「武器も確認したし、お次は情報交換と行こか。自分バトロワについてどんだけ知っとる?」
「さっきの説明と、後は映画化された時にテレビでよく宣伝してたから、その程度」
「何年前やっけ?」
「はっきり覚えてないけど、まだ小学生だった」
「せやな。ガッツリ年齢制限引っ掛かっとったわ」
「タメでも観たことあるやつは居たけどな。販売レンタル後はどうにでもなるし」
「俺もその口やで。せやから、薄らやけど映画の知識ならある」


とん、人差し指で米神を弾く。

バトロワの知識がある者なら誰だってあの教室でプログラムのルールを聞きながら埃を被った記憶を掘り起こし、重ね合わせた筈だ。
俺が引っ張り出せたキーワードは、「中三、無人島、ランダム武器、定時放送、禁止エリア、タイムリミット、首輪」。 異なる物については説明があった。タイムリミットは確か二十四時間ではなく数日だった気がしたが、 それは原作と映画の違いなのかもしれない。…こんなんやったら原作にも手ぇ出しとくんやったわ。

ここで大事なのは七つの単語の一番最後。首輪だ。
発信機が付いているのでこれで生存確認をしていること、 更には爆弾が付いているので無理に外そうとすると爆発することは聞いたが、 俺が知っている首輪にはもう一つ重要な役割があった。


(原作に惚れ込んだっちゅーくらいや、ここも忠実やろ?)


取り壊しを待つだけの廃校には机と椅子だけでなく、壁には掲示物がそのまま貼ってあるし 黒板にはチョークも黒板消しも置き去りにされている。 小指にも満たない白いチョークを取って、ちらりと天井付近を見上げる。


「何やってんだよ」
「お偉いさんが見てるんやから、サービスしとかな。はーい、皆のアイドルシゲちゃんやでー」
「映像だけで音は入らないって言ってたぞ」
「そやっけ?」


果たして原作でもエリア中にカメラが設置されていたのかは知らないが、モニター越しに殺し合いゲームを 愉しみたい阿呆どもにとっては無くてはならないものだ。こちらが大人になって目を瞑ろう。
この教室のカメラは前と後ろに一台ずつ。電源は外から取っているので長いコードが伸びている。 (切ったらアウトやん。ざまあ。) 俺が動いてもカメラが追って来ることはない。アングルは固定か。死角も作れるな。

ばっちりカメラ目線で愛嬌を振り撒いた後、呆れた視線を寄こす水野の正面に座り床に落書きをする為背中を丸める。


「棒が一本あったとさー」


漢字を思い出すのに一瞬手が止まったがカツカツとチョークを滑らせ、 同じく背中を丸めて覗き込むように文字を追った水野が顔を上げた際に首輪を指せば 直ぐに理解したと頷いたので絵描き歌を口ずさみながら更に文字を増やす。


「葉っぱかな?葉っぱじゃないよ、タツボンだよ」
「おい」
「嫌やわタツボン、可愛いジョークやん」
「そんな気持ち悪い絵さっさと消せ」
「あー!俺のタツボンがー!!」
「きもい。てかお前これちゃんと知ってんのかよ」
「知らん。誰かに聞こか」
「それより手洗いたいんだけど…水道も止まってるんだったか」


デイパックに水の入ったペットボトルがあることは知っているが、水は貴重だ。
この程度で消費するのは勿体ないことくらい理解しているので、 溜息を吐いて粉の付いた手を払う水野に倣って白くなった指を服の裾で拭った。


「風祭たち探しに行くか?」
「…小島も心細いやろし、不破センセーにも会いたいけど、もう暫く様子見やな」
「……あいつか」


苦々しげに眉を寄せた水野にこちらも曖昧に笑みを返す。 水野がスタートした時に教室に残っていた不運な参加者は四人。内一人は言わずと知れた要注意人物で、 桜上水のメンバーと合流したいのは山々だったがまずは彼女と距離を取るべく真っ直ぐ最上階を目指したのだ。


「普通の子に見えたんやけど、な」