って呼ぶ。


ゆーとはリアルの記憶そのままで来たけど、ゲーム内の人間はほとんどリアルの記憶がない。
ある日突然現われて生きるために戦っていく。ここの生活に次第に慣れてく。
減ったり増えたりするのが日常茶飯事。
ゆーとみたいに記憶がある人を「バグ」と呼ぶ。バグの中でも全部覚えてるゆーとは稀な存在。
大抵は自分の名前と年齢。あとは家族構成とかしか覚えてない。
原作設定じゃなくてパラレルだからゆーとはゲーム内の笛キャラのこと知らなくてOK
知ってたとしても親友のみ。でもゲーム内の人間はゆーとのこと知らない。
ラスボス倒せば現実世界に戻れるかもしれない。
ヒロインたちはただ死なないために殺してるだけ。相手が攻撃してくるから。
でもリアルの記憶があるゆーとを帰すためにラスボスぶっつぶそうぜ、みたいな流れ?



「お前の言うことが全て正しいんだとしても、俺達がお前の世界の人間とは限らない。
 ゲーム内に来ることができるくらいだ。同じ人間が複数存在しても不思議じゃないだろ?」

「だけど、俺達がいつの間にかここにいたのは事実だ。気づいたらここにいて、戦ってた。
 お前とは違う世界だとしても、俺達がここで生まれ育ったわけじゃないのも事実」

「若菜の言うことを鵜呑みにするならここはゲーム内なんだろ?
 だったらゲームをクリアすれば元の世界に帰れるかもしれないな」


「若菜。アンタをリアルに帰してあげる」


ヒロイン設定
基本的に無口。戦闘要員。リーダー(まとめ役)は渋沢になってるけどの発言力は大。
戦闘においての腕前も上々で前衛で戦うこと多い。頭脳派でもあるから戦略班としても使える。
銃の腕前もピカイチだが、主にナイフを使うのは殺した感触を忘れないため。
ヒロインは何も覚えてなくて名前もわからなかったから当初はゼロって呼ばれてた。
後にヒロインの兄と名乗る人がゲーム内にやってきて名前と年齢が発覚。
兄はヒロインを庇って死んだ。

戦闘要員:ヒロイン・黒川くん・一馬・藤代くん・シゲさん・ゆん・(ゆーと)
戦略班:渋沢さん・しーなさん・たくちゃん・えーし
基本的に戦闘はみんなできるから必要に応じて戦略班が戦闘に赴くこともあり。



―アンタの言う『人殺し』がそいつを殺さなかったら、今頃そこで転がってたのはアンタだったぜ」

「俺達にとってのリアルはお前の言うゲームの中。お前が認めたくなくたって、ここにいる限りここがリアルだ」

「俺達だって好きで殺してるわけじゃねぇよ。けど、殺らなきゃ殺られるんだ。
 だって同じ。…アイツが主にナイフ使う理由わかるか?忘れないためだよ。自分が『殺人者』だってな」

「戦うために生きてるんじゃない。生きるために戦ってるの。
 ここで生きる度胸もない人間に、そんなこと言われる筋合いはない」

「死んで償う?…笑わせんな。死んで償えるものなんて、一つもないんだよ。
 死にたいなら勝手にすればいい。アンタの自由だ。だけど、生きることを放棄する理由を人に押し付けないで。
 それ、使っていいよ。銃口を口の中に入れて引き金を引けばいい。一番楽に死ねるから」

「嬢ちゃんをあんなに怒らせるなんて、あんさん何しはったん?ある意味才能やなぁ」

「若菜も初めてで混乱してるんだよ。それくらいにしてあげたら?」

「若菜はバグの中でも稀な存在だけどここでは覚えてないやつのが多いんだよ。寧ろそれが普通。
 …に至っては、あっちの記憶なんて何一つなかった」

「アンタ馬鹿?確かにここで死ねばリアルに戻れるかもしれない。
 ここがゲーム内(仮想空間)なら怪我だってリアルではなかったことになるだろうね。
 だけど、肉体は無事でも精神が無事だとは言えないよ。
 ここで怪我をすれば痛いし致命傷にだってなるんだ。脳はそれをリアルだと感じ取る。
 …だから、現実に戻ったときに無事だとは言い切れない。それでもいいなら試してみる?」

「足手まといはいらない。たとえが何も言わなくても、
 キミがいつまでたってもお荷物のままなら僕が追い出すから、覚悟しててね?」

「なんだよここ!だって俺、さっきまで普通に……なのにこんな、突然っ」

「そーか?慣れちゃえば案外楽だぜ。それに、若菜にとってここはゲームなんだろ?
 だったら尚更簡単じゃん。俺達が殺してるのはみんな、ただのキャラクターなんだから」