「ココって何人くらいの人がいるんですか?」 after world
あぁカズさん、相変わらず玉座が似合いますね。今更な質問をしたあたしに最高権力者である神様はぱちりと瞬きを一つ。 あたしがここにいる理由を挙げるならば、仕事内容の報告というのが表向きの理由。 だけど本当の理由はカズさんの気紛れだ。なんか暇らしいよこの人、神様なのに…いや、神様だから? さっきまでここにいた昭栄さんが用意してくれた椅子に腰掛けながら少し距離のあるカズさんを見上げる。 ちなみにあたしの鬼上司は今頃下で手当たりしだい幽霊を捕まえてるに違いない。 「知らんかったんか?」 「はいー。実はあたし、上での事情って知らないことのが多いんですよね」 こくりと縦に首を振ると、神様はますます驚いたように瞬きを繰り返す。 そんなに驚くことかなー?その様子に首を捻りつつ、返事を期待してじっと待つ。 別にそこまで興味があるわけじゃないけど、要するにあたしも暇なんです。話題提供って大事だよね。 「が知りたいんは役目ばあるヤツんこつばいな? 今いるんは俺入れて両手で足りるくらいやったか…そーいえばお前が会ったことあるんっち誰や?」 「えーと…カズさん昭栄さん翼さん黒川さん水野さん郭さん……多分それくらいかと」 「なんや、知らんのは渋沢だけか」 指折り数えて告げれば、カズさんはさらりとあたしが知らない名前を口にする。 どこぞの金髪幽霊みたいに罪を償うために働いている人は大勢いるがその人たちはただの幽霊。 あたしが知りたいのはそれなりに上の立場の人たちのことだ。 告げられた名前を口の中で呟いて、やっぱり知らない人だと頷けばツリ目な神様がニッと笑う。 「渋沢は椎名と水野と同じ立場んヤツやけん」 その言葉に思わず首を傾げる。そもそもあたしは、ココでの上下関係に詳しくないのだ。 あたしの監視担当だった見目可愛らしい少年が実はカズさんと同じ神候補だったという、嘘でしょそれ人選ミスだって!という過去があったのは知ってるし、 前の神様だけでなく現在の神様であるカズさんまでもが翼を次の神候補にしていたのは知ってる。 そして黒川さんと郭さんが翼の一つ下くらいの立場で、昭栄さんがカズさんの秘書だってこと。 あたしが知ってるのはそれくらいで、後のことはさっぱりだ。 ……ていうか、水野さんって結構上の立場だったんですね。あの金髪はそんな人を困らせてばかりいるのか。 人のこと言える立場なわけ?とか、ボーイソプラノの幻聴が聞こえる気がするけどスルーな方向で。 基本的に上の人たちは誰に対してもタメ口だから上下関係がわからないのだ。神様相手でもタメ口だしね。 「ココの最高権力者が俺、そん次に力ばあるんがその三人たい」 「…ちなみに昭栄さんは?」 「アイツんこつは気にせんでよか。俺ん秘書やらせぇっち煩く言い寄っちきよったからそーしただけばい」 ……うん、なんかその光景が目に浮かぶよ。眉を寄せて鼻で笑ったカズさんを見て、強ちあたしの想像が間違ってないことを知る。 きっと物凄くしつこかったんだろう。二、三発殴っても引かなかったんだろうなー。 カズさんによってケチョンケチョンにされながらもしがみ付いて離れない昭栄さんを脳裏に浮かべながら、ふとあることに気がついて頭の中からカズさんの犬を追い出す。 「でも、水野さんと渋沢さんは神様候補じゃなかったんですよね?」 カズさんの前の神様、確か松下さん?とやらが世代交代する際に選んだのは翼。 だけど翼があたしの監視役になって、じゃあもうカズさんしかいないとかそんな理由で神様になったらしい。 いつだったか「他に候補ばおったら絶対ならんかったと」―と、隣で騒ぐ忠犬を見ながら呟いていたのを覚えてるから間違いない筈。 そんなあたしの疑問に帽子のツバをくいっと下げた神様が疲れたように口を開く。 「渋沢は甘すぎるけん候補に挙がらなかったと」 「甘い…?」 「おう。そんで水野やけど、オッサンが神やったときはそん下が俺と椎名と渋沢やったばってん、俺ん場所ば空いたけんアイツが繰り上げになりよっただけたい」 「なるほどー。そうやって全体的に世代交代してくんですねー」 ふむふむと納得しつつ、渋沢さんとやらが甘いというのはどういうことなんだろうと内心首を傾げる。 その疑問を口にしないのは、玉座で足を組みかえた神様が物凄く疲れたように重い息を吐き出したからだ。 一体なにをしたんですか渋沢さん。まだ見ぬ彼に想いを馳せる。 「功刀、ちょっと良いか?」 話題転換でもしようかと口を開きかけたところで、聞き覚えのない朗らかな声が割って入った。 くるりと首を回して振り向けば、カーテンを潜る長身の男の人と目が合う。あ、なんか優しそう。 座ったままぺこりと頭を下げると、資料片手ににっこりと微笑んで会釈を返してくれた。 「邪魔をしたかな?」 「大丈夫ですよー、どうぞどうぞ」 最高権力者がいるこの場所に易々と足を踏み入れられるのはそれなりの立場の人だけ――あたしは例外だけどね。 ささっと手のひらを上にしてカズさんを示すと、長身のお兄さんは人当たりの良い笑みを浮かべたまま尚もあたしに向かって口を開いた。 神様そっちのけで良いんですか?とは思っても口にしない。 「きみはさんかな?」 「はい、初めまして」 「初めまして。俺は渋沢克朗、よろしくなさん」 「よろしくお願いしますー」 差し出された手に自分のそれを重ね、にっこりと営業スマイルを貼り付ける。 あ、もしかして立った方が良かった?今更過ぎるから立たないけど。 名前を聞いても驚かなかったのはあれです、カズさんの返事も待たずに中に入ってきたことからこの人が誰なのかは想像できてたからだ。 なんてタイムリーな登場なんだろう。空気読みすぎてます渋沢さん。 手を離して視線を高く上げた渋沢さんにつられるように、あたしも再びカズさんを見上げる。そろそろ首が限界かもしれない。 「なんね、しゃーしいこつならご免とよ」 「面倒事なんかじゃないさ。ただ、ココで働きたがってる子がいてな」 「これが資料だ」と、手にしていた資料をふわりと浮かせてカズさんのもとへ飛ばす。 見事片手でキャッチしたカズさんは、ちらりと資料に目を落として嫌そうに眉を寄せた。そして嫌々といったように声を出す。 「理由は?」 「彼女の両親が上に来るまで待っていたいそうだ」 「でけん。コイツは何の罪もなかけん順番ばきよったらすぐに転生や」 「だから神である功刀に頼んでるんだろう?」 「絶対にいかん」 「そこをなんとか。彼女は寿命とはいえ親より先に死んだことを悔いてるんだぞ、最後の親孝行じゃないか」 「いい加減にせんね!そーやっちお前はいっつも無駄にココに留まる魂ば増やすやろ!」 「良いじゃないか少しくらい。さんもそう思うだろ?」 「…え?や、あの、」 予想外に投げられたボールを何とか掴んだものの、どうやって投げ返すか悩む。 だって、日頃からあたしには割と優しい兄貴分でいてくれるカズさんが全力で首を横に振ってあたしを見てるというか、睨みつけているのだ。 そんなカズさんとは対照的に、あたしの隣にいる渋沢さんは相変わらず朗らかな笑みを携えている。 そしてまともな返事をしないあたしに嫌な顔一つせずに再びカズさんに視線を戻し、 「噂には聞いていたが、功刀は本当にさんを気に入ってるんだな」と、今度は見当違いなことを言い出した。 ……なんだろうこの人。もしかして空気読めないの?読みすぎてるの?てか天然なの? 玉座の上のカズさんと、全く同時に深く息を吐いた。 「結局押し通されちゃいましたね」 「アイツはいつでんあん調子やけん、オッサンが選ばなかった理由わかったやろ?」 「毎回あれじゃ仕事がはかどりませんもんねー」 「俺もはよ水野に全部押し付けて隠居したか」 「心中お察しします」 A.割と適当
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