「泣いてもいいけど慰めないよ」

普通こういうときって嘘でも慰めるって言うんじゃないの?

「―ハ?なんか言った?」
「……ったく、だから止めとけって言っただろ。人の忠告聞かないからこうなるんだよ、自業自得だね」

だって諦められなかったんだもん。
それに、あんなこと言われるなんて思わなかった…。

「ほら、立ちなよ。――憂さ晴らしくらい付き合ってあげるっつってんの!」
「ついでにアイツに一発お見舞いしてやろうぜ」



「溜息つくと幸せが逃げるって言うけど、逃げ出した幸せはどこに行くんだろうね」
「溜息くらいで逃げ出す幸せなんて最初からいらないよ」
「あたしから逃げ出した幸せ全部あげるから、幸せになって」



ほら、もう泣かないの。

「泣いてなかー!これは涙やのうて心の汗たい」

はいはいわかったわかった。ティッシュあげるからちゃんと鼻かんで
もぉ、なんであたしがカズの尻拭いしないといけないのよ。

「う、うぅ……カズさあああん!」

あーごめんごめん何でもない!カズのことは一先ず忘れよう、ね?

「そげんこつ言うても、カズさんが、カズさんが…!」
「カズさんに見捨てられたら俺もう生きてられなか!」

それくらいで死なないから大丈夫。…ちょっとよっさん、見てないでカズ呼んできて!
これ以上仕事が増えたらあたしこそ過労で死んじゃうんだからね!



「好きだよ。嬉しい?」
「……はい?」
「どん底に落ちる前に少しでも良い気分を味わってもらおうと思って」
「聞きたいことは沢山あるけどまず一つ、お前俺をどん底に落とすのかよ」
「あたしが落とすんじゃなくて、そっちが勝手に落ちるんだよ」
「…何だソレ、お前は悪魔か」
「ううん、天使。だからもうさよならだよ」

そう言って、は消えた



「お、やっぱここにいた」
「我慢してんじゃねーよ。おら、さっさと泣け」

なんでわかったの。あたしがここにいるって。泣くの我慢してるって。
若菜の癖に、なんで

「ばーか、俺の勘なめんな。女の勘より結人様の勘のが上なんだよ!」

意味わかんない。てか若菜がいるんだったら意地でも泣かないし。

「そー言うなって!今なら結人クンの胸で泣ける無料キャンペーン中だから。この機会を逃したら高くつくぞ」
「――だから俺にしとけって。な?」

………ばか、

「なんとでも。…あ、言い忘れたけどクーリングオフも返品も不可だからそこんとこよろしく」

アンタはどこの悪徳業者だ、ばーか



「笠井くんのお嫁さんになりたい」
「…」
「藤代くんでもいい」
「……この前渋沢の嫁になりたいっつってたじゃねーか」
「うん。正直三上じゃなければ誰でもいい」
「テメェ、」
「あーぁ、誰か嫁に貰ってくれないかなー」
「いねぇだろそんなやつ」
「中西とか」
「ねぇな」
「えー、でもあたしのこと好きって言ってたのになー」
「アイツは誰にでもあぁだろ。つーかお前の彼氏は俺」
「知ってるー。でも結婚となるとまた別でしょう?」
「…」
「この際他校を攻めるべき?上水とか。ねぇ、どう思う?」
「知るか」
「ふうん。水野くんとか狙い目よね。容姿端麗成績優秀スポーツ万能おまけに家は裕福!女の子の理想が詰まったような王子様」
「…お前、どんだけ俺のこと嫌いなんだよ」
「嫌いだなんて言ってないじゃない」
「じゃあ俺でいーだろ」
「えー、三上かぁ…三上ねぇ」
「何が不満なんだよ」
「だって、一番目に好きな人とは幸せになれないんでしょう?あたし幸せになりたいんだもん」
「……」
「でも第二夫人なら平気かな。三上、第一夫人には予め許可取ってよね。後ろからざくっと刺されるなんてご免だから」
「あぁ、ちゃんと愛してやっから安心しろ」

「キャプテーン、三上先輩達の所為で部室入れないんすけどー」
「……ほんと、ばかですよねあの二人。迷惑すぎます」
「まぁそう言うな笠井。仲が良くていいじゃないか」



悪口を聞くのが嫌いだ。
自分のことじゃないのに、知らない人のことなのに、
胸がぎゅっと押しつぶされてぐじゃぐじゃとした真っ黒いものが広がる気がする。
お世辞にもあたしは「いいこ」なんかじゃない。あたしだってあのこ嫌だなとか、思うことだって何度もある。
自分のことを棚に上げているみたいだけど、でも悪口を聞くのは嫌いなんだ



「なぁ、俺もう行っていい?再放送のドラマ観たいんだけど」

やだ。こんな顔で帰れない。

「じゃあ泣き止めば?てか俺関係ないじゃん」

へーまの薄情者。冷血漢。…それが出来たらとっくにそうしてる。

「あーもうわかったよ。取敢えず涙止めればいーんだろ」
「5秒以内に泣きやまないとちゅーすんぞ」
「…お、止まった。これで心置きなくドラマ観れるな」



「そんな風に笑わないで」
「…そんな風に、笑わないで」

かなしくなる、だけだから



もしかして笑うんじゃなくて泣くべきだった?

「そうですね、泣いていたらあんな誤解はされずに済んだと思いますよ」

あーそっか、失敗しちゃったなぁ。
あたしって昔からここぞという時の選択間違えるんだよね。

「でも良かったです」
「だって俺、先輩の笑顔好きですから」