「さんが最初に連れて行ったのってどんな人だったの?」 after world
今日も今日とてぷかぷか浮かぶあたしに声を掛けたのは幽霊じゃなくて人間だ。 くるんとした猫目であたしを見上げる霊感少年笠井くんにいつも通りの営業スマイルを貼り付ける。 ちなみにあたしがこうして寛いでいられるのは、鬼上司と別行動中だからである。 監視云々はもう関係ないし、見目可愛らしいあの少年は見た目に反して物凄い力を持っているので、離れていてもあたしの居場所なんて簡単に把握できるのだ。 自由って素晴らしい。思わず頷けば和やかな空気を壊す失礼な声 「詐欺紛いなことして連れてったんだろ」 「まさか。どこぞの爽やかさんとは違って逃げも隠れもしない上にとっても良い子でしたからー」 「爽やかって俺のこと?そんな褒めても上には行かないからな」 「それは残念ですー」 てか褒めてねぇよ。互いに笑顔を崩さずそんなやり取りをしていれば「ほんと仲良いよね」と笠井くんが楽しそうに笑う。 猫目少年の目には一体どんなフィルターが掛かってるんだ。それでも笑顔を崩さない自分を褒め称えたい。 「2人の仲の良さに比べたら遥かに劣るよ。それより最初に連れてった人の話だったよね」 「あ、うん。聞いといてなんだけど、それって俺に話しても平気?」 「だいじょぶだいじょぶ。言えないことは言わないから」 「意外にしっかりしてるよなー」 「仕事ですからー」 茶化すような台詞をさらりと受け流して、ついでにあたしの横を浮かんでいる光宏さんの存在ごとスルーするつもりで笠井くんに視線を合わせる。 視線の先の笠井くんはやっぱり楽しそうに笑っていた。ちょっぴり複雑。 「最初に連れて行ったのは迷子になってた小動物系のちびっこだったんだよ」 「翼さーん、そろそろ休みませんかー?」 「ふざけんな」 この鬼上司め。あたしが少年に恨みがましい視線を向けるより先に少年からの鋭い視線が突き刺さる。 慌てて顔を背けて幽霊を探すふりをすると呆れたような溜息が落ちた。 「あそこ」 「はい?」 「あそこにガキがいんだろ。この距離で気づかないとかほんと馬鹿じゃないの」 「否定できませんー。取敢えず行ってきます」 翼の辛口トークを真に受けていたら心が砕けるので、スルーすることを覚えたのはコッチに来てすぐだったなー。 きょろきょろと辺りを見渡しているちびっこに近づく。営業スマイルの準備はオッケー。よし、営業開始。 「こんにちはー、ちょっとお話聞かせてもらってもいいですかー?」 びくりと肩を揺らして振り返ったちびっこはあたしの顔を見るとほっとしたように胸を撫で下ろした。 お、ちょっと可愛いかも。くりくりと動く丸い目が小動物のようで愛らしい。 「わたしくと申しますー。怪しいものじゃないので安心してくださいね」 「あの、ぼく、」 困ったように眉を下げるちびっこに首を傾げると、何かを決心したかのようにぐっと両手を握って口を開いた。 「ぼく、幽霊なんです!」 「……お仲間ですねー」 「それであの、行かなきゃいけない場所があるのはわかってるんですけど行き方がわからなくて…それに、その前に行きたい場所があるんです」 「どこに行きたいんですかー?」 「ぼくのお父さんとお母さんのお墓です」 「…ご両親の、お墓ですか?」 「はい。いつもお母さんたちと車で行ってたから道とか覚えてなくて…」 しゅんと肩を落とすちびっこに内心首を捻る。亡くなった両親の墓参りに母親たちと行っていたなんて、その言葉だけを聞くとあまりに矛盾している。 本当の両親が亡くなってからどこかに引き取られたのだろうか。…ま、どうでもいいけど。 「ご両親のお墓参りをした後はどうするんですか?」 「行かなきゃいけない場所に行こうって思ってます。えっと、行き方がわかればなんですけど」 「それなら大丈夫ですよー」 「え?」 「あたしがお連れしますから」 「で、墓参りをした後にちびっこを連れて行ってお終い」 「無事に見つかって良かったね」 「その頃からお節介だったんだな」 爽やかな笑顔を浮かべていようが言ってることは爽やかじゃない。にっこり笑った笠井くんだけが癒しだ。 そういえばあれが最初だったなー。幽霊相手に情なんか移さずさっさと連れて行けとお小言を飛ばす翼を言い包めるのは物凄く大変だった。 トラウマにしかならない記憶には厳重な鍵を掛けて心の奥底に沈めておこう。精神衛生上よろしくない。 そんなことを考えていれば、笠井くんが小さく声を漏らした。 「お迎えみたいだよ」 斜め後ろから突き刺さる視線に口許が引き攣りそうになるのをなんとか堪え、霊感少年にさよならの挨拶を済ませる。 隣で爽やか幽霊が何か騒いでる気がするけどそんなの知らない。振り向いた先の天使サマは可愛らしいお顔を歪めていた。 「なにサボってんだよ」 「情報収集してたんですよー」 「へぇ、それじゃあボクが何もしなくてもが幽霊捕まえてくれるんだね」 「えーと……」 言葉を濁すあたしに天使サマの極上スマイル。あ、どうしよう。嫌な予感しかしない。 「トンネル行ってこい」 「それだけは勘弁してくださいー」 いつかのトラウマが蘇る。この記憶も厳重に鍵を掛けて沈めようと心に決めた。 「本当のことを知らないままで良かったんですか?」 「ぼくにはお父さんとお母さんが2人いる。それってすっごく贅沢で幸せなことだから、それだけでいいんだ」 「将くんのご家族は幸せ者ですねー」 「え!そんなことないですよ…!」 「照れなくてもいいんですよー。…さて、そろそろ行きましょうか」 「はい。色々とありがとうございました。お姉さんのお陰です」 「いいえー、仕事ですから」 A.風祭将
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